第12話 休日

 それは入院生活3日目の昼に起こった出来事だ。


「すまんな少年。くるのが遅くなった」


そう言いながら入ってきたのは俺が訪ねたときギルドにいた2人のうちの片一方、おっさんだった。

 名前は確かレオンだったっけ。


「え?なんでレオンさんが」


「俺の名前知ってたんだな。まあいいや、ギル、お前中々大変そうだったじゃないか、今日は労いに来たぜ」


そういう間柄だったけ?妙な距離の近さと事情を知っている事について多少不審に思ったが話を続けた。


「なんで俺がここに居るってわかったんですか?」


「ああ、ミーアが教えてくれてな、心配になったから駆けつけたって訳だ」


何話してんのあの受付嬢。公私混同するなよ。

 不満が顔に出てたのか、おっさんは受付嬢のフォローをする。


「まあ、アイツが俺に話すのはしょうがない事だから、ここは一つ、許してくれないか?」


手を合わせて頭を下げる。

いや、別に気にしてないけど。


「い、いや大丈夫ですよ。気にしないでください」


「あ、そうだ。そういえばギルに渡したい物があったわ」


そう言って、持ってきた袋を漁る。

そして、一振りの剣を取り出した。


「ほらよ、これ。治ったら冒険者になるんだろ?Eランクには勿体ないが、やるよ」


 剣を受け取る。

鞘に納められている剣は、静かに銀色の光を湛えている。

 鞘から抜いてみる。

抜いた瞬間、刀身から白い輝きが放たれる。

陽の光を反射して光っている剣を見て、俺は感動をした。


「こ、こんな高そうな物、貰っていいんですか?」


 剣を持つ手が震える。

絶対これ高い奴でしょ。

おっさんは俺の様子を見て笑いながら答える。


「おう、いいぜ。その代わり、これから冒険者として頑張るんだぞ!」


「は、はい!」


これを機に俺はおっさんと打ち解けたみたいで、変な探り合いは無しで話すことができた。

 そしてひとしきり話すとおっさんは帰るわ、と言って部屋を出て行った。



 それから1時間後。


「...お邪魔するわ」


ミレイさんが来た。


「あ、ミレイさん。お久しぶりです」


「...サヤにやられたって...聞いて...死んだかと...思ってたけど...平気そうね」


ミレイさんと師匠って偶にナチュラルに酷いこと言ってくるよね。


「これくらい大丈夫ですよ!」


「...それなら良かったわ」


そこからはたわいもない話に花を咲かせた。

 しかし何かに気づいたようで急に表情を変えて俺に聞いてくる。


「...ギル、...あの剣何?」


「え、その剣はレオンさんから貰いました!凄くかっこいいですよね!」


この一言を聞いた瞬間、ミレイさんの顔が凍りつく。


「...レオンから...貰ったの?...タダで?」


「はい、そうですけど」


「...何か渡すとき...言ってた?」


うーん、あまり覚えてないな。


「何も特別なことは言ってないような、あー確か、冒険者として頑張れよみたいなことを言ってましたね」


「...それね」


ミレイさんはやれやれとため息を吐きながら説明する。


「...冒険者として...頑張れって、言い換えると...ギルドの為に...尽くしてくれ...って事よ。...つまり上手く...言質を取られた....って訳ね」


「え?なんでレオンさんがわざわざギルドの為にそんなことしたんですか?」


 頭が混乱する。全然分からない。もしかして嵌められた?


「...知らないの?...レオンは...ギルド長よ」


は?あのおっさんがギルド長?分からなかった。道理であんなに知ってるわけだ。


「...まあ、...レオンも本気で...言っている訳じゃ...ないと思うわ...多分」


 その一言を聞いて安心する。

しかし冒険者になるとこういう駆け引きと重要になりそうだなぁ。

ちゃんと勉強しなきゃ。

 密かに決意を固める俺であった。

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