第26話
「龍! 海夏! 私とふわり、先に外に出てるね!」
「バカッ危ねぇから早く行けッ」
龍が振り返り扉に向かって指さしながら叫んだ。
ふわりは気になって。廊下に出る瞬間まで海夏君を見ていた。すると、義父を睨んでた海夏君の視線があたしに向かった。
「…………」
「…………海夏君なら、大丈夫だよ」
ふわりはポツリと呟いた。小声すぎて、聞こえてはいないだろう。直ぐにまた視線があわなくなった。
「ふわり、行こう」
「ー…うん」
外に出ると暗い廊下の闇から視界が明るくなり、ふわりの髪が風に吹かれる。
息が、やっと。できた気がする……。
所々穴の空いた鉄の階段を鳴らしながら降りると、アパートの前の道端にいた人物にふわりはもう一度安堵した。
「ー…パパ!」
真白が「行っておいで」と、あたしを促してくれた。
ふわりが駆け出すとパパも近付いて来て両手を大きく広げる。あたしは迷わず両手を伸ばし大きな胸に飛び込んだ。
「良かったよー…ふわりが無事で……」
大きな手が頭を何度も撫でてくれた。
でも、何でここにパパが……?
「龍くんが、会社まで連絡してくれてね。急だったからびっくりしたよー…でも、声も焦ってたみたいだし。海夏君、昨日怪我してきてたし、絶対これはただ事ではないって思ってパパ、会社抜け出して来ちゃった」
パパが優しく朗らかに笑った。
真白があたし達に近付きながら、パパの説明に付け足す。
「海夏がねー…私達にふわりが居なくなったって、家までもう一度知らせに来たの。びっくりしたよ。骨折してボロボロだったから。事情は大体聞いたよ。海夏の過去もざっとね……ふわりが大変かもしれないってわかって。私達がふわりのパパに連絡するから。海夏だけでも先にってー…」
「真白ー…。パパー…」
真白がニコっと笑った。パパは頷きながら言う。
「よく、頑張ったなー…あとは俺達……」
ふわりはやっと気がついた。パパや真白だけじゃなかった。
「大人に任せてくれ」
赤い光をちらちら揺らしている白と黒の車が停まっていて。警察官が数人パトカーの前にいた。
あたしは、パパから離れると警察官の前に行き深く頭を下げた。
「お願いします……。海夏君をー…柚ちゃんを……海夏君のお母さんを……助けてください!」
パパと警察官達がアパートの階段を登って行き、やがて扉の向こうに入っていった。
今、中で何が起こっているのか。
ー…海夏君。
真白があたしの隣に来て、手を握ってくれたから。あたしはその手を強く握り返した。
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