温もりが無くて・・・

まだ朝日も顔を覗かせていない早朝。

起床時間よりも少し早めに起きる私が、珍しく目が覚めてしまった。

目が覚めたら最初にする事は、隣に居る繋さんを見る事。

そうする事で、その日の私は就寝するまで気分良く過ごす事が出来る。

・・・なのに。


「繋さん・・・?」


いつもは横で私が起きるのを待っていてくれるか、まだ眠っているかの繋さんの姿が無かった。

これでは私の目が覚めてしまうのも当然だ。

彼の温もりを感じて眠り、彼の温もりを感じて目を覚ます。

そうする事が当然であり必然・・・。

なのに今はどうだろう?

その彼の姿が無い。


「・・・ダメだな繋さんは。何処か行くなら私に一声かけてって言ったはずなのに。」


きっと寝ている私を気遣っての事だろう。

その優しさは嬉しいが、勝手に居なくなる事はイケない事。

戻って来るのを待っていられる私じゃない、すぐにでも部屋に連れ戻そう。

ベッドから降りて、繋さんを探すために部屋を出た。

見つけたら部屋に戻って、もう一度教えてあげないといけない。

私が不安になるような行動はしちゃダメだって。

そう教えた後に、優しくキスでもしてあげよう。

私も幸せだし、普段は驚いた顔をしているが、きっと繋さんも同じ気持ちなはずだから。


「私の大好きな繋さんは何処かなぁ~❤」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい・・・・・・。

何処にもイナイ、私の繋さんが何処にも・・・・・・イナイ。

家中探し回った、リビングもキッチンもお風呂もトイレも空き部屋も。

朝日がようやく顔を出し始めた頃には、メイド達も起きて来たので一緒に探し回った。

庭も、家の周りも全部探した。

なのになのになのに・・・・・・どこにもイナイ・・・。


「嘘よ・・・繋さんが・・・イナイ・・・」


口にすればその分、体に何かが伸し掛かったみたいな重さを感じて、立っていられなくなる・・・。

ペタンとその場に座り込んだ私に、メイドが近づいて来た。


「しっかりして下さい。きっと少し外にでも出ていられるのでは・・・」


私はそのメイドを睨みつけた。


「ふざけないで!繋さんが私から離れるわけが無いの!黙って外に行くわけがないの!しっかりして?繋さんが居なくなったのにそんな事できるわけないでしょ!!!」


こんなに大声を張り上げたのも、メイドに向かって言い返したのも、何もかも、以前の私じゃ考えられないような行為だった。

それほどに、私にとって「繋さん」という存在は無くてはならない。

繋さんが私の傍に居ない未来なんてイラナイ。

だから、死んでも探し出す。


「・・・今すぐ繋さんの居場所を調べなさい。アレがあるでしょ・・・。」


アレ・・・。

繋さんに着けてあげたチョーカーに仕込んだアレ・・・。

繋さんがずっと傍に居れば使わなくて済んだはずなのに、使う羽目になってしまった・・・。

私の大声に驚いていたメイド達はハッと我に返り、頭を下げて、繋さんの居場所を探すために動き始めた。


「イケナイ繋さん、私に心配させるなんて。・・・・・・本当はしたくないけど・・・お仕置き、した方がいいかな?」


呟いた言葉に、返事を返す人なんて居なかった・・・。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「・・・んっんぅ・・・、うぅ・・・、ここ、は・・・?」


重い瞼を持ち上げ、目を覚ます。

体が重く、上手く動けない。

変な体制で横になっていたのだろうか、左の手足が痺れている。

目だけ動かして、今いる場所を見る。

部屋の広さ的にはワンルームくらいだろうか。

出入り用のドアがあるだけで、窓は無く、天井は立ち上がって背伸びをすれば簡単に手が届きそうな高さだ。

自分が寝かされているベッド以外、何も置かれていない。

ただ、壁や天井はピンクで塗装されている。

そんな感じの四角い部屋。


「・・・何で、ピンク?・・・まるであの子の・・・っ!!」


あの子の部屋みたいだ・・・、そう言おうとした時に思い出した。

月明かりに照らされた、少女の姿を・・・。


「・・・そうだ、俺・・・あの時・・・」


段々とあの時の事を思い出してきた。

まさか俺は・・・拉致されたのか・・・?

考えたくない想像をしていると、ただ一つのドアが、ノックも無しに開けられた。


「あら、おはよう繋❤良い夢は見れた?」


入って来たのはまさに今、思い出していた少女だった・・・。

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