風が吹いて・・・

ドスッ!ドスッ!ドスッ!

枕に拳を沈める音が部屋に響く。


「あのっ!銀髪っ!生意気なのよっ!」


今朝あった事を思い出して、怒りの矛先を枕に向けて放つ。

大好きな執事が辞めた。

それが一番気に食わない奴の仕業で、更にそいつの家に居る・・・。

考えただけでも自室を荒らしかねない。

だからこうやって何度も枕に叩き込んでいる。


「私のですって!?寝言が言いたいならっ!!ずっと寝たきりにしてやるわよっ!!!」


今までで一番のストレートが叩き込まれた。

ベッドもキシキシと悲鳴を上げている。

息を切らしながら、ベッドから降りる。

そのまま机の前まで行って、ある物を手にする。


「繋、待ってなさい。また私の隣に居させてやるんだから。」


ギュッと胸に抱きしめる、黒いチョーカー。

まだ微かに匂いが残っている。

・・・大好きな執事の匂いが・・・。


「繋、・・・んんぅ❤」


はしたないと思いつつも、匂いの残るチョーカーを手にしたまま一人で行為に耽る。

こんな所を家の誰かに見られたりしたら生きていけない。

そうなったら、彼に責任を取ってもらって、二人で静かに暮らそうか・・・。

勿論、彼以外の人間をクビにして、この家で二人きりで・・・。

そう考えたと同時に、絶頂に達した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


深弥お嬢様と腕を組みながら道を歩く。

昨日、深弥お嬢様から一緒に登下校してと言われたから一緒に学校に向かっている最中。

以前目にした白いリムジンで行くのかと思っていたが、いつも通り歩いて行くようだった。

しかしこれが目立って仕方がない。

銀髪銀眼の美少女が道を歩いているだけでも目立つと言うのに、それに加えて横には執事。

しかもプラスで腕組・・・。

すれ違う人、通り行く人、皆が皆こっちを見る。

横を歩く深弥お嬢様は気にしていないようで、ご機嫌である。

毎日一人で歩いて登校していたから慣れたんだろうなぁ・・・。


「繋さん。」

「はい、何ですか深弥お嬢様?」

「周りからは、今の私達はどういう関係に見えているのかな?」


唐突にそんな事を聞いてくる深弥お嬢様。

あまり深く考えず、真っ先に思った事を伝えた。


「お嬢様と執事・・・じゃないですか?」

「そうじゃ無くて、もっと別の。」

「えっ?・・・・・・兄妹、とか?」

「・・・・・・むぅ~~~っ!!」


俺の答えに納得出来ないのか、頬を膨らませてポコポコと俺の腕を叩く深弥お嬢様。

わざと弱くしているのか、全く痛くは無い。


「いや!あの!ごめんなさいごめんなさい!謝りますから許してください深弥お嬢様!」

「嫌!ちゃんと答えるまで許さない!」

「そ、そんなぁ。・・・ほら!もう学校に着きますよ!皆に見られても良いんですか?」

「・・・・・・帰ったらちゃんと答えてもらうからね!」


見えてきた学校を指さしながら言うと、何とか叩くのを止めてくれた。

・・・いくつか回答を考えておこう。


「・・・?深弥お嬢様、どうかしましたか?」


深弥お嬢様が急に立ち止まった事で、俺も強制的にその場に立ち止まった。

声を掛けても返事が無い。

何かを真っ直ぐに見つめて・・・・・・いや、睨んでいた。

深弥お嬢様の視線の先に、俺も視線を移す。

風が吹いた・・・。


「迎えに来たわよ、繋。」


綺麗な金髪を靡かせている我儘なお嬢様が・・・、俺を見つめながらそう言った。

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