第19話 逃走

「くっ。どうしようか」


 俺一人だったら3体はいけるが守りながらとなるとキツいかなあ。

とりあえず牽制しておく。

 しばらくの間睨み合いが続く。

すると後ろの方から、


「ウィンドスラッシュ!」


 風の刃が飛んできてゴブリンに当たる。

一撃では死ななかったがそれなりの傷を与えている。


「ルネア!ナイスフォロー!」


 俺は傷を負ったゴブリンを斬り倒す。

後ろからの援護はありがたい。

残るは後2体。

 俺はルネアにターゲットが映らないように前に出る。


「ウォーターボール!」


すると後ろから飛んできた水の球が敵を吹っ飛ばす。

 俺はすかさずもう1匹の方のゴブリンに詰め寄る。


「オラァ!」


剣を振り上げて、持っている武器を飛ばしたあと、返す刀で振り下ろす。

縦に切り裂かれたゴブリンはそのまま絶命する。

 そのままの勢いで立ち上がろうとしているゴブリンに近づき、剣を突き刺す。

 ゴブリンが全滅した。

意外に呆気なかったな。

 後ろを振り向くと、ルネアが泣いていた。


「だ、大丈夫?」


俺、この人苦手かも。


「だ、大丈夫です。だってギルさんが守ってくれたから」


「そ、それは良かったね」


「ギルさんは私の命の恩人です!」


命の恩人とは大袈裟な。

 俺は誤魔化すように辺りを見回し、

新しいゴブリンを見つける。


「よし、あのゴブリンをやっつけて耳取ってさっさと帰ろう!」


「はい!」


すっかり懐いちゃった。

どうしようかな。

 俺はため息をつきながらゴブリンを倒す。

もうゴブリン退治は楽勝だ。

武器の影響もあってか多分目隠しをしていても倒せそう。

流石にそれは冗談として、かなり楽勝なのは事実だ。

そのせいか俺は浮かれてしまっていた。

まさかあんな事になるとは...




「耳取ったし帰るか!」


「こんな短時間でクエストをクリアするなんて凄いです!」


もうルネアは俺の事を褒めるロボットになってしまったらしく、もうほんとにヤバい。

俺が視線という名の暴力に耐えていると、急に辺りから変な音が聞こえる。

ん?どこだ?

横か!

 横を見ると木の根本にヒビが入っていて今にもこちらに倒れ込んできそうだった!


「逃げろ!」


 俺は対応できてないルネアを突き飛ばし、ルネアとは反対側に転がり込んだ。

 木が派手な音を立てて倒れる。

あぶねー。死ぬとこだった。


「ルネア大丈夫か?」


「大丈夫です!」


ひとまずは安心だ。

しかしなぜ急に木が倒れてきたのだろうか。

 俺は元々木があった場所を見た。


「誰だ、アレ!」


 そこには甲冑を来て剣を持っている人が立っていた。

いや、人じゃない。ゴブリンだ!

ゴブリンにしてはでかい、180はありそうだ。

 ゴブリンは静かにルネアの方へ歩き出す。

危ない!

 ルネアの方を見ると恐怖で腰が抜けたのかへたり込んでいる。

ゴブリンなら、いけるはず!

 俺は走ってゴブリンに詰め寄る。

ゴブリンは俺の事を意にも介さずルネアに近づく。

俺は無防備な体を思い切り切り裂く!

 しかし、弾かれる。

俺は呆然とする。

そしてすぐ気を取り直す。

きっとゴブリンは俺の理解を超える速度で剣を弾いただけだ。

大丈夫。大丈夫。

いや。無理だから!

そもそもなんでこんな初心者用の森にこんなのでるの?

本当にやめて欲しい。

とりあえず逃げるしかない!


「ファイアーウォール!」


ゴブリンとルネアand俺の間に炎の壁を作り出す。

ちなみにだが炎は魔力産なので木々に燃え移ったりはしない。


「逃げるぞ!」


 俺はルネアを抱えて駆け出す。

炎の壁は一瞬で壊されたらしく、直ぐに追ってくる。


「やべぇ。これ追いつかれるぞ」


甲冑を着ているくせに速い。

このままだと追いつかれそうだ。


「怖い...」


トラウマ植え付けちゃってるじゃん。

どうにかしないと。


「しっかり掴まってろ!」


 俺は片手の手の平をゴブリンの方向へ向ける。

ルネアを落とさないようにしないと。


「スピードダウン!」


呪文を唱える。

光はゴブリン目掛けて飛んでいき、ゴブリンの足を遅くする。

抵抗されなかったみたいだな。

ゴブリンと俺らとの距離がどんどん開く。


「一気に王都まで戻るぞ!」


ルネアは怖いのか俺の胸に顔を埋めて震えている。

だが俺にはこのシチュエーションを楽しめる程余裕はない。

急ぐぞ!





 走り始めて3分、俺はゴブリンを大きく引き離す事に成功した。


「はあ、はあ」


 辺りには俺の荒い息遣いしか聞こえない。


「もう、大丈夫ですよ!」


ルネアはそう俺に微笑みかけて降りようとする。

その時、


「木が!クソッ!追いついたのか」


 木がこちら側に倒れ込んでくる。

俺は俺達が過ぎるより木が倒れる方が早いと判断してバックステップで躱す。

幹の横から出てきたのはゴブリンだった。

しかしさっきと違い、甲冑を着ていない。


「先に逃げろ!」


俺はそう叫ぶと剣を抜いてゴブリンの前に立ちはだかる。


「で、でも...」


「このままじゃあ両方死ぬ!助けを呼んできて!」


「う、うん...」


 ルネアは走り去っていく。

ゴブリンはその後を追おうとするが、炎の壁が行く手を塞ぐ。

 カッコよく決めたのは良いが、このままだったら死にそうだな。

さて、どうしたものか。

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