第9話

「アーサー殿下。

 昨晩ヴィーザル司法神から神託を得ました。

 ダンジョンに入って魔獣を狩り、民に配れとの事でございました」


「なに?!

 神託を受けただと?!

 我が国には長らく聖女が現れなかった。

 ヴィーザル司法神は聖女を選ばれない神かと思っていたのだが、違ったのだな」


「私が神託を受けた事、どうかご内密に願います。

 いらぬ嫉妬を受けることで、この国にご迷惑をかけたくはありません」


 人とは度し難い生き物です。

 自分の利益やプライドのためなら、平気で悪事を働きます。 

 善良な人を陥れ、金や名誉だけではなく、命まで奪う業の深い生き物です。

 他国者の私が、長らく選ばれなかった聖女に選ばれたと知られたら、守護神殿に仕える修道女や神官は面白くないでしょう。


 自分達のプライドを護るために、私を陥れようとする者が現れるのは、ほぼ間違いありません。

 そんな神殿関係者に負ける私ではありませんが、その事でこの国が混乱し、ヴィーザル司法神がこの国を見捨てるようなことになってしまったら、本末転倒です。

 秘密にできるならそれが一番なのです。


「そうか、ありがとう。

 自分の名誉よりも、この国の事を想ってくれているのだな。

 国民に成り代わり、礼を言わせてもらう」


 アーサー王太子が深々と頭を下げ、更に騎士の礼をとってくれました。

 アーサー王太子に私の考えが正確に伝わったのでしょう。

 同時に、神殿関係者の中に腐った者がいることがはっきりしました。

 アーサー王太子には、私が聖女に選ばれた事を隠さなければいけないと思う神殿関係者の顔が、思い浮かんだのでしょう。


「神殿の大掃除は、時間がかかっても必ず行う。

 だがそのためにも、アポローン神の聖女、イザベラ殿の名声を広めておいた方が、国民を巻き込まずにすむ。

 イザベラ殿の名でダンジョンで狩った魔獣を国民に配ろう」


「いえ、それでは王家の名声を聖女が凌ぐことになってしまいます。

 それでは国の統治に問題がでます。

 アーサー殿下のお考えを取り入れながら、聖女の名声を高めるためには、殿下と聖女の連名で国民に食糧を配りましょう」


 私は自分の名声を高めたいわけではありません。

 命の恩人アーサー王太子に恩返しがしたいだけなのです。

 堅苦しい王宮暮らしは苦手なのですが、アーサー王太子の大らかな性格が影響しているのか、王太子宮は思っていたよりは自由にさせてもらえます。

 仕えている侍女も侍従も、すましたいけ好かない連中は少ないです。

 まったくいないわけではありませんが、我慢できる範囲です。

 何よりもイケメンのアーサー王太子を見ていたいのです。

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