カナリア・アーノルド
「あ、すまん。ちょっと忘れ物したから家に帰るぞ‼」
「家はここから近いのか?」
「大体十分くらいだな‼ それじゃあちょっと行ってくるぞ‼」
「は、はぁ……」
唯は例えるな……そう……暴風。ゲームで言う所の風属性キャラは間違いなく彼女だ。その理論で言うと杏は間違いなく闇だな。ヤンデレだし、時々顔怖いし。うん。絶対そうだ。
「ふぅ……もう行ったよな」
やっと一息つける。それにしても前の自分が二股をかける様な屑野郎だったとは……思い出すのがだんだん怖くなってきた。
過去の自分と今の自分の纏う雰囲気は変わらないと皆言うが、思考は絶対に違うだろう。少なくとも僕は、二股をかける様な屑な倫理観は持っていな……
「いや、待て。一旦冷静に考えよう」
そもそもどうして自分の事を疑ってかかっている。もしかしたら二人とも嘘をついているケースだって考えられるじゃないか。
二人の様子は明らかに嘘をついているようにはみえなかった。でもそれは演技で、さらに僕の前で見せたあの表情や仕草、そのすべてが嘘の可能性だってありえる。
「……これ以上考えるのはよそう」
もしみんながみんな僕を騙そうと考えていると思うと途端に恐ろしくなってきた。それにあの二人が僕に抱いている感情は明らかなる
「章さん‼ 章さんですわ‼」
リビングの扉が開くのと同時に、プラチナブロンドの髪にアメジストの様に美しく、人を惑わす妖艶な瞳をした少女が現れた。こんな時間に現れる人と言ったら僕の幼馴染以外ありえないだろう。それにしてもまた美少女か……あれか? 普通の子はいないのか?
「よかったですわ‼ 本当によかったですわ‼」
「よ、喜んでくれてるところ悪いのだけれどいきなり抱き着くのは勘弁して欲しい……かな?」
「こ、これは失敬致しましたわ……」
見た感じこの子は普通そうだ。いや、まあ容姿のレベルとか胸の大きさは普通ではないけれど正確に関しれ言えば、他の二人に比べて明らかに普通。ただ一言うならばその身にまとう雰囲気が異質だ。
「ええと……君ってもしかしてかなりお金持ち……?」
「いえ、いえ。そんなことありませんわ」
「へ、へぇ……」
絶対嘘だ。普通の過程に育った女の子が語尾に『わ』などつけるはずがない。
「それじゃあ僕の家と比べて君の家はどれくらい大きいの?」
「章さんの家と比べてですか? そうですね……おおよそ百倍はあるかと……」
「へぇ……百倍……」
「敷地を合わせるともっとあるかと思いますわ」
「ふ、ふ~ん」
やっぱり嘘じゃないか‼ どうしてそれで普通といった‼ もしかしてあれか!? 普通として見られたいお年頃的なあれなのか!? だとしたら勘弁して欲しい。その家が普通だったら僕たち庶民はどれだけ惨めなんだよ。あれか? 僕の家は犬小屋と同じとでも言いたいのか!?
「もしかしてまだ体調が悪いのですか?」
「そ、そんなことないよ……?」
ナチュラルにその特大サイズの胸を押し当てるのは止めて欲しい。僕だって男だ。そういう事されたら……してしまうではないか。
「私の顔に何かついていまか?」
「い、いえ……何も……」
この子自分の行いに全く気付いていないのか? 今、自分が何をしているのかを!? もしかしてあれか!? あれなのか!? これが俗にいう天然系無自覚女子!?
都市伝説の類のものかと思っていたがそんなものが実在しているとは……
「そ、その一つお聞きしたいことがあるのですが……」
「ん? 何かな?」
「章さんはその……記憶喪失と伺ったのですが……」
「ああ、それね。うん。どうやらそうみたい。ああ、でも勉強とか一般常識の類は全部覚えているんだよ。忘れたのは人間関係とか僕の名とか性格とかそんなところ」
「そ、それじゃあ当然の私の事も……」
「あはは。ごめんね。でもまた仲良くしてくれると嬉しいかな」
見た感じ天然なだけで、この子は何ら問題なさそうだし、仲良くしても問題はないだろう。むしろこちらからお願いしたいくらい。
「当たり前ですよ‼ 大切な
「ん? ちょっと待って。今なんて言った?」
「え、あ、そうですよね……章さんは記憶を失ってしまったから私と恋人関係だったことも……」
ああ、うん。聞き間違いじゃなかったのね……ああ、クソ。どうやら僕がしていたのは二股ではなく、三股だったらしい。控えめに言って死ねるな。うん。
でもこの子とてもいい子そうだし……恋人関係をなかったことになんて……
「あの時の甘く、幸せなひと時を忘れてしまったのは本当に悲しいですが大丈夫ですわ‼ 何せ章さんは生きて今、ここにいるのですから‼ 失った思い出よりも濃い物を今後もっと気づいていけばいいだけの話ですものね‼」
うわぁ……ここまで断言されちゃたら言えるわけない……ああ、もう……どうしよう……
「あ、そう言えば君の名前まだ聞いてなかったね」
「申し遅れました‼ 私カナリア・アーノルドと言います。親しい人からは
「うん。記憶した。これからよろしくね。カナリアさん」
「ええと……カナとお呼びいただけると嬉しいのですが……」
「わ、わかったよ。カナ」
「はい‼ よろしくお願い致しますわ‼ 章さん‼」
名前一つでそこまで悲しそうな顔をされてしまっては断るわけにはいかないじゃないか‼ 畜生‼ それにこのパターン……もしや他の二人とも付き合っていたりして……な、なんてこと流石にないよな‼ あはははは‼
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます