目撃して・・・
地面にへたり込んでいる銀髪の少女。
髪はグシャグシャで、よく見ると来ている服も乱れている。
俯いているから表情は見えないが・・・、
「まさか・・・」
人が通りそうも無いこんな校舎裏で、複数人が一人を囲んでいる・・・。
実際はどうか分からないが、傍から見ればこれは・・・。
「・・・いや、まだ決めつけるのは早い。声を掛けて・・・」
その言葉の続きが俺の口から発せられる事は無かった。
俺の目の前で、お嬢様が少女の頭から乱暴にシュシュを引っ張り取っていたのを、確かにこの目で目撃したから・・・・・・。
それだけでは終わらず、無抵抗の少女に取り上げたシュシュを投げつけた。
そして、何も抵抗しない事に頭に来たのか、手を振りかざした。
勢いよく振り下ろされた手は、少女の顔目掛けて・・・・・・。
バチンッッ!!!
響き渡った痛々しい音。
お嬢様の学友が驚いて目を見開いている。
・・・そして同じように、叩いたはずのお嬢様も、叩かれるはずの少女も・・・驚きを隠せない顔をして・・・・・・俺を見ていた。
「・・・っ!!?・・・繋、どうしてここに居るの・・・。」
寸前、お嬢様と少女の間に割り込んだ。
少女に与えられるはずだった頬の痛みは、手加減なんて言えないくらいに痛い。
ヒリヒリと痛む頬を抑える事もせず、俺はお嬢様に問いただした。
「一体・・・何をされているんですか、お嬢様。」
真っ直ぐにお嬢様を見据えながら、誰でもこう聞くであろうと言うような問いただし方。
俺を見ているお嬢様は何も答えない。
更に問いただす。
「見間違いでなければ・・・今のは・・・いじめ、ではないですか?」
「っ!?」
俺が放った「いじめ」と言うワードに分かりやすく反応するお嬢様と学友二人。
やっぱり・・・そうなのか・・・。
思いたくなかった・・・、度が過ぎる我儘を言う事もあったけれど、暴力なんて振るわず、学友と楽しそうにしているお嬢様が・・・あろうことか、「いじめ」なんて・・・。
しかも、相手は神之超に並ぶと言われた更上神のご令嬢・・・こんな事がバレたら、考えなくてもマズい事になるのはお嬢様だって分かっているはずなのに・・・なんで・・・。
見据える俺に背を向けるお嬢様。
「・・・帰るわよ、繋。」
「お嬢様・・・」
「帰ると言っているのよ!!早くしなさい!!」
「・・・・・・分かりました。」
速足にこの場去って行くお嬢様と、その後を付いていく学友二人。
残された俺と少女。
俺は振り返って、未だに一言も喋らずに俺を見つめている少女に・・・土下座をした。
「申し訳ありません。お嬢様のした事は、到底許されるような事ではありません。ただの執事である俺が謝って済む問題ではないのは分かっています。・・・ですが、俺にはこうする事しか出来ません。本当に申し訳ありません・・・。」
5つ以上も歳の離れた少女に土下座をしているなんて、普通なら情けなく思うかもしれないが、俺はお嬢様の我儘でとっくに慣れていた。
勿論だからと言う訳ではないが、何とか許してもらわなければと思ったから・・・。
「・・・・・・顔を上げて。」
「・・・はい。」
今まで黙っていた少女が口を開いた。
その時初めて、少女の声を聞いた。
「・・・どうして、貴方が謝るの?」
「それは・・・俺がお嬢・・・、光璃お嬢様の執事だからです。」
「そうなんだ・・・。」
俺の返答に、何か考える仕草をする少女。
そして、こんな事を聞いてきた。
「嫌にならないの?」
「えっ?」
「あの子の執事って、嫌にならない?」
ストレートにそんな事を聞いてくる少女。
返答に困るが、答えないわけにはいかなかった。
相手が被害者で、俺は加害者の執事という立場だから・・・。
「嫌・・・とは思った事はありません。ただ・・・」
「?ただ?」
「・・・我儘が過ぎるとは、度々思っています。」
「・・・・・・ぷっ!あははは!正直だね!」
俺の目の前で無邪気に笑う少女。
初めて見たその笑顔は、髪と同じですごくキラキラと輝いていた。
笑い終えると、立ち上がって向こうから話しかけてきた。
「ねぇ、貴方の名前、下は知ってるけど上は何て言うの?」
「えっと、無逃ですけど・・・どうして下の名前を知っているんですか?」
「だって毎日の様に貴方の仕えてる我儘なお嬢様が、貴方の事を話しているんだもの。多分学校のほとんどの生徒が知っているんじゃないかしら?」
初めて聞いた・・・。
まぁお嬢様が学校での事を話してきた事なんて今まで無いから当然だけど。
いつの間にか、俺と少女は意気投合と話していた。
でも、そろそろ戻らないとマズいな・・・。
そう思った時、少女が聞いてきた。
「もう一つ聞きたい事があるんだけど・・・。」
「?何でしょうか?」
「どうして、毎朝私に「いってらっしゃい」って言ってくれるの?」
何も言わずに立ち去って行っていたが、やっぱり疑問に思っていたのだろう。
その質問にも、ちゃんと答えた。
「その、俺の勝手な思い込みだったら失礼なんですが・・・なんだか、暗いお顔をされていたように見えたので・・・。」
「えっ・・・。」
「なので、勝手ながらその・・・、そういう顔をして欲しくなかったと言うか、あの・・・、すみません、上手く言えなくて・・・。」
少女が何故いつもあんなに暗い顔つきだったのか、今さっき分かった。
きっと、今までもさっきみたいにお嬢様達に・・・。
そう考えると、申し訳ない気持ちと、どう伝えていいのかという考えがごちゃ混ぜになって言葉に詰まる。
そんな俺を見て、少女は言った。
「・・・そっか。凄く優しいんだね、ちゃんと相手の事を見て・・・それにあの子の我儘にも答えて。」
「いえ、そんな・・・。」
「私嬉しかったよ。毎日「いってらっしゃい」って言ってくれて。家のメイドさんも言ってくれるけど、どこか仕事で言ってるようにしか聞こえなくて・・・まぁ、仕事なんだけどね・・・。」
一瞬また、あの暗い顔をした様に見えた少女の顔は、すぐに笑顔になって俺を見る。
「でも、貴方は違った。本当に心からそう言ってるって伝わった。「ありがとう」って伝えたかったけど、あの子の執事さんにちょっかい出したなんて思われたらマズいから・・・」
「いえ、そんな・・・」
そうか、だからいつも何も言わずに・・・。
「だから今言うね。いつもありがとう。」
「・・・ありがとうございます。」
何か、心が温かく感じた。
いつもお嬢様に付きっきりで、こんなやり取りをしていなかったからか・・・。
それとも、いつも暗い顔をしていた少女が笑ってくれたからか・・・。
「・・・うん、決めた。」
「?」
目の前の少女は何かを決心したように大きく頷くと、
「ねぇ、貴方・・・ううん、繋さん。」
俺の名前を呼んで手を俺の方に差し出した。
そして・・・、
「私の・・・更上神深弥(みいや)の執事になって。」
初めて会った時と同じように、真っ直ぐに俺を見つめてそう言った。
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