第10話
アーサー王太子殿下や私は、強い敵、いえ、魔獣を狩りたいわけではありません。
まあ、殿下は戦う事がお好きなようで、嬉々として狩られています。
側近の近衛騎士の方々も、武術訓練代わりに参加されています。
魔法袋に納めきれない獲物は、従士が地上と往復して運びます。
従士が五人組で往復できる深さですから、限られた強さの魔獣です。
ですが、それでも、魔獣の強さは普通の獣は比較にならない強さです。
相手が魔鼠や魔兎とはいっても、獅子や虎に匹敵します。
五人組の従士では、集団で現れたら対処に困る強さです。
だから食糧確保のための集団狩りでは、ダンジョンの地下五階までが限界です。
それ以上潜ると、五人組徒士が安全に地上に戻れないのです。
「そろそろ地上に戻られませんか?」
「うむ、少々戦い足りんが、しかたないか……」
アーサー殿下の闘争心に火がついてしまっています。
地下五階までの魔鼠や魔兎では満足できないのでしょう。
鼠や兎とは表現されていますが、実際の大きさは大型犬並です。
そんな魔獣でも殿下の手にかかれば戦斧の一撃で肉片に変えられてしまうのです。
それでも十分余力をもって戦われている事は、背中に背負われた巨大な斬馬刀を一度も使われていない事で明白です。
「それでは、ここで小休憩されて、その間に魔法袋の獲物を全て従士達に運ばせて、軽く地下六階に潜られますか?」
「そうさせてもらえると、私も近衛の者達も満足できる。
だが聖女ソフィアは大丈夫か?」
「お任せください。
まだまだ魔力も体力も残っております。
もちろん帰りの事も、不測の事態も想定しております」
嘘ではありません。
本当の事です。
魔力も体力もほとんど消費していません。
私自身も驚いているのですが、凄まじいほどの魔力です。
アポローン神様だけの聖女であった時とは比べものになりません。
でも、全く嘘をついていないわけではないのです。
とても重大な嘘をついているのです。
私はアーサー殿下に、魔法袋の容量を偽っているのです。
最初から嘘をつこうと思っていたわけではありません。
ダンジョンに潜る前、計画段階では、アポローン神様だけの聖女であった頃の容量を報告して計画を立てたのです。
でも実際にダンジョンに潜って狩りを行ったら、とんでもない魔力量になっていて、魔法袋の容量も桁が二つ三つ違っていたのです。
いまさらそんな事は話せません。
魔法袋の容量が増えたことを正直に話したら、魔力量の増加に気がつかれてしまい、大騒動になる事が目に見えているのです。
まあ、でも、殿下の戦う雄姿が見てみたいという欲には抗えませんから、少しくらい深く潜るのはいいんじゃないかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます