第6話

 予想していた通りでした。

 外れて欲しいと願っていた予想が、当たってしまいました。

 野獣王太子には、色濃くアポローン神の気配がしたのです。

 アポローン神の神性の一つ、疫病神の力です。

 野獣王太子の姿は、アポローン神が疫病神の力で呪ったのです!


 アポローン神の気配を感じることができるという事は、まだ聖女の力が使えるかもしれません。

 野獣王太子の容姿を、人間に戻せる可能性があるのです。

 問題は、この呪いが先代聖女イザベラ様がかけただろうという事です。

 私よりはるかにアポローン神に寵愛されていた方がかけた呪いを、私がアポローン神に願って解呪してもらえるかどうか……


「アーサー王太子殿下。

 殿下の身体から、アポローン神の力を色濃く感じます。

 もしかしたら、殿下のお姿は、アポローン神の呪いかもしれません。

 私の力で、先代聖女様のかけた呪いを解呪できるかどうかわかりませんが、試してもいいでしょうか?」


 野獣王太子は即答されません。

 全身から発せられる気配の感じでは、私を信じていないわけではないようです。

 野獣の姿から人間の姿に戻れない理由がなにかあるのでしょうか?

 それをお聞きしなければ、無理に進める事も、このまま去る事もできません。

 まあ、絶対に解呪できる自信もないですが。


「人間の姿に戻りたい想いはある。

 だが同時に、この姿だからこそ、守れるモノものある。

 王太子として、率先して軍の先頭に立たなければけない事がある。

 陰謀策謀を駆使して、神との契約を破ろうとする者もいる。

 アポローン神のように、守護神の護りを打ち破るような神もいる」


 お優しい方です。

 個人的には人間に戻りたいでしょうに。

 民を護るためなら、あえて野獣の姿のままでいようとされます。

 近衛の騎士達がすすり泣きしています。

 今回だけではないのでしょう、常に民のために己を殺しておられるのですね。


「ならばシャノン王家の守護神、ヴィーザル司法神にお尋ねされてはどうでしょう?

 以前とは違って、今ならシャノン王国を守れるかもしれません。

 ヴィーザル神の力が増しておられる可能性もありますし、アポローン神の力が減じている可能性もあります」


「そう、だな。

 守護神ヴィーザル様にお聞きしなければ、何も決められないな。

 聖女ソフィアの貴重な時間を奪い、手を煩わすのは申し訳ないが、頼むしかない。

 今しばらく私を助けてくれないか?」


「私の方からお願いいたします。

 命の御恩には、命を賭けたお礼が必要だと思っています。

 ただ、私の力が及ばない可能性もあると、最初に謝らせていただきます」


 

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