第29話
「警察の人がどうしてー…」
「兄ちゃだ!」
義父を乗せたパトカーとすれ違い、道沿いから海夏君のお母さんと手を繋いだ柚ちゃんが、アパートの前にいたあたし達に気づく。仕事終わり、日課なのか、スーパーに寄ったのだろう。袋からネギを覗かせていた。
「兄ちゃぁああああ!」
「柚!」
パッと手を離すと猛ダッシュ。こっちに向かって来ると知ると、少し屈みながら両手を広げる。その中に、ジャンプをして入ると勢い余ってくるくると回転。
「柚。俺、一応怪我人……お前も怪我すると危ないからあんまりはしゃぐな」
「わかってるもん!」と言いながらも、手を繋ぎながらジャンプをするから、海夏君の腕がヨーヨーのゴムみたいになっちゃってるよ……。
なんだか。あんな別れ方したから、今が物凄く微笑ましい。
良かったぁ。良かったね、柚ちゃん。
「「え! 何?!」」
龍と真白が突然の出来事に声を揃えた。
「「海夏の妹っ??!!」」
だよねぇ……。そうなるよねぇ……。
言葉でしか聞いてこなかったから。初対面のは驚くよね。
真白が「かわ、可愛すぎる♡」と絶賛。目にハートを浮かべながら、人見知りを発動した海夏君の後ろに隠れ気味の柚ちゃんに挨拶しだした。
「お前、柚って名前なのか」
龍が気にせずに尋ねるが、柚ちゃんからすれば上から目線の龍が怖い人に見えたのか。より一層海夏君の袖をギュッと掴み隠れる。
「龍のバカッ! 怖がっちゃったじゃん」
「バッ?!…………」
思いもしなかった真白からの説教に龍はショックを受けてしまい、いつもではあり得ないほどドンより。
真白のことは怖くなくなったのか、柚ちゃんが恐る恐る真白の元へいきあたしにしたように自己紹介を始めた。
ふと、海夏君を見ると。視線がもう違う所にいっていた。
ー…海夏君のお母さん。
近くまで来て、震える手を口元へ。目に涙を浮かばせながら海夏君の片腕に恐る恐る触れる。もう片方の手が包帯でぐるぐるなのを見て。ついに、涙が溢れてしまった。
「ごめんねー…」
「謝らないでよ。母さんー…もう、全部。終わったんだ」
全てを悟り、あんなに、手放してしまったことを。
どうしてと、後悔した。
親として許されないことをした。
離れてはいけなかった。
離れたくなかった。もう、会っては、いけなかった。
愛する息子を。もう一度。
力一杯、抱きしめれる事はないとー…。そう、思っていた。
「母さんー…痛い痛い。俺、一応。怪我人だから」
嬉しくて、つい、と言いながら抱きしめる海夏のお母さん。痛がってはいるもののやっぱり嬉しいのか、海夏君も嬉しさ溢れて広角があがっていた。
「ズビズビっ…………良かったなぁあ」
「スンスンっ……良かったね」
感動続きで、涙がもろくなっていたら。隣でパパも同じだった。
鼻をすすったパパに海夏君のお母さんが気づくと、もしかしてと思ったのだろう。
そうだ。パパを見て、これからの事。
ふわりの頭に、もしもの考えがよぎる。
もし、もしもこのままー…海夏君が元の家族にもどったら……。
それは、良いことの筈なのに。なぜか。胸がチクチクした。
パパもそのことについて話をするつもりだったのか、海夏君のお母さんに挨拶し、少し話すと。
「海夏君はどうしたい? 僕としては君にもう一度『父さん』って呼ばれたいんだけど……決めるのは海夏くんだからね」
肩にぽんっと触れると。ゆっくりで大丈夫と言いながら微笑む。
「俺はー…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます