第31話
『悪いけど、母さん。俺は、ふわりのパパの所にもう少し、世話になるよ。それにー…アイツのせいで貯金とか全然無いだろ? これ言ったらふわりのパパさんには申し訳ないけど……さ』
と、実は一緒にこのまま住むことにした海夏君。
そりゃあ、あたし的にはとても嬉しいけど……。
海夏くんがさらに付け足す。
「それにー………ふわりの1番近くにいられるし……さ」
思いもしなかった言葉にあたしは海夏君をまじまじと眺めてしまう。
外灯の点滅が、カチっカチカチっなんだか心臓の音に近い。
そろりと肩から腕を下ろすと。影が少し薄く表情がより見える。そして、釘付けになるほど一際増す瞳の綺麗さに唇が震えた。
「今回、痛いほど思い知ったんだよね。俺にはー…」
「俺にはふわりが必要なんだー…って……」
「おままごとー…覚えてる? 俺……あの時いった言葉。本気なんだよね。でも、俺は弱い。弱くてー…情けない息子でー…情けない弟でー…情けない兄でー…情けない親友だけどー…それでも」
「俺を、ふわりの彼氏にしてくれないか?」
自信がないのか、仔犬のような上目遣いが可愛いくて胸がキュッとなる。
――海夏君はそういうけど、あたしは、一度だって、海夏君を弱いと思ったことなんてない。
弱いのは、あたしのほうだ。
世間知らずで、パパや皆に守られて、のほほんと暮して来た。苦労や恐怖や痛みなんて知らなかったんだよ。
ねぇ、海夏君。そんなあたしが。
海夏君を、本当に、たすけられたんだろうか?
海夏君はあたしの言葉で変われたんだと言った。
――そうだといいんだけど。そうだと思いたいんだけど。
君を助けたいと思った。
君が突然いなくなったあとも、ずっと君だけで。
一緒に時間を過ごす内に、好きがどんどん芽生えた。
君が苦しんでるとわかって助けたいと思った。
力になりたいと思った。
変わりたいと思った。
そのままでいいって海夏くんはいってくれた。
海夏くんを、本当に、たすけられたんだろうか?
――あたしの言葉が海夏くんの力になったと、そう。願いたい。
そして思うんだ。
いたい。
一緒にいたい。
もう、君が突然。眼の前から。いなくなるのは。
君がいないのは。
嫌だ。
――どうしても、海夏君と一緒に生きていきたい。
「あたしのほうこそー…」
助けてくれた手、ぽんぽんしてくれた手、温かい片手をふわりは両手で触れ握る。顔を上げると髪がなびいた。
「海夏君の彼女に、してくれませんか?」
ゆっくりと瞳を閉じ、しばらくして瞼を開けると。海夏君も瞳を閉じていたのか。視線がぶつかった。
そして、どちらも思わず吹き出した。
「今、絶対に同じこと考えてたよな」
「うん、同じだったね」
「これは告白の返事ね」
惹き寄せられるようお互いを求め唇を触れ合わせる。
「「よろしくお願いします」」
次回、最終話
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