教えて・・・

深弥お嬢様にキスされた・・・。

これで2回目だ。

最初の時同様、いきなりの事だったから思考が停止してしまった。

でもそれだけじゃない。

今度は、他人が見ている前で・・・・・・金髪の少女が見ている前でやられた。

・・・まるでそうするのが目的だったみたいに・・・。

思考が停止していた俺の耳に奇声にも聞こえる叫び声が聞こえた。

その声で我に返った瞬間、深弥お嬢様から離れて横を向くと、小さな拳が深弥お嬢様の顔目掛けて、俺の目の前を通り過ぎて行った。

俺は反射的にその腕を掴んだ。

おかげで深弥お嬢様にその拳が届く事は無かった。


「!?離しなさい繋っ!!こいつだけは死んでも許さないっっ!!」


腕を掴まれながらも暴れる金髪の少女。

手を離してしまえば最後、最悪な事になるとしか想像できない。


「落ち着いてください!暴力はいけません!」

「落ち着けですって!?自分が何をされたのか分かって言っているの!?いいから離してよっ!!こいつを滅茶苦茶にしてやるんだからっっ!!」


もう何を言っても火に油だった。

片手だけでは抑える事が出来ず、両手を使って深弥お嬢様に近付けさせない様にする。

今のうちに深弥お嬢様を遠くに行かせなければ。


「深弥お嬢様!・・・」


声を掛けて離れる様に伝えようとしたら、逆に深弥お嬢様は暴れる金髪の少女に自分から近づいて行った。


「観念したつもり!?今更許すわけないでしょっ!!こっちに来なさいよっ!!蹴り飛ばしてやるっ!!」


腕を掴まれているから今度は脚をバタつかせ、近づいてくる深弥お嬢様に蹴るモーションを見せつけた。

それに対して全く興味が無さそうに近づいていた深弥お嬢様が、蹴りがギリギリ届かない距離で立ち止まった。

そして、笑顔で言い放った・・・。


「良い事教えてあげる。繋さんとキスしたのは、これで2回目なの。どういう事か分かる?・・・繋さんの初めては、もうとっくに私のモノなの。」


腕の中の少女がピタリと動きを止めた。

・・・と、思えば次の瞬間には、


「あああああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」


凄まじい叫び声を上げ、より一層力強く暴れだした。

髪は乱れ、衣服も乱れ、靴も片方脱げている。

それでも目の前に居る深弥お嬢様を睨みつける事は決して無かった。


「深弥お嬢様!これ以上はやめて下さい!」

「分かってるよ。」


余計に少女を怒らせる事をした深弥お嬢様に一言言った。

だが今となっては後の祭り・・・一体どうすれば良いんだ・・・。

抑えるのに精一杯な俺がどうやって収拾をつけるか悩んでいると、前から数台の車が走って来て、俺達の近くに停車した。

その車から降りてきたのは、俺も見慣れた、神之超家のメイドさん達だった。

メイドさん達は暴れる少女を数人で抑えて、そのまま乗ってきた車に連れて行こうとしていた。


「アンタ達なんの真似!?離しなさい!聞こえないの!?離せっ!!」


尚も叫び暴れる少女は、車に乗せられた。

酷く揺れている車は、そのまま走り去って行ってしまった・・・。

残された俺に、メイドさんが話しかけてきた。


「お久しぶりですね、無逃さん。」

「お久しぶりです。・・・あの、どうしてここに?」

「光璃お嬢様を送り届けていたメイドから連絡があって、すぐにこちらに向かったんです。」


どうやら車を運転していたメイドさんが、この騒ぎを見て他のメイドさん達に連絡を取っていたらしい。

あんなに叫んでいたら、流石に近くに居たメイドさんには声が届いていたのだろう。

でも、学校の関係者や生徒、一般の人に見られなかったのが幸運と言えばそうだ。

俺一人ではどうする事も出来なかったから、助かった。


「それでは、私はこれで。念のため、お嬢様には今日は学校をお休みしていただきます。」

「・・・そうですか。ありがとうございました。」


お辞儀をしたメイドさんは、車に乗って去って行った。

それを見届けた俺に、深弥お嬢様が話しかけてきた。


「じゃあ私、学校行くね!」

「えっ・・・ですが・・・」

「大丈夫だから、帰りも迎えに来てね!」

「・・・・・・分かりました。」


俺の返事を聞いた深弥お嬢様は、そのま学校の方へ歩いて行った。

色々聞きたい事があったが、深弥お嬢様のお迎えの時間まで待つしかないか・・・。

二度も奪われた唇を、指先で触れた・・・。

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