また着けられて・・・

やはり大企業のご令嬢となると、高級なシャンプーでも使っているのだろうか、抱き着いている深弥お嬢様からいい匂いがしてくる。

・・・変態じゃない、俺はノーマル・・・だと思いたい。

だから深弥お嬢様に告白された時にドキッとしたのも、いきなりだったからだと願う。


「あの、深弥お嬢様?・・・そろそろ離れてほしいんですが・・・」

「イヤ、まだこうしてる。」


腕のだけでなく、足まで俺の腰を力いっぱい挟んでくる。

綺麗な銀髪が顔や首に擦れてくすぐったい。

仕方がない、話で気を逸らせてから隙を突いて強引にでも離れよう。

それでお叱りを受ける事になったとしても、深弥お嬢様なら無理難題な我儘は言ってこないだろう・・・多分。


「そう言えば、学校がどうされたんですか?」

「繋さんを迎えに行くためだもん、1日くらい休んだって平気だよ。それに私、結構成績は良い方なんだから。」

「そう、ですか。・・・では、この家の中を見て回りたいのですが・・・。」

「えっ?う~ん、確かに私の執事になったのならこの家の事も把握しておかないと・・・」


深弥お嬢様が考えている最中、全体の力が弱くなったのを俺は見逃さなかった。

肩を押して、深弥お嬢様を俺から離れさせて、そのまま腕で押し返す態勢で抱き着いてくるのを阻止した。


「あああっ!?ずるいよ繋さん!!もっともっと!!」

「だ、ダメです!仮にも更上神家のご令嬢なら、気軽に他人に抱き着いてはいけません!」


離された深弥お嬢様は反論して、また俺に抱き着いて来ようとしてきた。

しかし、やはり子供と大人では力の差が明らかで、深弥お嬢様がどれだけ暴れようが、俺はそれを軽々と止める事が出来る。

だが、そう出来ていたのも束の間、急にピタリと動きを止めたかと思うと、深弥お嬢様がこんな事言ってきた。


「じゃあ、離れる代わりにキスして!それなら大人しく離れる!」

「は、はぁ!?な、何言い出すんですか!?そんな事出来るわけないでしょう!?」

「じゃあずっと離れない!」


またグイグイ俺に抱き着いて来ようとする。

選択肢なんてあるようでない様なものだ・・・。

最初に思った深弥お嬢様の印象からはとても想像できるような事ではない。

物静で落ち着いている、それでいてどこか清楚さを感じていた銀髪の少女の面影は・・・、


「いいでしょ?チュッってするだけ!他に何もしないからぁ!」

「それは何かする人間の言葉です!しません!」


どこにも見られなかった・・・。

押し返す腕が痺れてきた。

力差があっても、体力差もある・・・もうこれ以上は限界だ。

それに比べて深弥お嬢様の方はさっきよりも押しが強くなってる・・・ヤバい。

限界を迎え、もう腕を下ろそうとした瞬間、部屋のドアがノックされた。

ドア越しにメイドさん?であろう女性の声が聞こえた。

それに対して落ち着いた感じで声を返す深弥お嬢様。


「何?」

「お嬢様、頼まれていた物が出来ましたので、持ってまいりました。」

「・・・・・・入って。」


入るように言うと、渋々という感じで俺の上から降りる深弥お嬢様。

俺もすぐに起き上がり、ソファーに座り直す。

ドアを開けて入ってきたのはやはりメイドさんだった。

深弥お嬢様に何かを手渡すと、頭を下げてすぐに出て行ってしまった。

でも助かった、あのままだったら俺は唇を奪われていたかもしれない・・・。

心に底から安堵する俺の前に、何故か笑顔で立つ深弥お嬢様。


「どうかしたんですか?」

「繋さんに渡したいものがあるの!」

「渡したい物?それって、今メイドさんが持ってきた物ですか?」

「うん!これ!」


そう言って深弥お嬢様が俺に見せたのは、俺も見覚えがある物だった。


「それって・・・」

「チョーカーだよ!」


見覚えがあると言うより、つい数時間前まで俺の首にも着いていた物。

けど、それとは全くの別物。

白いチョーカー、そして銀色の文字で「更上神深弥」と刺繍が入っている。


「繋さんは私のなんだから、私のだってちゃんと分かるようにしないとね!・・・それに、前に着けてたやつは首を絞められてるみたいで可哀そうだったよ?」

「っ!?」


今、何か寒気が・・・・・・、気のせいか?

一瞬、空気が冷たくなったような気がした。

身震いをする俺の後ろに回った深弥お嬢様が、手にしていたチョーカーを俺の首に着けた。

あぁ、これでまた・・・俺は執事として生活していかないといけないのか・・・。

そんな事を考える俺の頬に、いつの間にか前に回って来ていた深弥お嬢様がそっと手を添えた・・・・・・そして。


「チュッ❤」

「っっ!!?」


俺の唇を奪った。

一瞬だった・・・、唇同士が振れたと気づいた時には、すでに深弥お嬢様の顔が俺の視界を覆いつくしていた。

俺からゆっくり離れる深弥お嬢様。

今された事に対しての衝撃が強すぎて、何も出来ない俺に、深弥お嬢様が言った。


「末永くよろしくお願いします、繋さん❤」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


今日はあの銀髪を見かけなかった。

それだけで気分が良かった。

・・・なのに、今は心底最悪で最低な気分。


「何やってるのよ、繋は・・・!!」


迎えの車の中で、鞄をドアに投げる。

傍に居る繋には当たらない。

だって、今ここに・・・私の傍に繋が居ないから。

いつも通りに迎えが来たと思ったら、降りてきたのは運転していたメイドだけ。

繋の事を聞いたら、家に居るお母様に聞くように言われた。

意味が分からない、どうして繋の事をお母様に聞かないといけない?

繋が居ないだけでこんなにイライラするなんて・・・これも全部繋のせい。

帰ったら、たっぷりお仕置きしてやる。

走る車の中・・・、どうしてやろうか考えただけで、体がゾクゾクと喜んでいた。

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