連れられて・・・
さしていた傘を下ろして、目の前の少女・・・更上神深弥を見る。
そのまま動けないでいると、白いリムジンから数人のメイドさんと、ボディーガードのような恰好をした女性達が降りてきた。
俺と少女を囲むようにして、立ち塞がる数人のボディーガード。
だが、今はそんな事よりも気になる事がある。
「迎えに来たって・・・どういう事ですか・・・。」
差し出されている手と、俺に言った「迎えに来た」と言う言葉・・・。
そして、「私の執事」と・・・。
「昨日言ってたでしょ?あの子のお母様にも頼まれている事だって。だから今日言ってきたの・・・、繋さんを神之超の・・・ううん、あの子の執事から辞めさせるように。」
「・・・まさか・・・」
何で気づかなかった・・・わざわざ会社に乗り込んだり、奥様にそんな事を言えたり出来る人物なんて、一握りしかいないだろう・・・。
そして、俺とも繋がりがある人物がいるとすれば・・・・・・一人しかいない・・・。
「結局良い返事は頂けなかったけど、繋さんに聞いてみるように言って正解だった。こうしてここに居るって事は、辞めたんでしょ?執事。」
ニコッと笑う少女。
学校の門の前で見る時とは、何処か印象が違うように思えた。
以前までの暗い様な感じは無く、何か別な・・・。
「だったらこれで、昨日私が言った事受け入れてくれるよね?」
昨日言った・・・そうか、まだ諦めていなかったのか・・・。
「まさか、そのためだけに奥様の元まで行ったんですか?」
「そうだよ。本当だったらすぐに迎えに行くはずだったけど、1日も日が開いちゃったけどね。」
唖然とした。
何でそこまで俺に入れ込むのか、・・・「いってらっしゃい」と言われたのが、そんなに嬉しかったのか・・・。
いや、絶対にそれだけではないはずだ。
他に何か理由があるはず・・・。
「どうして、そこまでして俺を自分の執事にさせたいんですか?」
「知りたい?なら一緒に付いてきて。そうしたら教えてあげる。」
罠だ。
これでホイホイ付いていったら、そのまま今度は更上神家の・・・この子の執事にされる・・・・・・分かってはいる、でも・・・逃げられない。
後ろにも、前にも、メイドさんやボディーガードが囲っていて逃げ場がない。
「まぁ、付いてくるしかないと思うけどね!」
後退りする俺に意気揚々と答える少女。
・・・最近の子は、恐ろしいな。
観念した俺は、少女に言われるがままに白いリムジンに乗り込んだ・・・。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「デカい・・・。」
「えっ?そうかな?」
車で連れて来られた更上神家の家は、想像していた倍倍くらいに大きかった。
神之超の家といい勝負をしている。
「さ、入って。」
「おじゃま、します。」
玄関を通ると、既に待っていた大勢のメイドさんが出迎えてくれた。
神之超家のメイドさん達の黒いメイド服とは違い、こちらのメイドさん達の服は白を基調としているデザインだった。
そう言えばリムジンも白だったし・・・白にご縁でもあるのかな?
前を歩く少女と、後ろを歩くメイドさんとボディーガードさん達に挟まれながら廊下を進んでいく俺。
1つのドアの前で止まると、少女がメイドさんとボディーガードさん達に向かって言った。
「貴女達は下がりなさい。これから繋さんと大事な話があるの。」
それを聞いたメイドさんとボディーガードさん達は、頭を下げてから戻って行った。
何か・・・本当にいつもと感じが違うな・・・。
考える暇もなく部屋に通される。
部屋の中の物も白で統一されていた。
「あの、ここは?」
「私の部屋だよ。・・・そこに座って。」
自分の部屋だと言って、これまた白いソファーを指さし、座るように言ってくる。
言われた通りに座ると、少女が俺の隣に座ってきた。
お嬢様に仕えていたおかげ・・・と言って良いのだろうか、ビックリはしたが大げさに狼狽える様な事はしなかった。
「・・・改めて聞きますけど、どうしてそこまでして俺を自分の執事にしたがるんですか?」
「嬉しかったからだよ。繋さんのその優しさが。」
昨日も言っていた事を、昨日以上に嬉しそうに話す少女。
でも、きっとそれだけじゃない・・・。
「・・・他にも、何か理由がありますよね?」
「・・・うん。あるよ。」
否定することも、隠す事もせず、少女は他に理由がある事を認めた。
「あの、それって・・・」
一体何なのか、その答えを少女に聞こうとした時、少女の手が俺の手を握った。
柔らかくて、スベスベとした手。
ほんのり伝わってくる温かさ。
握られている手から少女に目線を移すと、少女と目が合った・・・そして、俺に告げた。
「私・・・繋さんの事が好き・・・。」
人生で初めてされた告白は、歳の離れた少女からだった・・・。
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