葵の独白

「葵。いつまで章ちゃんを……貴方。何しているの?」


 杏が来た。てっきりカナあたりが来ると思っていたけど、どうやらそれは私の早合点だったようだ。


「……膝枕?」

「へぇ……ふ~ん……ひ、膝枕ね……」

「……杏顔怖い。そんな顔してたら章に嫌われるよ?」

「一体誰のせいで……」

「……さあ?」

「貴方のそういう所本当に嫌い」

「……????」

「もういい‼ そんなことより早く章ちゃんを渡して‼」

「……嫌。章。疲れてる。今は休ませるの大事」

「そんな事わかってる。でもその役目なら私でも……」

「……杏はダメ」

「どうしてよ‼」

「……杏は寝ている章にいつも変な事するから」

「そ、そそそんなことしてないわよ‼ 失礼な事言わないで‼」

「……証拠写真もある」

「グッ……」


 杏は章に異常な程執着してる。そんな彼女に章を渡すのは危険極まりない。


「……んんん?」

「……起きた?」

「へ……? あ……もしかして僕寝てた?」

「……うん。30分くらい」

「そ、そっか……その……ありがとう」

「……????」


 章がなんでお礼を言っているのかわからない。


「章ちゃん‼」

「へ!? あ、杏!?」

「どうして私以外の女の子に膝枕してもらっているの‼」

「え、ええと……それは……その……話の流れと言うか……なんというか……」

「意味わかんない‼」

「……杏。うるさい」


 杏は昔からとてもうるさかった。一番うるさかったのは唯だけど章に関することで一番うるさかったのは紛れもなく杏。私は杏のそういう所あまり好きじゃない。


 杏は章の事を信用していない。それが彼女の行動によく表れている。逆に一番章の事を理解しているのは私……と言いたいところだけど事実は違う。真に章の事を信用しているのは、唯だろう。理由は単純。唯はとても真直ぐな子だから。


 その理論で言うと私はどうなるのだろう? 私は真に章の事を信用できているのだろうか?


「……」

「葵? どうかしたのか?」

「……何でもない」

「本当葵って何を考えているのかよくわからない」

「……杏に理解してもらう必要はない」


 私は章に私の事を理解してもらえればそれでいい。他の子からどう思われているかなんて興味はない。


「あっそう。。そんな事より章ちゃん。私の膝空いているんだけど……」

「え、ええと……」

「……章が困っている。それに杏の汚い膝じゃ章が可愛そう」

「誰の膝が汚いって!?」

「……杏」

「二度も言った!? この……‼」

「まあまあ。落ち着こう。ね? 杏?」

「章ちゃんがそういうなら……」


 杏は章に従っている様に見えてその実懐に黒い何かを隠している。今だって章が居なかったら私の事殺しに来ていただろう。これは冗談なんかではなく、本当の事。彼女は人殺しに躊躇いがない。今は章がリミッターになっているがもし章がいなくなればその時は……どうなるかわからない。


 杏は本当に怖い子だ。杏は頑なに友人を作ろうとしない。一体何の意図があってその様な事をしているのかはわからない。でも碌な事を考えていないということだけはわかる。


「章‼ 起きたか‼」

「ちょっと唯さん。耳元で大声で叫ばないでくださいまし」


 今度は唯とカナが来た。この分だと他の子が来るのも時間の問題だろう。折角章と二人きりになれたのに……


「……本当に邪魔な人達」

「葵? 今何か言ったか?」

「……何も言っていない」


 危ない。危ない。危うく本音がバレてしまう所だった。


 章は昔から根っからの平和主義で、人と人が争うのを大層嫌っている。その本質はきっと今も変わっていない。そんな彼の目の前で争いごとを起こすなど自殺行為に等しい。


 しかも今章は混乱している。その理由は私達五人が皆一応に彼の彼女を名乗ったから。その事については心苦しくは思うがこちらとしても絶対に引くわけにはいかない。


 もしここで引いてしまったら章は絶対に幸せになれない。


 唯や秋葉に章を取られる分にはまだ許せる。あの二人は章の事を本当に大事に思っている。でも杏とカナリアは絶対にダメだ。あの二人に渡すのだけは絶対にダメ。もしその様な事になれば章は……


「葵。本当に大丈夫か? さっきから顔色が悪そうに見えるが……」

「……問題ない」


 表情の乏しい私の些細な変化にも気づく章のこういう所……私は堪らなく好きだ。


「……章は私が守るから」

「????」


 今は気づかなくてもいい。でもいつかは私の思いに……

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