第28話



 夕日が沈みかけていた。

 アパートの扉が開くと、まさに心配していた人の名前を叫ぶ声が聞こえてくる。散々恐怖をばら撒いた人物の声。出て来たのは警察官と義父だった。

 違う、そうわかると。ふわりと真白の立ち止まっていた足が、また動き出した。道路の道端を短く行き来し、まだかまだかと待つ。すると、もう一度扉が開いた。


「龍!」


 真白の声があがった。表情は喜々としている。ふわりも安堵した。たが、龍が道端に近付いてきても、一向に扉から海夏君とパパが出てくる気配がない。

 ふわりは龍と、扉を交互に見ながら聞く。


「龍! 海夏君は…………?」

「アイツは無事だ。何の心配もいらない」


 「良かったー…」ふわりはその場にへたり込んだ。そして、直ぐにでも海夏君の所に行こうとした。


「待てよ、ふわり」


 龍に止められて。言いにくそうにしている龍をふわりは振り返った。


「どうしたの?」

「あー…今は、辞めとけ」


 ふわりの頭はハテナマークになって。龍が頭を掻きながら。


「いいから! 言う通りにしとけって」


 龍がそう言うから、またふわりの頭にハテナが増える一方だった。


「二人共! 海夏! 出できたよ!」


 真白が指をさし、あたしも龍もさされた見えない線を辿っていく。

 扉から海夏君とふわりのパパが出て来ていた。


「海夏。もう良いのか」


 海夏とふわりのパパが階段を降りてきて、龍が海夏の元に駆け寄った。


「ああ。ありがとな、龍」


 龍がニカッと笑い、海夏もつられて微笑んだ。


 ふわりは手を振りながら海夏君に近付こうと一歩踏みだした。すると一変。

 道端に近づく途中で、一気にアパートの一階の部屋の扉まで素早く後退る海夏君。


………………。


………………。


 風が妙に冷たく感じた気がした。 

 あたしは、もう一度。一歩踏み出した。すると海夏君が扉に背中をぶつけ、目線を逸らす。


………………?


…………なぜ?


 あたしがズンズンズンズンと、近付く中。一向に目線を合わせようとせずに直前で片手を前に出して制す。


「ごめん、ふわり。今、そんなに近付かないでー…」


 どうしてそんなこと言うの? と、怪我したのを隠しているのかもと顔を覗こうと一層近づくと。


 海夏君が腕で顔を隠しながら言う。


「俺の顔、泣いたのバレるのから。そんなに近くでマジマジ見ないで欲しい……」


 ふわりは取り敢えず怪我をしていない事にほっとする。


「あたしだって海夏君の前で沢山泣いたよ? 恥ずかしがることないよ?」


 あたしのほうがずっとずっと泣いてた気がするよ……。


 ふわりのパパが近付いてきて「海夏君は男の子だから」と微笑んだ。


 それだけじゃ理由になってない気がー…。


 龍もふわりのパパの横に立つと「そゆこと」と何度も頷いた。


うぇえ??


 あたしは一番最後に近づいたきた真白に目線を向けたが、真白にもよく分からなかったらしくハテナのジェスチャーマークをした。


「ふわりも、真白ちゃんも、女の子だから」


 ふわりのパパがそう言うと、龍が「そゆこと」と何度も頷いた。

 結局、あたし達にはよく分からなかった。


――でもこれで。これでやっと。一件落着ってことだよね?


――安心して、家に帰れるんだ。


 ふわりは久々に晴れた気持ちになりながら皆と笑った。







〜ちょっとした、お知らせ〜


  初めて昨日『近況ノート』を書きました。

  『近況ノート』でも書いたのですが、

  この作品『君と家族になるなんて』で迷ってまして。


  次回くらいで一旦。区切りがいいので

          最終話にしようと考えています。


  二部として高校生バージョンを書くときは

  こちらの方に更新します。その場合、『完結済み』

  になっているかもしれませんが『連載中』に戻します。


  

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