お嬢様を探して・・・
時間というものは気にしなければ早く過ぎていくものだ。
神之超家のお嬢様、光璃お嬢様にお仕えしてから2か月が過ぎた。
人間の「慣れ」というものは凄い事だ。
初めの頃はお嬢様の無理難題に振り回されていた俺も、今ではすっかり言われた事をその通りにこなす事が出来るようになった。
そのおかげで、お嬢様のご機嫌を損なう事は無くなった。
・・・まぁたまにドキッとするような発言をするから答えに困るような事もあるけど・・・。
ここに居られるのも、お嬢様にお仕えするのも、後1か月。
自分でもよく頑張っている方だと思う。
「今からでも次に住む家を探しておかないとな・・・。」
この2か月、俺はほぼこの屋敷から出ていない。
その理由は明白で、学校以外常にお嬢様の傍に居なければならないからだ。
本当は学校でも俺を傍に居させようとしていたらしいが、
「また他の子を口説かれたりしたら神之超家の名に泥を塗ることになるわ。」
と、未だに俺は誰彼構わず口説く様な奴だと認定されていた。
お嬢様が留守の間も、屋敷で自分でも出来るような仕事を見つけてはそれに取り組んでいる。
まぁそんな訳で、俺の貯金はかなり潤っている。
何なら当分の間は働かなくても充分な程だ・・・、いや、そんな事しないけどさ。
「・・・また今度でいいか、明日もお嬢様を起こさないといけないし、早く眠ろう。」
後、職も探さないとな・・・、そんな考えを最後に、俺は眠りについた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
すっかり馴染んだ執事服を着て、お嬢様を起こし、着替えをして学校へ向かう。
この一連の流れを誰よりも早くこなす事が出来ると言い切れるほど、俺はこれを毎日繰り返した。
勿論、お嬢様の学校がお休みの日も同様に。
因みにお嬢様は朝食は取らない派で、お風呂も帰って来てからか、就寝前にしか入らない。
学校が休みの日は家で自習や習い事、学友と遊びにも出かけている。
言うまでも無いが、その全てに俺は付きっきりだ・・・。
ここでの執事生活が終わって次に住む家が見つかったら、1週間はゴロゴロすると、俺は心に決めていた。
「繋、ここ最近は私の執事として良くやっているわね。褒めてあげるわ。」
「ありがとうございます、お嬢様。」
1週間のニート生活を想像していたら、お嬢様からお褒めの言葉を貰った。
咄嗟に反応出来て良かった・・・。
俺の膝の上に座り、俺の頬を優しく撫でるお嬢様。
いつからか俺の膝上はお嬢様の特等席になっていた。
俺が車に乗った直後にはもう膝上に座っているのが当たり前になっていた。
枝毛一本無い綺麗な金髪の髪が、時折俺の喉当たりに触れてくすぐったい。
両腕も前に持っていかれ、お嬢様の手に掴まれているので、常にお嬢様のお腹に触れている状態だ。
そんな状態にもとっくに慣れてしまった俺を乗せた車は、今日も定位置で停車する。
お嬢様の通う学校の門から少し離れた位置、そこでお嬢様を見送ったら、後は屋敷に戻ってお嬢様をお迎えする時間まで他の仕事だ。
「行ってくるわ、繋。」
「いってらっしゃいませ、お嬢様。」
お嬢様はいつもの学友と一緒に門を潜って行った・・・。
「・・・・・・。」
お嬢様が見えなくなっても、俺はまだ車には乗らず、そのまま立ち尽くしていた。
お嬢様は見送った、後は屋敷に戻るだけだが・・・、その前にもう一つやるべき事があった。
正しく言えばやるべき事ではなく、いつの間にかやるようになっていた事・・・それは・・・、
「いってらっしゃいませ。」
そう言って頭を下げる。
もうお嬢様はいない・・・なら、誰にそんな事をしているのか。
顔を上げた俺の目の先に立っている、銀髪の少女・・・・・・更上神家のお嬢様。
更上神家の事を知ってから、俺はこの少女にもお嬢様に言うように挨拶を交わすようになっていた。
交わすと言っても、俺から一方的に話しているだけで、少女は何も言わず、ただ聞いているだけだった。
「・・・。」
今日も何も言わずに門を潜って行く少女。
俺と目が合うと立ち止まってくれる辺り、少なくとも俺のやっている事を嫌がっている様には見えなかった。
あの日、帰り際に見たあの少女の暗い顔つきが頭をチラつくようになってからは、毎日今みたいに挨拶を交わしていた。
それが終われば、今度こそ屋敷に戻る。
車に乗り込んだ俺に、運転手のメイドさんが言った。
「お嬢様にバレたら終わりですね・・・。」
そんなの百も承知だ。
誰彼構わず口説く様な奴だと思われているのに、同じ学校・・・しかも神之超と並ぶ程の家のご令嬢にそんな事をしているなんてバレたら、俺はきっとこの世に居ないと思う・・・。
そうなりたくないから、俺はメイドさんに言った。
「絶対に言わないでくださいね・・・。」
弱弱しく言った俺を見て、メイドさんはクスクス笑いながら、「分かってます。」と言って、車を発進させた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「お嬢様、どうかしたのかな・・・。」
門の前でお嬢様が出てくるのを待っていた。
下校時刻はとっくに過ぎていて、いつもならすぐに学友の子達と一緒になって出てくるはずだった。
しかし、いくら待っても中々出てこない・・・。
今までこんな事無かったのに・・・。
それから待つ事数十分。
「ちょっと待っててもらえますか?」
隣に立っていた運転手のメイドさんにそう言って、俺は門まで近づいた。
門を抜けたすぐ横には、警備の人が居る。
若い女性の警備員さんの内の一人に声を掛ける。
「すみません、神之超家の執事です。お嬢様が中々出てこられないのですが、少し様子を見に行って頂く事はできますか?」
俺がそう伝えると、神之超の名を聞いたからか、それとも俺の首のお嬢様の名前が刺繍されたチョーカーを見たからか、警備員さんは二人して姿勢を正して言った。
「神之超様の・・・、こ、これは失礼しました!!どうぞ中へ!!」
「へっ?いやあの、俺が中に入るのはマズいんじゃ・・・」
「いえ!神之超様と更上神様の家の方にはくれぐれも失礼のないようにと言われておりますので!!」
誰にだ・・・そもそもここ女学校だよな?・・・俺が入っちゃマズいだろ・・・。
そう思ったが、戻ってメイドさんを呼ぶにしても、目の前に居る警備員さんに再度お願いするよりも、今は一秒でも早くお嬢様を見つけなければと思った・・・。
もしかしたら、何かに巻き込まれてるんじゃ・・・。
俺は警備員さん達に頭を下げてから、速足に学校の敷地内へと入って行った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
広い校内の教室を一つ一つ見て回った。
もう誰一人残っておらず、生徒はおろか教師ともすれ違う事は無かった。
「ダメだ・・・、こんなに広いんじゃ、いくら見て回ってもキリがない。」
まだ半分以上は残っている。
どうしたものかと唸っていたら、窓の外に見慣れた人影が見えた。
「あの子は確か・・・」
その子はお嬢様とよく一緒にいる学友の子だった。
毎日の送り迎えで顔見知りになっている子の顔を見間違うはずが無かった。
ここからでは死角になっていてその子以外に人影は見えないが、きっとそこにお嬢様も居るはずだ。
俺はその場所まで走って向かった・・・。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「確か、俺がさっき居たのがあの辺だから・・・」
自分がさっきまで居た場所から、お嬢様の学友が見えた場所を探し出す。
進んでいくと、そこは校舎の裏に位置していた。
それからもう少し進んでいくと・・・、
「・・・!!居た、お嬢様!!」
俺の目の先に、いつもお嬢様と一緒に居る学友二人と、思った通り、お嬢様がそこに居た。
お嬢様の姿を確認して、一先ず何も無かったと一安心した。
早く声を掛けて戻ろう、メイドさんも待たせている・・・そう思って、お嬢様達が居る方へと歩みを進める。
近づいていくにつれて、お嬢様が何かに向かって話しているのが聞こえてきた。
・・・いや、話していると言うよりは・・・怒鳴っている?
何に向かってかは、手前の学友二人に遮られて見えない。
少し進行方向を変えて、見えるような位置に移動していく。
そうするとその「何か」は段々と見えてきた。
足が見えた・・・・・・人?
服が見えた・・・・・・乱れている。
そして・・・・・・、
「っ!!?・・・・・・あの子は・・・」
見えた・・・・・・綺麗な銀髪を、グシャグシャにされている・・・・・・あの子の姿が・・・・・・。
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