第20話 救援

 ゴブリンが俺の方を向く。

ようやく敵として見てくれた。

だけど、現状勝てる方法はない。

なんとかして逃げよう。

 でもヘタな動きは出来ないぞ。

俺が悩んでいると急に寒気がした。

アイツ、俺の首元をチラッと見た⁉︎

 その行為の意味を頭で理解すると同時になんとか剣を自分の首元に持っていく。

キィィィン!と甲高い音が鳴った。

手に残る反動と痺れ、それらがこの一瞬の攻防を雄弁に物語っている。

あぶねー。力負けするところだった。

 これ以上の戦いは危険だな。

俺は避けに徹することにした。

まずはゴブリンに攻撃するフリをして反撃を誘う。

それを躱してファイアーボールをぶつける。

最後に逃げる。

 ゴブリンは怒り狂ったようで、俺を物凄いスピードで追いかけてくる。


「スピードダウンだ!俺の残存MPの殆どを喰らわせてやる!」


スピードを下げてようやく目で追えるようになる。

 俺は体全体を使って器用に避け、偶に剣を使い上手に弾いたりもした。


「はあ、はあ。そろそろ、逃げよう、かな」


既に息絶え絶えだ。

そろそろルネアも王都に到着しただろう。

 俺は逃げることにした。

もう少しで森から出れそうだしな。

しかしどうしたものか。

悩んでいた俺だったが意外にもチャンスは早く訪れた。

ゴブリンが大振りな攻撃をしてきたのだ。

 俺はその隙を見逃さず、剣で斬ろうとする。

だが、ゴブリンは体の向きを無理矢理変え、もう一度攻撃してきた。

 俺はわざと剣同士をぶつけ合い、無理矢理逸らした。

そして無防備なその体に思い切り蹴りを放った。

ゴブリンは1mくらい吹き飛ぶ。

 俺はゴブリンが立ち上がる前に逃げた。


「ファイアーウォールとスピードダウンを組み合わせる!」


 炎の壁がゴブリンの周りに現れる。

しかし炎は真っ黒に染まっている。

ゴブリンが振り払おうと壁に近づくと、炎が纏わり付く。


「グギャァァ!」


炎によるダメージで呻く。

暫く足止め出来そうだな。

 俺は王都に向かって走って行った。


 2分後、王都が視界の奥に映ってきた。

俺は安心して、少しスピードを緩めると、



急に視界が回った。

 強い衝撃で倒れたことを理解するまで結構な時間がかかった。

さらに俺の周りには赤色の水たまりができていた。


「背中が熱い...」


背中が焼けるように熱い。

 点滅する視界にゴブリンの姿が映る。

クソッ。死ぬのか、こんなところで。

 ゴブリンは剣を構える。

そして振り下ろす寸前、


「間に合え!」


誰かがゴブリンを吹っ飛ばす。

続いて視界に、


「ギル様!今すぐ治療します!」


ルネアが映る。

よかった。無事だったんだね。

 俺は薄れゆく意識に身を任せた。


***



「血が止まらない!」


 私は必死で止血をしようとする。

しかし傷が広くて深いのか中々止まらない。

致死量を超えないか不安になる。

その不安が焦りとなり、焦りが私をイライラさせる。

 せっかく助けを呼べたのに。このままじゃあ。

一緒に来てくれた近衛兵はゴブリンと戦ってくれている。しかしゴブリンの方が強いのか少し押されている。

このままじゃあジリ貧よ。

 私は状況を打破できない自分を恨んだ。

しかし、

神はまだ私のことを見捨てなかったようで、希望が訪れる。


「...邪魔よ。...よけて」


突如、隣から声が聞こえる。

びっくりして横を見るとそこには血行が悪そうなシスターがいた。


「すいません!治療お願いします!」


頭を下げる。しかしシスターは私を一瞥して、


「...言われなくても」


とぶっきらぼうに返す。


「...パワーヒール」


 シスターは手をギル様の方に向けて呪文を発動する。

ただ無表情に治療する。

僅か10秒後、


「....終わったわ。...見守ってなさい...」


呪文を止める。

 ギル様を見ると、背中の傷が消えている。

すごい!さぞかし高位な神官なのね。

ギル様はそういう人ともコネクションを持っているのね!

 シスターは未だ戦闘中のゴブリンの方を向くと、


「...そこの兵士....逃げなさい...」


と警告する。

 近衛兵は何かを察したのか武器を捨てて逃げる。

シスターは手の平を天に向け、言葉を呟く。


「...マスカレイド!」


 近衛兵を追おうとしていたゴブリンの動きが急に止まる。

そして苦しみ始めた。

まるで何かから身を守ろうとする様に武器を振り回す。

しまいには血の涙を流し始めてもう見るに耐えない。


「...帰りましょう」


 シスターはそう言うと王都に戻ろうとする。

私は、


「あのゴブリンはどうするんですか?」


と聞くと、一瞬立ち止まって、


「もうじき死ぬわ」


とやけにはっきりとした声で答えた。

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