第16話 移転
「ギルはもう出ていくから!」
道具屋に師匠の声が響く。
「は?何を言ってるんじゃ?」
今、師匠と道具屋のおっさんことホークさんは押し問答をしている。
「急に言われても困るんじゃぞ。そもそももうギルは儂の店に必要不可欠なのじゃ」
「なによ、一週間ずっと入院しても店は大丈夫だったでしょ。一週間と一生は殆ど変わらないわよ」
「なんじゃその暴論は。もう、無理なものは無理じゃ」
「じゃあ、ギルに決めてもらいましょう」
うわ、嫌な役が回って来た。
2人が俺をジッと見つめて来る。
「俺、そもそもなんでここに住まないんですか?」
師匠はため息をつく。
「あのねぇ。ここは元々道具屋の手伝いをするという条件で入れてもらったのよ。これからは訓練やクエストで手伝う暇なんて到底ないわ。だから、宿を借りるわ。安心しなさい、もれなく金は出世払いよ」
「ギルはこの道具屋を継ぐんじゃ。勝手なこと言うんじゃない」
これほっといたらずっと続きそうだな。
俺はなるべく宥めるようにして言う。
「すいません。俺、師匠に拾ってもらったんで師匠について行きます。道具屋にも時々寄るので安心してください」
「だってよーホーク!」
師匠が勝ち誇ったような顔でホークさんを指差す。
ホークさんは悔しそうに地団駄を踏み、
「ギルに言われたならしょうがないじゃろう。でも、たまには来るんじゃぞ!」
と言い放って店の奥に入っていった。
「邪魔者もいなくなったことだし、とっとと荷物を纏めて行くわよ!」
ホークさんのこと邪魔者って言っちゃったよこの人。
俺は急いで身支度を整えた。
「師匠、俺は冒険者になって何をすればいいんですか?」
「とりあえずDランクまで上げなさい。そしたら全てを話すわ」
「Dランクって何ですか?」
師匠はうわっ、と顔をしかめる。
「そういえば説明して無かったわね。冒険者にはいくつかの規則があって...」
師匠の説明を要約するとこうだ。
冒険者ギルドにはランクと言うものがあるそうだ。
最初はEから始まり、D、C、と上がってゆく。
最高ランクはSで未だ数人しか居ないらしい。
ランクは主にクエストをクリアする事で上がり、ランクが高くないと入れないダンジョンがあるらしい。
ちなみにだが王都にある黄昏の迷宮はEランクからでも入れるらしい。
「とりあえずこれくらいね。ギルにはこれから修行をしつつクエストを沢山クリアしてランクを上げてもらうわ。時間の余裕はあまり無いから、そうねー、1ヵ月でDランクよ」
1ヵ月でDランクか。早いのか遅いのか俺には分からないが多分早いのだろう。
「さあ、着いたわよ!ここがギルの宿よ!」
話しているうちに着いたようだ。
目の前にそびえ立つ大きな建物に、
黄金亭へようこそ!という看板が立てかけられている。
師匠が中へ入ったので着いて行く。
「お疲れ様です。サヤ様。ご予約の確認をさせてもらいます」
「ギル、少し待ってなさい」
師匠は従業員の人に連れられて奥へ入って行った。
暇なので周りを見渡してみる。
豪華すぎない程度に芸術品が飾られている。内装や他の客の様子的にかなり高い宿ではないのか。
俺は不安になってきた。
師匠が戻ってきた。
「ギル、鍵よ。2階の206号室に行きなさい」
鍵を投げてくる。
俺は慌ててキャッチする。
「師匠はついてこないんですか?」
「荷解きとか色々あるでしょ。私はここで待ってるから。30分後にもう一回ここに来なさい」
そう言うと、どっかに行ってしまう。
俺は仕方なく2階に上がって、自分の部屋に入った。
「なんだこれ」
部屋には大きなベッドにお洒落なテーブル。お風呂とトイレも付いていた。
俺、出世払いで払い切れるかな。
豪華な部屋に萎縮しながら俺は荷物を広げた。
「遅いわよ!」
まだ20分しか経ってません師匠。
俺は急いで荷解きを済ませると、1階に降りた。
師匠は結構な時間待っていたらしく、暫く不機嫌だった。なんと理不尽か。
師匠は外に出ると、ギルドの方へと歩き出す。
しばらくの間、無言の時が過ぎた。
ギルドに着く頃には師匠の不機嫌も治った様で、ギルドに着くなりダッシュで掲示板へ走っていった。
俺は置いていかれないように着いて行く。
俺が師匠に追いつく頃には師匠は一枚の紙切れを持っていた。
「ギル!これがあなたの初クエストよ!」
紙にはゴブリン討伐の依頼、と書かれていた。
またゴブリンかよ。
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