第30話


 

 

「今日は遅いから、ふわりと海夏君は先に帰っといてくれ。パパはもう少しお話があるから」


 大人達が行き来するなかパパが言った。




 昨日と同じように。二人きり。

 もうすぐ、あの帰り道と同じ、外灯の点滅が治っていない所だ。

 あそこで海夏君に手を振り払われて『なんで……なんで助けたんだよ』って言われたっけ……。

 昨日のことなのに、変なの。遠い昔のことに感じるや。

 隣り合わせ無言で帰っていると、堰を切ったように海夏君が。


「このッー…バカッ!」


うええええ?!!


「ふわりが、言ったんだろ」


 あたしは海夏が怒っている理由が分からなくて。でも、掴まれた両肩に力が籠もってるから、何だか凄く怒らせてしまっている事だけが伝わる。


 あたし、何かしたっけ……?


 思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出そうとするが混乱して思い出せそうにない。


「俺に散々、人に頼れって言ったくせに。言った張本人が頼らずに突っ込んでどうするんだよ」


『忘れるわけないッッ!私達……親友でしょ?何で黙って消えたのかずっと心配だったんだよ?!龍だって……怒ってるよ!プンプンだよ!!』


『一人で悩まないで、相談してよ……』


『もっとー…もっと頼ってよ! 役に立つかどうかは分からないけど、役に立たない事の方が多いだろうけど、それでも! 話を聞くことは出来るし、一緒に考える事だって出来る。龍も、真白も、皆いるんだから』


『ー…寂しからったんだから』


 全部、ふわりが言ったんだ。

 いつの間にか、あの、点滅する街灯の下まで来ていた。


「俺はふわりのおかげで変われたんだ」


 ふわりが海夏に言ったんだ。だから。


『今度からはちゃんと、ふわりや龍や真白に頼るよ。皆をー…頼るようにするから』


――この場所で。


 これ以上周りを傷付けたくなくて。誰も頼ろうとしなかった。一人で何とかしようと塞ぎ込んでいた海夏に。

 人を頼るということを教えてくれた。


「ふわりが本気で心配して怒ってくれたから。皆が心配して怒ってくれたから。俺は皆を、初めて頼ったんだ」


 置き手紙を書いたあの日の朝。皆を頼ることにした海夏は、龍や真白の所に相談しに行ったそうだ。それなのに。


「それなのにー…家に帰ったらふわりが居ないしっ!」


 あたしときたらぁあああ。そうだ。やらかしてしまったっ……。早とちりして、やらかしてしまったんだっ……。


 海夏君が溜息をつく。


「本当にー…焦ったんだからな。昨日の今日だから早とちりだったら本当にヤバいと思って……もっかい龍や真白の所に行ったあとすぐに向かって良かったよ……」


 これじゃ、怒られてもしょうがない。

 あたしは肩を窄めながら反省。 


「ー…ごめんなさい」


 海夏をじっと見つめながら言うと。外灯に海夏は背を向けている筈なのに、下から目線の暗いはずの瞳がやけ綺麗に感じた。

 何かを、じっと堪えてるよえなー…。

 肩に手を乗せたまま、ふいっと下を向き、今度は大きな溜息をついた。


「そういえばー…本当に良かったの?」


 ふわり自身は嬉しいことだが、海夏君はどうだろか。そう思ってふわりは聞きたかったことを問う。


「何が? あー…このまま一緒に住むこと?」


 

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