第1話 天上の間
俺の国では二十歳になると神殿にある【天上の間】にて神から職業を与えられる。別に職業などは自分でも決められるが、神にその【職業】を与えられるとスキルを覚え、生活が楽になるのだ。
ある者は戦いに長け、ある者は製造に長け、ある者は食物作りに長ける。神から与えられるその【職業】の種はピンからきり。また、それでも、なりたい職があるから。と恩寵なしで目指す異端者もいる。
そんな人間等はともあれ、俺もその【天上の間】に立っていた。しかし、ここには魔方陣のみ。俺以外の人は誰もいない。これは原則として、他の者に職業を知らせないための配慮らしい。
とはいえ、では何故、俺が他の者の【職業】について知っているか。理由は簡単なものだ。
見せびらかす者。そして前例があり、一つスキルを見ただけでその職だと見抜かれる者。後者は憐れだ。隠そうとしても噂は瞬く間に広がるのだから。――とはいえ、それでもこの国の大半の人は自分の職を明かしているのだが。そのほうが生活しやすい為に。
部屋に入った俺は、魔方陣のほうへ向かった。
さっき、ここで神から【職業】を与えられると言ったが、正確には違う。ここはなんでも、神の世界へ通じる繋ぎなんだとか。それで、この魔方陣はその世界への移動の鍵らしい。だから、俺はここへ入ったら魔方陣の真ん中に行けばいいとだけ聞いている。
全体が金で装飾された部屋の中心にひとつ――目玉が描かれた六芒星。その目の中心に立つ。
するとすぐだった。
白い光に包まれ、世界が回るような錯覚。酔いそうになる感覚に目を閉じようとするが、瞬(まばた)きをしてそっと瞼(まぶた)を持ち上げた時には、既に、俺は違う場所へと移動した――気がしていた。しかし、
移動······したのか······?
そこは、先の金装飾の部屋にひどく酷似していた。部家全体が、金色から、穢れを無くしたように白くなっただけの造りのよう。一瞬だけ、世界中の時が止まったような錯覚に陥ったが、そうではなかった。
そう思ったのは、もう一つ変化だけあったから。
そう。
それは、俺の目の前。
あまりに大きいため気付かなかった。
「次はお前か」
それは、俺の立つ魔方陣の外で、宙に浮いてた。
これが、神か······。
部屋の4分の1は埋め尽くしそう大きな黄色の太陽――いや、縦向きの一眼、と言ったらいいだろうか。俺は魔物(クレイブ)を見たことはあるが、てっきり神というのはもっと年老いた人の形をしてると思ってたため、これにはかなり驚いた。
······はっきり言って、気持ちが悪い。
すると、向こう側さえ見えないほどの――その大きな気味の悪い神は、黒目をギョロりとさせた。
「人というのは、いつも見た目で判断するな」
口もないその存在の小馬鹿にするような畏怖を覚えそうな低い声に、俺は再度、身が震えるように驚いた。それはもちろん、声にだけではなく、直前と後に続く言葉で。
「そう思ったのも、貴様で8966億9653人目だ」
耳を疑うような言葉だった。この国の人口はおよそ700万人。仮にその人口を1000年見ても来ても足りない。この神はいったいどれほどの人生きてきたのか。
「そう思う人間にも飽きたもんだ」
やはり、この神は心を読めるらしい。すると、
「まぁいい」
その神は突然、その大きな眼をこちらへゆっくりと寄せてきた。離れてた時から白目の血管が脈を打っているのが見え、気味悪かったが、それが見えなくなるほど近くで見る黒目も、深淵の底を覗いているようで不気味だった。そして、鼻先に触れそうな程のその距離で神は言った。
「そうだな。貴様にはこの職をくれてやろう」
その瞬間だった。
ドクン!
と、一度大きな鼓動を感じると共に眩暈(めまい)に襲われ、俺は膝を付いた。冷や汗があふれ、吐き気も込み上げた。
「っはぁ······はぁ······はぁ······」
その最悪な気分の中で顔を上げると、その目は元の位置に戻りつつあった。
「能力(ちから)は授けた。その能力(ちから)をどう使おうと貴様の勝手だ。最優先事項を先に表示しておくが、あとは事前に神官に聞いている通り、誰もいない所で確認するといい」
すると、俺はまた白い光に包まれ、あの金装飾の部屋へと戻っていた。行きと同じような回る感覚があったが、あの目にやられた眩暈のほうが大きい気がした。
だが、やがてその揺れも収まり始め、血の気が引いた顔を上げると、そこには、
職業【死神】
制約:1日1人の命を奪わなくてはならない。
スクリーンが浮かび、最優先事項が書かれていた。
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