勧誘されて・・・

くだらない、毎日そんな風に思っていた。

毎朝ペコペコするメイドに起こされて、学校に行き、周りの生徒や教師までもがご機嫌取りをしてくる。

低レベルな授業を受けて、お昼休みにはよく一緒にいる学友と昼食を取る。

まぁ、学友と言っても数いる生徒の中からたまたま私が声を掛けただけ、お喋りしてれば少しは退屈しない。

後は帰ってする必要も無いけれど、取り合えず自習はする。

きっと他の子達は「偉い」と親に褒められるんだろうけど、私は違う。

家には基本帰らず、帰って来たと思えば少し話してまた仕事へ行く。

寂しいなんて思わない、もう慣れた。

ただ、くだらないと思うだけだった。

ある日の休日、自習が終わった時メイドからお母様が帰ってきていると聞いて、部屋に行ってみた。

また軽く挨拶を交わして終わり、そう思ってドアを開けたら・・・彼が居た。

どこかの会社の人間かと思って挨拶をしたら、お母様から私の執事になる人だと言われた。

メイドしか居なかったから、少し珍しく思って近づいて彼をジロジロと見た。

耳のかかるくらいの黒髪に、真っ黒な瞳。

その人は、私を真っ直ぐに見てくれていた。

周りにいる人間は皆私が神之超の娘だと分かると、目を反らしたり距離を置いたりする。

あの学友二人の様に私から声を掛けない限り。

でも、この人は違った。

笑って、挨拶までしてくれた。

それも、メイドや教師がするような感じとは違っていた。

その時は気づかなかったけど・・・これが「恋」なのだと、後々になって気づいた。

恋は盲目と聞いたことがあるけど、その通りなのかもしれない。

ずっと傍に居てほしかった、だから出会ったその日に家に住まわせた。

お母様には小言を言われたが、自分の性格は自分でも分かっている。

ただ、素直になれない・・・。

だから、他の人間にする以上に我儘を言って彼を・・・繋を私のモノにしたかった。

最初は慌てふためいていた繋も、最近は平然と私が言った事をこなす様になっていた。

だからたまに、ビクッとするような事を言っては、その反応を楽しんだ。

そう、私は楽しんでいた。

今までくだらないと思えていた毎日に、繋という人を手に入れたから。

・・・ただ、一つだけ気に食わない事があるとすれば、あの銀髪だった。

初めて会った時から気に食わなかった。

基本的に一人で居て、あまり喋らず、いつもクールぶっていた。

そんなあの子が私と並ぶ程の大企業の娘だという事が、更に気に入らなかった。

だから、少し分からせてあげた。

私と貴方じゃ全然違うのだと。

何をしても平然としているから、それもまた気に食わなかったけど、それはそれで誰にも言い振らしたりしなかったから許す事にした。

まぁ誰にバレたとしても、神之越の力で何とかする・・・はずだったのに・・・。

よりのもよって、それを目撃したのは私の繋だった・・・。

でも、私は焦らない。

大丈夫、繋は私のなんだから、私の言う事は絶対だから・・・。

それにしても・・・、


「・・・遅いわね、繋・・・。」


未だに戻ってこない繋を車で待ちながら、家に帰ったら上手い事話して・・・私の平手を受けた頬を摩ってでもあげようかしら・・・なんて考えていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「どういう、ことですか?」


俺に手を差し伸べてくる少女・・・更上神深弥と名乗った銀髪の少女が言った言葉の真意が分からない。

何故、俺を・・・。


「私は貴方が気に入ったの、繋さん。だから、私の家に来て私の執事になって。」


初めて言葉を交わしたばかりの少女に、自分の執事になってとお願いされているこの状況はかなりのイレギュラーだ。

しかも、更上神家のご令嬢直々に・・・。


「いえしかし、それはそちらのご両親様が許可を出さなければ・・・」

「大丈夫よ。私が自分で決めた事だもの、お母様もお父様もきっと許してくれるわ。」


「それに」と、言葉を続ける更上神様。


「あの子の我儘に振り回されるのは、嫌でしょう?」

「そ、それは・・・」

「だから、私の元へ来て。」


ズイッと更に俺に手を差し出してくる。

・・・言えない、後1か月もすればお仕えするのは終わりだと。

言えば尚更連れていかれそうで怖い・・・。

更上神様には悪いが、断ろう・・・。

俺は後1か月後には、ほんの少しのニートライフを送って、また前みたいに普通の生活に戻るために・・・。


「・・・申し訳ありません更上神様、光璃お嬢様のお母様からもお願いされている事なので、今光璃お嬢様の執事を止めて更上神様の元へ行く事は出来ません。」

「・・・・・・。」


スッと手を下ろした更上神様を見て、諦めてくれたのだと思い、立ち上がって別れを告げる。


「先ほど見た事はお嬢様にも言っておきます。もうあんな事はしないようにと・・・。本当に申し訳ありませんでした。・・・失礼します。」


再度頭を下げて、そのまま振り返り、元来た道を歩いてその場を去った。

後に残された少女は、服の乱れを直し、髪をある程度整えながら、考えていた。


「あの子のお母様・・・ね。・・・あはは、分かった。」


彼を手に入れる方法を・・・。

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