9日目 全面戦争 決戦!新第三病棟記

 それは些細なようで、些細でないようなことから始まった。

 戦争の火種とは、往々にしてそのようなものなのだろう。


「タバコをお願いします」

 1時間の外出である。


 トーカさんは、(9話目くらいになって本当にいまさらですが、この日記では一人称が俺だったり自分だったり私、トーカ、とーかさんなど、ぜんぶ同じです)実はあまり煙草を吸わない。もちろん吸うのだけれど、冬、外ではあまり吸わない。寒さに震えながら吸うことが性に合わないのさ。

 ひょっとしたら寒さに震えながら煙草を吸うのが、はやく煙草よ、吸い終わってくれと心の中で無意識に思ってかもしれないことが、煙草に対して失礼という意識が働いているのかもしれない。


「タバコお願いします」

 タバコを預けているということである。預けていない人もいる。というか、預けているひとはトーカさんくらいである。意味はわからない。

「今日はどれにします?てへ」

 ナース が聞く。どの煙草にするかということ。ストックは、ブラックストンストロベリィ、ゴロワーズ両切り、ブラックデビル。

「黒黒で・。。」

 ブラックデビルの黒に、黒いZIPPOということ。

 

 本当は、トーカさんには宝物がある。黒いZIPPO(スタンガン式ライター)とは別に、銀色のZIPPO。これには、大好きな漫画の絵が彫られている。これは前回のロング外出の時になじみの煙草屋さんに彫ってもらったもの。ぶっちゃけ、スペリオール連載だった「響〜小説家になる方法」の響。「文句があるなら私にどうぞ」というセリフの名シーン。


 これはできたとき、「うおっ、すげえ!!わあ・・・」と感激したものだった。


 しかしいちいち煙草を預けなければいけないのは解せない。というか、自分だけが煙草を預けるような状況にあることが解せない。待遇が違う、扱いが違うことが解せない。


 だから言ってみた。「どうして他の人たちは100円ライターを自分で持っているのに、自分だけ預けなければいけないんですか?」


 ナースがいう。

 それは先生の指示であると。それと、アルコール関係で入った人は、アルコールへの欲求が、タバコへ向かうことがあるのだと。だから院内でZIPPOを持つことはできないのだと。


 話が通っていない。医師の指示というのは仕方ないというのはわかる。

 しかしタバコの量が増える云々は・・・別に病院内で煙草をすうわけじゃない。吸えるわけじゃない。煙草を吸いに行く時は、預けているZIPPOを使わせてもらうのだ。外であればいくらでも吸うことができる。


 ・・・わけがわからない。

 

 こうも言っている。

 病院で隠れて煙草を吸っていることがあった時、ZIPPOや煙草を預けていることで、とーかさんを容疑から外すことができる。守ることとができるのですよ。


 何か、政治家の言い逃れ答弁みたいだ。


 別に、ライターを使わせてもらって、病棟に戻る時に、こっそり中で吸うことだってできるではないか。



 すると、病棟のラスボスが出てきた。

「トーカさんにZIPPOをお預けすることはできません」

 こういうやつ特有の、本心を表面に出さない、張り付いたような笑顔でそう言い放ってきた。



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