第14話
「でしたらジェミー様。
神殿の畑で牧場をされてはいかがですか?
神殿の畑はとても広大です。
その四分の一は常に休耕されています。
普段は羊や山羊を放していますが、一緒に馬も離されてください。
広大な未開地も隣接しております。
そこを切り開いて牧場を広げられるのもいいでしょう」
私の願いは半分叶えられました。
でも半分はかなえられませんでした。
もうソロモン皇国の手からは逃れられませんでした。
ソロモン皇国は、マクリントッンナル王国を併合する決断をしていました。
生命神殿も、マクリントッンナル王国領に布教できると、ソロモン皇国の命令にしたがい、私達を手放しませんでした。
「だが心配しなくていいよ。
皇帝陛下が誓約書を届けてくださった。
私とジェミーを公爵に封じてくださるそうだ。
マクリントッンナル王国領内ではなく、皇国でも辺境の小領地だけど、のんびりと暮らさせてくれるそうだよ」
「そうですか。
それはよかったです」
完全に信じるわ事はできません。
国同士の約束など、状況によっては平気で破棄されます。
不可侵条約など、全く当てになりません。
国力に差がつけば、条約破棄通知も宣戦布告もなしに攻め込んできます。
それが国同士の約束、王侯貴族の約束です。
皇帝陛下の誓約書も紙きれでしかありません。
ですがレオナルド様が信じておられるのです。
余計な事を口にするわけにはいきません。
なかには信義を重んじる王侯貴族もいます。
極稀にですが、いないわけではないのです。
そういう方が相手なら、レオナルド様のように信じきる態度が大切です。
「至誠天に通ず」という言葉もあるくらいですから。
それに、公爵と広大な領地を与えるという約束よりは、公爵位は与えるが領地はほとんど与えないとういう約束の方が、まだ信じられます。
追放され行き場のないところを助けられる立場です。
王国が皇国に併合されたら、私達は亡国の王族となるのです。
進んで領地を返上する方が生き延びられる可能性が高くなります。
「レオナルド様。
いっそ公爵位を遠慮されてはいかがでしょう。
二つも公爵位をいただいたら、小領地では体面が維持できなくなります。
それではお二人のお子様が苦労されることになります。
小領地に相応しい伯爵位か子爵位を望まれた方が、ソロモン皇国の印象もよくなると思うのです」
よかったです。
私の言いたかったことを、ソニーが言ってくれました。
私達の生殺与奪の権利は、ソロモン皇国が握っています。
眼をつけられないように、今の皇帝陛下と重臣達だけでなく、次代の、いえ、代々の皇帝と重臣達に眼をつけられないようにしなければいけません。
レオナルド様は分かってくださるでしょうか?
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