第22話 低劣
「大丈夫だけど...」
先程の話のせいで顔を合わせづらい。
俺は愛想笑いで誤魔化しつつホールまで戻ろうとする。
「ギル様、私...心配で心配で...」
すると急に泣き始めた。
怖いから。なんでそんなに重いの?
「俺は大丈夫だから。それよりもルネアも怪我とかしてない?」
「私は大丈夫です!でも...ギル様が私のことを逃そうとして傷を負った...私に...力...ば」
後半になる程声量は小さくなっていき最後は殆ど聞こえなかった。
情緒不安定すぎるだろ。
俺はまたもや愛想笑いで誤魔化しつつ逃げようとした瞬間、
「そういえば私、ギルド長から暫くEランクのクエストを受けるように言われたんですよ!だから私、ギル様と一緒に受けるって決めたんです!」
「は?」
何一つ意味が分からない。
おい、レオン。ふざけんなよ。
俺はギルド長を恨みつつなんとか誤魔化そうとする。
「ほら、俺って修行とかもあるし、討伐依頼とか受けたいから、危険だろ?だから俺には着いてこない方がいいんじゃないかな?」
やんわりと断ろうとする。
しかし、
「ギル様に合わせますよ!討伐依頼についてもいざってときはギル様が守って下さい!私の王子様!」
あーあ。これ完全にトリップしてるよ。
俺は半ば諦めてその場に留まろうとした瞬間、
「ギルをちょっと借りていくわ!」
廊下の奥から颯爽と誰かが現れて俺を奪っていった。
「ギル様ー!待ってー!」
ルネアは追いかけるが、圧倒的にこのローブを着ている怪しい人こと師匠の方が速く、どんどん離されて行った。
「災難だったわね!」
師匠は大笑いしながら言ってくる。
俺は師匠に連れ去られた後、宿屋まで運ばれて、今は自分の部屋に師匠といる。
「ありがとうございます...」
「私的には別にどうでも良かったけどね。でもクエストの他にも色々やる事があるのよ」
なんか嫌な予感が...
「やる事と言うと?」
「修行ね!」
修行か...全然良い思い出が無いんだよなあ。
「とりあえず今からミレイのとこまで行くわよ!」
「なんでミレイさん?」
「ギルのことを助けたのミレイよ?お礼言いに行かないとダメでしょ!」
そうだったのか。
俺は気絶していたから分からなかったが、ミレイさんが治療からゴブリン退治まで諸々をやってくれたらしい。
実はミレイさんって凄い人なのかも知れない。
俺は腰を上げ、宿屋を出て、教会目指して歩く。
中央広場を抜けて北通りに入った時だった、
「フン、誰かと思えば冒険者とかいう山賊紛いの仕事をやっているルートリッヒ様では無いですか。今日は王様にでも媚を売りに来たのですかな?」
急に後ろから変な事を言われた。
慌てて振り返るとそこには、純白の鎧に身を包んだ赤髪の女騎士がいた。
「あらあら、誰かと思えば王国騎士団序列一位のアーリア様ではないですか。剣聖様に最強の座を奪われてから暫く経つのにまだ外を出歩いてるなんて、私だったら到底無理ね!」
睨み合いが続く。
てか師匠の言ってる事が本当だとすればこの人偉い人なんじゃね?
俺は関わりたくないため今空気になるべく必死に影を薄くしている。
頼む、早く終わってくれ。
「ごめんねー、今私忙しいからお邪魔するわねー。ギル、ほら行きましょ?」
「へー過去の栄光とやらはどこにいったのですかな?こんな芋臭い少年を連れて、見る影もないですよ!」
師匠は黙って歩く。
俺は早足でそれについていく。
女騎士は特について来なかったのですぐに空気が柔和する。
「すまないわね。見苦しいところを見せてしまって。
アイツ、剣聖にボコボコにされたのずっと根に持ってて剣聖と仲の良い私によく突っかかって来るのよ」
それは大変そうだな。
師匠にも師匠なりの苦労というものがあるんだなぁ。
なんとなく気まずい空気になっている中、歩き続けて暫くして教会に着く。
「ミレイ来たわよー!」
教会に師匠の大声が響き渡る。
「...いらっしゃい。...サヤ」
奥からのっそりとミレイさんが出てくる。
師匠が俺の背中を押す。
あ、そうだった。
「俺のこと助けてくれてありがとうございます!」
「...別に気にすることは...無いわ。....曲がりなりにも...私シスターだから...」
ミレイさんの顔が僅かに紅潮する。
お礼、言われ慣れて無いんだろうなあ。
突然師匠が手を叩いて注目を集める。
「ごめんミレイ。ギルの修行お願いしていい?できれば3日でレベル5まで。お願い!」
「...私は大丈夫だけど...ギルは大丈夫...なの?....キツいよ?」
「お、俺は大丈夫です!」
師匠に恩がある手前、断る事ができない。
しかし俺は後々この選択を後悔することになる。
呪術使い、時々無双、時々成り上がり @kanakana1010
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