姉と妹


 シーラは、姉のシュリンに夢の話をこっそり打ち明けたことがある。すると、シュリンは髪の毛を結い上げながら、くすくす笑った。

「シーラ、あなたって全然女の子らしくないって思っていたけれど……意外と少女趣味な妄想を持つのね」

 ウーレン族らしい豊かな黒髪を鏡を見ながら整える姉は、五歳年上で、いかにも都会的で洗練された少女だ。いつも花の香りの香水を付けている。

 ところが、シーラのほうは、まるで姉妹とは思えないほど粗雑だった。くちゃくちゃの赤茶けた髪を縛り、馬丁のような服を着て、野山を駆け回っている毎日だったのだから。

「そんな運命的な相手がいるわけないじゃない。素敵な人に見初められたいなら、ただ夢なんか見ていてもだめなの。ちゃんと、教養を身につけて、美しくならないとね。あなたみたいに何もしないで、ドロだらけで遊んでいたら、相手も逃げちゃうわよ」

 それ以来、シーラはこの夢の話を誰にもしていない。


 幼いながらに、シーラははっきりと感じていた。

 都育ちの姉は、田舎育ちのシーラのことを、少し軽蔑している。

 と、同時に、両親がシーラだけを田舎に残していること、姉は一緒に住まわせていることが、とても不自然に思えてきた。

 明らかに、姉と自分では、親の扱いに差がありすぎる。

 シュリンは、どうやら「良き伴侶に巡り会えるように」最高の教育を受け、作法を身につけ、美を磨き、美しい服を与えられているらしい。

 そして、シーラのほうは……。 

 どうして? と思ったら、シーラは急に悲しくなった。

 あまりに、違う。

 それまで、ただの一度も自分の身の上を不幸だと思ったことはない。

 両親になかなか会えないのは寂しいが、会えば別れていた分、余計にかわいがってくれた。

 むしろ、田舎で過ごす毎日が、楽しくて仕方がないくらいなのに。

 

 ――私……もしかして、お姉様に比べて、愛されていない?


 何も思わずに楽しく過ごせる世代は、過ぎ去ろうとしていた。

 成長してくるにつれ、シーラはデルフューン家の家族のあり方に、疑問を抱くようになってきた。

 そして、今回のお呼出し――両親の住む都に行けること。

 少し前のシーラなら、ただはしゃいで楽しみにしたことだろう。だが、もうすでに単純に喜べるほど、シーラは子供ではなかった。


 何かが起こる。何かがある。

 ――嵐の予感だ。

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