今までを考えて・・・
翌日からは何事も無かったかのように深弥お嬢様を学校までお見送りした。
また昨日みたいになってしまえば今度こそ俺一人では対処出来ない・・・何て思っていたのだが、今日は金髪の少女とは会う事はなかった。
先に行ったのだろうか・・・それとも今日も休みなのだろうか・・・。
どちらにせよ、今の俺からすればありがたかった。
こんな事を言うのは正直どうかと思うが、深弥お嬢様の事でも頭が一杯なのに、そこに我儘な元お嬢様まで絡んでくるとなると・・・体が持ちそうにない。
「んぅ・・・。まだ眠たいな、疲れが取れてない感じがする・・・。」
帰ったらほんの少しだけ仮眠でも取ろう。
その後はメイドさん達の手伝いをして、深弥お嬢様のお迎えだ。
疲れきった体を引きずる様にして、俺は帰った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
深弥お嬢様の話では、今日も金髪の少女は学校を休んだらしい。
普通ならそこで心配して終わる事だが、あの神之超のご令嬢が二日も続けて休んだものだから、学校ではその話で持ちきりだったそうだ。
学校に神之超のメイドさんから連絡はあったそうだが、詳しくは誰も知らないと・・・。
「私としては、また何か言いがかりを付けられなくて助かるなぁ。・・・昨日の事が相当効いてるみたいだね❤」
「・・・。」
黙って深弥お嬢様を見る。
俺の顔を見た深弥お嬢様はクスクスと笑っていた。
「もう、冗談だよ繋さん!そんな顔しないで?ね❤」
俺の手を取り、俺の指に自分の指を絡めてくる。
銀眼には俺だけが映っている・・・。
「そんな事よりも、私お腹空いちゃった。少し早いけど夕食にしよう?」
「分かりました。では、メイドさんにそう伝えてきます。」
頭を下げてから部屋を出て行こうとすると、呼び止められた。
「あっ!その前に・・・」
「?」
「お風呂が先ね❤」
最近はその日の気分でお風呂が先か、夕食が先か変わる深弥お嬢様。
・・・今日はお風呂が先の様だ。
俺が神之超に居た時に、元お嬢様にしていた事がバレて以来、同じ事をこっちでもやらされている・・・。
その中でも「お風呂」だけが、どうしても苦手だ。
元お嬢様は体を洗ってとかくらいで、返答に困る事と言えば自分の裸はどうかとか聞いてくるくらいだった。
・・・しかし、この深弥お嬢様に至ってはそれに加えて過剰なスキンシップを図ってくる。
お風呂なんだから勿論裸だ。
そんな状態で抱き着いてきたり跨ってきたり・・・。
俺は服を着ているといえ、ワイシャツ越しでも伝わる少女の柔らかさが、俺から冷静さを奪う・・・。
執事としてでは無かったら、とっくにお縄だ。
当の深弥お嬢様はそれが気に入っている様だが・・・。
「・・・準備しておきます。」
「うん❤今日も私の体の隅々まで綺麗にしてね❤」
少し仮眠を取って疲れが取れたと思っていたが・・・また一段と疲れそうだ・・・。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
夜中に目が覚めた。
隣では深弥お嬢様が可愛らしい寝息を立てている。
昼に仮眠を取っていたからか、普段はこんな時間に目が覚めることなんて無いのに・・・。
「ちょっと、喉が渇いたかな・・・。」
深弥お嬢様を起こさない様にベッドから降りて部屋を出る。
キッチンへ向かいコップに水を注いで、それを一気に飲み干した。
「ぷはっ・・・美味い。」
夜中に食べたり飲んだりするのは何故こんなに美味いんだろうか。
寝起きなのもあるのか。
すぐに深弥お嬢様の自室に戻らず、そんな事を考えていた。
こんなどうでもいい様な事を考える暇も無いくらい、俺の日常は変化した。
職を失い、成り行きで神之超家のお嬢様の執事になり、その数か月後には更上神家のお嬢様の執事・・・、そして今に至る。
人生何があるか分からないとは、良く言ったものだ。
「俺ずっとここで執事やっていくのかな・・・。」
深弥お嬢様が俺の事を「夫」だと言っていたとメイドさんから聞いた事を思い出した。
好かれるのは嬉しいが、その表現は飛び過ぎている。
深弥お嬢様にはもっと相応しい人を見つけてもらおう・・・。
「・・・って俺は保護者か。・・・そろそろ戻ろう。」
あんまり長居して深弥お嬢様が起きてしまったら、お叱りを受けるのは俺なんだから・・・。
たまに思うが、もし俺が執事を辞めたら、今の深弥お嬢様を見ている限り、何処までも追ってきそうな感じがして怖い。
「俺なんかの何処が良いんだか・・・。」
独り言を呟きながら戻って行く・・・・・・その時。
「ん、何だ?」
窓の外、塀の向こうで何かが動いたのを目にした。
この家の塀は結構な高さがある。
見間違いでなければ今の影は人にも見えた。
・・・中を伺っていたのか?
「まさか侵入しようと・・・」
急いでメイドさんを呼ぼうと思い駆け出した。
しかし立ち止まって考える。
こんな夜中に起こしてしまって、もし見間違いとかならどうしよう・・・。
メイドさん達は明日も朝早いはずだ。
それにハッキリと見えたわけでもないし・・・。
「・・・よし。」
俺は一人で確かめる事にして、その場所まで向かった。
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