もう居なくなって・・・

家に着いても繋は出迎えもしなかった。

私の事以外に優先する事なんて無いはずなのに、どうしてそうやって私を不機嫌にさせるのか。

速足で自室まで行く。

此処にも居ない。


「・・・お母様の部屋。」


メイドが言っていた事を思い出し、もしかしたらお母様の部屋に居るのではないかと、すぐにお母様の部屋へ向かった。

部屋へ向かう途中、他の部屋も確認してみたが何処にも居なかった。


「どうして私がこんな事しないといけないの!」


いつもなら繋が私の元へ駆けつけてくれるのに、今は真逆だ。

これは相当なお仕置きが必要のよう。

泣いたって許さない。

お母様の部屋のドアが見えると、ノックもせずに中へ入った。


「繋!!」


探している執事の名前を叫びながら部屋の中を確認する。

・・・しかし、此処にも居ない。

居るのは、椅子に腰かけているお母様のみ。

ギリッと歯を鳴らし、此方を見ているお母様の方へ近づく。


「お母様、繋は何処なの。迎えにも来なければ出迎えも無いわ。私の執事とあろう者が。」


イライラとしながらお母様に向かって話す。

しかし、対するお母様は、いつものように口煩く私に小言を言ってくるような事は無く、真っ直ぐに私を見つめて言った。


「光璃、よく聞きなさい。無逃さんはもう貴女の執事ではなくなったの。」

「・・・・・・はい?」


言っている意味が理解できなかった。

繋は私の執事で、・・・私の好きな人。

それ以外の何でもない。

なのに、今なんて言った?

混乱し始める私に、お母様は更に追い打ちをかけた。


「貴女を学校に送った後・・・辞めたのよ。・・・これ。」


机の上に置かれたのは、私が繋に着けてあげたチョーカー。

繋の首に、これからも着いているはずだった・・・。


「・・・嘘よ。・・・・・・嘘嘘嘘ウソウソウソっ!!」


言われた事と、目の前に出されたチョーカーを見ても、信じたくなかった。

だって繋はこれからもずっと私の傍に居ないといけないのよ?

なのに何で勝手に居なくなるわけ?

将来的には私と結婚して、子供が産まれて、幸せに暮らすんじゃない。

なのに何で・・・!!


「光璃。」

「っ!?」


私の隣に来て、私の肩を掴んだお母様。

酷く悲しそうな顔をして、首を横に振った・・・。


「もう無逃さんは居ないの。・・・もし光璃が執事が欲しいって言うんなら、新しい人を雇うから。ね?」


幼い子供に言い聞かせるようにお母様は言った。

あのね、お母様。

仕事が忙しくて私にあんまり会えない事は分かっているけれど・・・。

・・・・・・私、もうそんなに子供じゃないのよ?

自分の好きな人くらい、自分で決められる。


「・・・嫌よ。」

「光璃・・・。」

「私の執事は繋だけ!!他なんて居るわけない!!」


私の肩を掴んでいたお母様の手を払いのけて、逆に私がお母様の肩を掴んで質問攻めにする。


「何処に行ったの!!どうして辞めたの!!どうしてお母様は繋を止めなかったの!?私の執事よ!?どうして私に何も言わずに辞めるのよ!!?」


息を切らしながらも口々に言葉をぶつけた。

お母様はそれに、落ち着いた様子で答えた。


「何処に行ったのかまでは分からないわ。それにね、元々無逃さんは3か月だけって期間が決められていたの。今はまだ居たとしても、後1か月後には辞めていたのよ。・・・それと、辞めた理由は、今は話せないわ。いつか、話せる時が来たら話すわ。」

「何よそれ。」


今聞いたこと、全部初耳だった。

期間が決まってた?

後1か月後には辞めてた?

辞めた理由は今は話せない?

・・・・・・フザケルナ。


「光璃!何処に行くの!?」


何も言わずに部屋を出て行こうとした私をお母様が引き止めようと声を掛けてきた。

私は振り向きもせずに答えた。


「決まってるでしょ、繋を連れ戻すのよ。引きずってでもね。」

「ダメよ!無逃さんには無逃さんの・・・」

「お母様、私に何か隠してるわよね?」

「っ!?」


何も言い返さない所を見ると図星の様だ。

きっと、「今は話せない理由」って言うのがそうだ。

なら、話せないなら話さなくていい。

私が自分で聞き出す。

私の部屋でたっぷりじっくりと・・・。


「仕事に戻らなくて大丈夫なのお母様?・・・楽しみにしてて。次にお母様が帰って来た時には、いつも通り、繋が私の傍に居るから。」


それだけ言い残して、私は部屋を出て行った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


光璃のあんな所は初めて見た。

仕事にかまけてあんまり一緒に居る事が出来なかったけど、それでも親として娘の事はある程度分かっていたつもりだったけど・・・。


「・・・そんなに、無逃さんの事が・・・。」


あれは無逃さんを好きだとか一緒に居たいだとか、そんな事では済ませられない様だった。

もっと、ドロドロとした何か・・・。

独占欲の更にその先。

まだ子供だとばかり思っていたのに・・・。


「愛は子供ですら変えるのかしらね・・・。」


懐から、一枚の写真を取り出す。

そこには、まだ幼い頃の娘が、今となっては見せなくなった笑顔で映っていた。


「ごめんなさい無逃さん。私はどうあってもあの子の母親です。止めなければいけないと分かっていても、娘には笑顔でいてほしいんです・・・。」


せめて、最悪な結果にならなければ・・・・・・。

心の中でそう願い、私は部屋を出て行った・・・。

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