学校まで行かされて・・・
着替え終わったお嬢様が、手持ちのスマホで昨日の様にメイドさんを部屋へ呼ぶと、メイドさんが流れる手つきでお嬢様の髪をセットしたり軽くメイクをしたりしていた。
流石にそれは俺には出来ない。
だからメイドさんを呼んだのだろう。
でもきっと、無理でもお嬢様にやれと言われれば、髪のセットの仕方とかメイクの仕方とか覚えないといけないんだろうな・・・。
そうならない様にと祈っていると、どうやら登校の準備は整ったらしい。
メイドさん達が脇に寄り、真ん中にお嬢様が立っている。
やはりどこか、普通の子には持ち合わせていない様なオーラを放っている。
ボーっと見とれていると、お嬢様が声を掛けてきた。
「何を突っ立っているの?早く行くわよ。」
「あっ、はい。お嬢様。」
お嬢様と俺、そしてメイドさん数名で家から出る。
敷地内には、お高そうな車が停車しており、俺はお嬢様より先に車の元まで行き、後部座席のドアを開ける。
よく映画とかでやっているアレを見よう見真似でやってみたが、どうやら正解だったらしい。
お嬢様が俺に「分かってるじゃない。」と言ってきた。
たったそれだけの事だが、何故か達成感が得られた。
自分で行動して褒められると言うのは、何処で働いていても同じらしい。
相手が自分よりも下、ましてや子供だとしてもだ。
これが今の俺の仕事なのだから、そんな事関係無いんだ。
「それでは、いってらっしゃいませ。お嬢様。」
そう言って、ドアを閉めようとしたら、
「待ちなさい。」
お嬢様がそれを制止してきた。
何かと思いお嬢様を見ると、さっきまで上機嫌だったのに、何故かお怒りの様子だった。
「えっと・・・何でしょうか、お嬢様・・・。」
理由が分からず、恐る恐る聞いてみる。
すると、その答えがお嬢様の口から帰ってきた。
「何ドアを閉めようとしているの?繋は私のでしょ。一緒に学校まで行くに決っているでしょ。私から離れちゃいけないの。当たり前でしょ。寝ぼけた事してないで早く乗りなさい。」
めちゃくちゃ早口でそんな事を言われた。
チラッと後ろにいるメイドさん達を見ると、ご愁傷様と言わんばかりに目を瞑っていた。
そして俺はそのまま、お嬢様の通っている学校まで見送りをさせられた・・・。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「どうぞ、お嬢様。」
「えぇ。」
車で走る事数分、お嬢様の通っている女学校に到着した。
ドアを開けて先に降り、降りてきたお嬢様に運転手のメイドさんと頭を下げる。
この数分が凄くきつかった。
車内でお嬢様にさっきの事を責め立てられて、挙句にまた俺の膝の上に座り込んできた。
しかも、
「シートベルトができないのよ、繋の腕を私に回しなさい。私が怪我しても良いって言うの?」
なんて言ってきた。
仕方なくお嬢様の腰に腕を回してホールドした。
何が良いのかさっぱりだったが、お嬢様の機嫌が良くなったのでもう何も言わなかった・・・、いや、元々俺は何も言えないか・・・。
一度バックミラー越しに運転しているメイドさんと目があったが、またご愁傷さまと言わんばかりに首を横に振られた。
それから学校に到着するまでずっと座られていたから、少し下半身が痺れている。
「それにしても・・・、大きいですね。」
予想はしていたが、やはりお嬢様が通っているだけあって大きく、そして気品溢れる学校だった。
周りには、お嬢様と同じ制服を着た少女達が校門を潜って行く。
普段では見られない様な光景を見ていると、その中の二人の子がお嬢様の方まで歩いてきた。
「おはようございます、神之超さん。」
「おはようごさいます。」
「えぇ、おはよう。」
互いに挨拶を交わしている。
どうやら学友の様だ。
正直ちょっと安心した。
学校でも我儘で友達がいないんじゃないかと思っていたから・・・バレたら消されるかもしれないな・・・。
ジッと見ていると、その二人の子が、俺に気づいたのか、何やらアタフタしている。
お嬢様もそれに気づいたらしく、二人に俺を紹介した。
「私の忠実な執事の繋よ。昨日から私のなの。繋、こちらは私の学友よ。」
「初めまして、お嬢様の執事をさせて頂いています。無逃繋と申します。」
跪いて目線を合わせて、自分からも自己紹介をする。
すると、二人はボーっと俺を見つめたまま動かない。
ヤバい、もしかして行動がキザ過ぎたのか・・・、なんて思っていたら、
「キャー❤私も執事欲しいなぁ~!!」
「いいなぁ~!私も無逃さんのお嬢様になりたいなぁ~❤」
お気に召したようだった・・・。
目の前でキャアキャアとしているのを見ると、お嬢様と言ってもやっぱり中身は年相応の女の子なんだなと思った。
と、急に目の前の二人が静になって、俺の横を見て顔色を変えていた。
俺も横を向いてみると・・・、
「っ!!?お嬢・・・様。」
怒りの顔をしたお嬢様が、俺の事を睨んでいた。
前の二人が後退って行く。
しかし、俺は動かない。
ここで変な行動を起こすと、後々もっと酷い目に合いそうだから・・・。
お嬢様が伸ばした両手が、俺の両頬を挟み、額を俺の額にくっ付けてくる。
ほんの少しでも動けば唇が振れてしまいそうな距離。
何をされるのかとバクバクと心臓が飛び出そうな俺に、お嬢様が口を開く。
「誰が私の学友を口説けと言ったの?私に見せつけて楽しい?繋。」
お嬢様の息が唇と鼻に掛かる。
ほんのりと甘い果実の様な香りがした・・・と、そんな変態的な事を言っていられる状況ではない・・・。
「いえ、決して、そういうつもりでは・・・申し訳ありません、お嬢様・・・。」
「誰の執事か、ちゃんと答えなさい。」
「神之超、光璃お嬢様の、執事です。」
そう答えると、お嬢様は俺から離れて、その光景を見ていた二人に言い放った。
「聞いたでしょ?繋は私のなの。だから他を当たってくれるかしら?」
二人はコクコクと首を何度も縦に振っていた。
相当怖かったのだろうか、一人は泣きそうになっている。
俺ですら怖くなる時があるんだから、同い年の子からすればそうなる気持ちは分かる。
原因は俺だ、心の中で二人に謝っておく。
「いつまで跪いているの、さっさと立ちなさい。」
「!はい、お嬢様。」
お嬢様にそう言われて立ち上がる。
周りに何人か立ち止まって此方を見ている生徒さん達がいた。
まぁ今ので見られていない訳がないか・・・。
そう思った時、視界に、何かキラキラとするものが見えた。
その方向へ顔を向けると・・・、
「・・・銀、色。」
太陽の光に反射して、まるで宝石の様に輝く銀髪の少女が、髪と同じ色の銀色の瞳でジッと俺を見つめていた・・・・・・。
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