第21話 説教


 目覚めるとまず知らない天井が目に入った。

どこだここ?少なくとも治療院ではなさそうだな。

 腰を起こして周りを見渡す。

豪華な調度品に大きなテーブル。

あ、ここ宿か!

確かゴブリンに完敗したんだっけ。

 背中を恐る恐る触ってみる。

痛くない。

傷も特に無さそうだ。

 俺は安心しつつどうしようかと考える。

このまま待っていても良いが少し歩きたい気分だ。

 俺は部屋の外に出る。

そういえば今何時くらいだろう。

外は明るいので夜ではないことは確かなんだが正確な時間は分からない。

 階段を下りる際、自分の服装が目に入った。

いつも通りの安っぽい服。

安っぽい服?あっ!

俺は防具を付けてないことに気付いた。

壊れちゃったのかな。

 俺は師匠にどう謝ろうか考えながら階段を下りた。


 エントランスは人で溢れていた。

ここの繁盛具合を改めて確認したところで師匠を探す。

いな、い。うん、いないね。

俺は外に出ることにした。

 大通りに出ると、まず行き交う人々が目に入る。

いつもと変わらぬ光景に俺は安堵し、どこに行こうかと思案する。

幸い体は軽く、何処にでも行けそうだ。

 しかし今まで観光に縁が無かった俺は行く候補は数カ所しか無かった。

んー。ギルドに行こうか。

 俺はギルドに向かって歩き出す。

のんびりと歩いていると、旅人らしき者の会話が聞こえてきた。


「す、すごいですよ!王都ですよ!リーネ、見て!奥にお城ありますよ!」


「うるさい。大声でしゃべるな。馬鹿丸出しだから」


「馬鹿って何ですか!馬鹿って!酷いです!」


フードを被っていて顔は見えなかったが、隙間から出ている銀髪が印象的だった。


 そのまま何事もなく時間は過ぎた。

俺はギルドに着くと扉を開け、中へ入った。

 ギルドは相変わらずの喧しさで冒険者達で溢れかえっていた。

どこかのテーブルに座ろうかな。

と、キョロキョロと辺りを見回した瞬間だった。

突如、肩をトントンされる。

後ろを振り向くと、レオンさんがいた。


「丁度いいところに来たな少年。色々と聞きたい事があるから着いてこい」


 半ば強制的に連行される。

階段を上がり、奥へ進み、やがて1つの部屋の前で止まった。


「入れ」


扉を開けられ、中へ強制的に入れさせられる。


「えっ?」


俺は驚きを隠せなかった。

何故なら部屋の中には目を真っ赤に腫らして泣いているミーアさんがいたからだ。

 嫌な予感がして、後ろを向く。

すると物凄く怖い顔でこちらを見ていた。


「座れ」


 感情のない声で言われる。

俺は黙ってミーアさんの向かい側に座った。


「今回ギルを呼んだ理由は2つある、一つ目は昨日のゴブリンについて、もう一つはルネアって少女についてだ」


昨日って俺丸一日眠っていたのか。

ていうかなぜルネアの名前が出てくるのだろうか。

 レオンさんは話し続ける。


「ギル、まずは昨日ゴブリンと出会った状況について詳しく話してくれ」


 俺は森に着いてからの出来事を話した。

しかし俺の回答では望む物が得られなかったようでため息をつく。


「あの森ってそんな危険な魔物が出るんですか?」


「あんな危険な奴出る訳ないだろ。知ってるか?あのゴブリン、ゴブリンジェネラルっていうCランクの魔物だぞ?しかもほぼBランクに近い強さを持っている。あんなの初めてだぞ」


 生気のない目で言われる。

疲れに満ちた表情から処理や対応に追われている事は容易に想像できる。


「まあ、この件はもういいや。行ったことをそのまま報告するぞ。じゃあこの話は終わりだ。

次の話だが、昨日、ルネアという少女が討伐クエストに成功してDランクに上昇する条件を満たした。何故か分かるか?」


「え?それは俺がゴブリン討伐のクエストを手伝ったからじゃあ。」


不意にミーアさんが唇をキュッと結ぶ。

言ったらダメな事でも話してしまったのか。

 俺はレオンさんの反応を見る。


「そうだな。じゃあもう一つ質問する。なんでギルドではランク制を採用している?」


「それは、自分の力に合ったクエストを選択する事ができるから?」


「ルネアはDランクでやって行けると思うか?」


え?何を急に言い始めるんだ?


「彼女、このままじゃあ死ぬぞ」


「へっ?」


「ルネアはDランクでやっていける程の力は持ってないぜ。なのにギルが手伝ってランクを上げた。DランクのクエストはEとは比べ物にならないくらい危険だぜ?たとえ採取クエストでもな」


やっと言っている事の意味がわかった。

俺がクエストを手伝ってルネアのランクを上げてしまった。なので彼女は自分の実力に見合ってないランクになってしまった訳だ。


「こういうパターンを寄生とかって言うんだけどな、実際やっている奴は少なからずいるんだよ。でもな、ギルドはそれを見つけたら注意せざるを得ないんだよ。こっちとしても死体を見たくない」


「すみませんでした」


 頭を下げる。


「今回はミーアちゃんに言われてやったそうだから俺はそこまで責めないが、これからは気を付けてくれ」


 ミーアさんはきっとレオンさんに怒られたんだな。

よく考えてみたら確かにそうだ。


「もしギルが手伝わなかったら彼女はギルドから追放されたかも知れないが、別に働く場所くらい腐るほどある。いざとなったらギルドからも仕事を斡旋するし。ていうかそもそも自己責任だぜ、ギルが情けをかける必要なんて何処にもない」


そこからは苦労話を延々と聞かされた。

割とギルドにも切実な事情があるらしい。

 例えば身の程を弁えない馬鹿がDランクに上昇したとき、調子づいてDランクのクエストにEランクの時と同じ気分で向かってそのまま死んでしまった例が後を絶たないようだ。

ギルドの加入条件を厳しくした理由はそういうのを減らすという目的も持っているそうだ。


「最後にだが、彼女には俺からは暫くの間、クエストはEランクのを受けるようにと言っておいた。ギル、早くDランクに上がって彼女を守ってやれ」


「は?どういうことですか?なんで俺が?」


「お前が手を出したんだろ?最後まで責任を取れ」


笑いながら言ってくる。

非常に面倒臭いことになったぞ。

 悩んでいるとレオンさんに話はもう終わりだ、帰っていいぞ、と言われたので部屋を出た。

 だが部屋を出た瞬間、


「ギル様!大丈夫でしたか⁉︎」


件の少女が立っていた。

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