第5話
サヴィル王国領内を抜けるまでの間に、何度も襲撃を受けました。
最初は普段盗賊や山賊をしているモノ達が襲撃してきました。
ですが後半は、明らかに訓練を受けた正規兵でした。
と、野獣王太子の近衛騎士達が話してくれました。
国境を抜ける前には、兵士ではなく騎士が襲撃してきたそうです。
普通なら、殺さずに捕虜にして、人質として身代金を請求します。
ですが、今回の敵は自害してしまったそうです。
とても恐ろしい話です。
この大陸の常識が通用しないのです。
だから後半は危険な捕縛にこだわらず、殺す気で戦ったそうです。
もっとも、野獣王太子の場合は、敵が殺す気で来ていても問題なかったそうです。
基本的な実力が桁違いなのです。
恐らく板金鎧の中の容姿は、身の毛もよだつほど恐ろしいのでしょう。
それを恥じてか、それとも見てしまった人に恐怖を与えないようにか、絶対に板金鎧も兜も外されることはありませんでした。
野獣王太子が鎧も兜も全身を覆う鎧下着も人前で脱げるのは、幼い頃から側近くに仕えていた近衛騎士だけなのだと、誇り高く近衛騎士が話してくれました。
彼ら近衛騎士には、野獣王太子は誇りをもって仕えられる主君なのでしょう。
私もこの数十日お世話になって、少し気持ちが分かります。
お礼を、しなければいけないですね。
昔読んだことのある大好きな物語に、命の恩は命で返すというモノがありました。
さすがに、命懸けで一緒に戦うことなどできません。
戦えないわけではありませんが、やっと手に入れた自由です。
命の恩人であろうと、易々と手放す気にはならないのです。
だから、命に匹敵する恩返しをします。
ですが、そのためには、私にまだ力が使えるかを確認しなければいけません。
サヴィル王国領内にいる時には、まだアポローン神の力が使えました。
先代聖女イザベラ様のように、アポローン神の全ての加護を使えるわけではありませんが、治癒と遠矢と光明と疫病の加護は使えました。
それがシャノン王国領内でも使えるかどうかです。
「アーサー王太子殿下。
命のご恩をお返ししたいのです。
ただ、シャノン王国に入った私にアポローン神の加護が使えるかが分かりません。
それを確かめるために、素手で握手させていただけませんか?」
さて、野獣王太子は私に素手で握手してくださるでしょうか?
心に大きな傷があるのなら、野獣のような手を見せるのも、その手で握手するのも、絶対に嫌だと思います。
私をエスコートしてくださったときも、会場で誰かの手を取るときも、真銀製の籠手を着けたままでした。
私に心許してくださるでしょうか?
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