銀髪の少女について・・・

銀髪の少女から目が離せなかった。

向こうも俺を見ている。

何かアクションを起こすわけでもなく、ただジッと・・・。


「どうかしたの、繋。」

「あ、いえ・・・何も・・・。」


お嬢様に声を掛けられ、銀髪の少女から目を離し、お嬢様に向けて何でもない事を伝える。

「そう。」と、お嬢様が俺から視線を外したのを確認して、チラッと横目で銀髪の少女が居た方を見る。

ツインテールにしたその銀髪を揺らしながら、門を潜って校舎へと向かって行く後姿だけが、俺の目に映った・・・。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


お嬢様を見送った後は、家に戻って来て、メイドさん達に色々と雑用やら何やらを教えてもらった。

最初に俺が手伝うと申し出た時は、


「無逃さんのお仕事は、お嬢様に言われた事だけで良いんですよ?」


と言われてしまった。

お嬢様の執事である俺に雑用なんかやらせようものならどうなる事か・・・とも言われた。

昨日出会ったばかりの俺よりも、ずっとずっとお嬢様に仕えていたメイドさん達は分かっているのだろう・・・我儘とは程遠い、無茶ぶりに近い事を言ってくるお嬢様の事を・・・。

しかし、それではお嬢様の居ない時間、俺だけダラダラするわけにもいかないので、お嬢様には俺から話しておくと言う事で、少しだけ仕事を手伝った。

残った時間はこの広い家の中を手の空いているメイドさんに案内してもらった。


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家の案内が終わる頃にはお嬢様を迎えに行く時間になっていた。

家が広い・・・。

案内されるだけで少しだけ疲れてしまったが、そんな事言って遅れれば・・・なんて考えたくないのですぐに学校まで向かう。

朝同様、校門前に車を止めてもらうと、生徒さん達がゾロゾロと門から出てきた。

友達と楽しくお喋りしながら帰る子や、こっちと同様に迎えの車に乗り込む子。

どうやら間に合ったようだ。

これで校門前にお嬢様を待たせていたなんて事になったら大変だからな・・・。

車から降りて待っていると、お嬢様が両隣に朝に会った学友と一緒に門から出てきた。

朝のあの出来事から一変して楽しそうに笑いあっている。

良かった良かった。


「お迎えご苦労、繋。」

「お帰りなさいませ、お嬢様。」


車のドアを開けてお嬢様が乗るのを待機する。


「それじゃあまた明日。」


学友と別れの挨拶を交わして車に乗ってのを確認してから、学友二人に頭を下げてから俺も乗り込む。

ドアを閉めて、出発・・・と思ったところで何気なく横を向いた時。


「あれは・・・。」


朝に見つめ合ったあの銀髪の少女が門から出てくるのが見えた。

一人で歩いていくその子を見て、何か違和感を感じた。

朝と何か・・・・・・。


「・・・髪、か?」


その違和感は髪だと思った。

朝に見た時よりも若干乱れている様に見えた。

体育でもあったのだろうか?

いや、そうだとしてもその後に結い直したりするはずだ・・・。

そんな事を考えている内に、車が進みだし、その子は見えなくなっていった・・・。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


夜、俺はお嬢様の部屋でまた正座させられていた。

迎えから帰って来てからもお嬢様の言う事に従ってあれやこれや仕えた。

この調子ならお嬢様の就寝までやりきれる・・・そう思っていたら、


「自習も終えたし夕食も終えたわ。後はお風呂に入って寝るだけね。行くわよ繋。」

「・・・・・・。」

「?何を突っ立っているの、聞こえなかったの?お風呂に行くわよ繋。」


まさか・・・いやまさかだよな・・・。

お嬢様の機嫌を損ねない程度に聞いてみる。


「あの、お嬢様?失礼な事をお聞きするかもしれませんが・・・俺は何処で待機していればよろしいですか?」


ピキッ、と言うような効果音が聞こえてきそうな程にお嬢様の周りの空気が変わった様に見えた。

そして、お陽様がヒクヒクと眉を痙攣させていた。


「繋、ふざけているの?待機ですって?まさかとは思うけど、私の体を洗うのも嫌だと言いたいの?」


お嬢様がそのまま一歩、俺に近づいた瞬間・・・、


「滅相も御座いません!!」


俺は跪いていた・・・。

チラッとお嬢様の顔を伺うと、「それでいいのよ。」、と言うような顔をしていた。

後はそのままお風呂場まで連れていかれて・・・・・・。

そしてお風呂から上がったお嬢様にそのまま部屋まで連れられて今に至る。


「良い、繋。私が教えたルールは一つ、私の言う事は絶対よ。でもね、私が言った事以外にも、私の機嫌を損ねない様に配慮しなさい。分かったわね?」

「配慮・・・ですか?」

「そうよ。私が考えた事、思った事、それを私が言う前にはやり遂げるのが完璧よ。心得ておきなさい。」

「・・・はい、お嬢様。」


無理だと言うのが無理だった・・・。

潔く、同意の言葉を口にする。


「それじゃあ私はもう眠るわ。おやすみ繋。」

「おやすみなさいませ、お嬢様。」


部屋の電気を消して、俺はそのまま部屋から出た。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


自室への廊下を歩いていると、前からメイドさんが数人歩いてきた。

どうやら向こうも仕事終わりらしい。

こちらに気が付いたメイドさん達と、少しだけ立ち話をした。

俺がお嬢様に仕える事になった経緯や、俺と居る時のお嬢様の様子や、昨日で話せなかった事を根掘り葉掘り聞かれた。

送迎した時の話になった時、あの銀髪の少女の事を思い出して、運転していたメイドさんに聞いてみた。


「そう言えば、お嬢様を学校まで見送った時に、門の所で綺麗な銀髪の子を見かけたんですけど、知ってますか?」

「銀髪?あぁ~、きっと更上神(こうじょうしん)様のところのお嬢様だわ。」


聞きなれない言葉が飛び出した。

他のメイドさん達はうんうんと頷いている。


「あの、その更上神様って・・・」

「神之超と並ぶ程の大企業よ。元々は海外で名を広めた会社でね?こっちに出来たのはつい最近だから、知ってる人はあまりいないのよ。」

「その会社の社長の娘さんが無逃さんの言う銀髪の子よ。流石に名前までは知らないけどね。」


なるほど、つまり光璃お嬢様と並ぶ程のお嬢様って事か。

・・・そう言えばあの子、気のせいか表情が暗く見えたような・・・。

微かに思い出しかけた銀髪の少女の表情は、話を続けるメイドさんの声にかき消された。

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