第21話
あんな世界をを知るくらいなら、ずっと知らないほうが良かった。
どのくらい歩いただろうか。
疲労が溜まった重い足で、ちょうど街灯が消えかかっている真下を通り過ぎた時。不意に海夏君が足を止めた。そして、支え合っていた手を振り払った。
「なんで……なんで助けたんだよ」
悔しさか、無力からか……それとも余計なことをした怒りからか。声を震わす。前髪で睨まれているかは分からなかったが。
――もう、いいや。もう、どうせ嫌われるなら。
全部、言っちゃえ。
「迷惑なんだー…」
「そんなこと思ってないくせにー…」
声を遮りながら、胸に渦巻いていたことを吐き出す。
「もっとー…もっと頼ってよ! 役に立つかどうかは分からないけど、役に立たない事の方が多いだろうけど、それでも! 話を聞くことは出来るし、一緒に考えることだって出来る。龍も、真白も、皆いるんだから」
そうだよ。もっともっもっと周りに頼ってよ。塞ぎ込んで、貯めこまないで吐き出してよ。言ってくれなきゃわからないよ。何より。
「ー…寂しかったんだから」
あたしは、海夏くんの腹にポコッと軽くグーパンチをする。
何も知らないってわかった時、寂しかった。
ねぇ、お願いだから、伝わってよ。
「あのさ、ふわり……痛い」
何度も殴り蹴られたところをいくら軽くしても痛いものは痛いらしい。
「ごめんなさいは、言わないもん」
「悪かったよ……」
最後にもう一度だけ軽くグーパンチ。本当に? という意味を込めて。
「今度からはちゃんと、ふわりや龍や真白に頼るよ。皆をー…頼るようにするから」
わかったならいいよ。
私は海夏君を置いて先に歩きだした。
少し鼻を啜りながら、でも気持ちのモヤモヤは消えて少し口角があがる。
遅れて歩き出した海夏君が「イテテ」とお腹に手を当てる。そして。
「ふわりでも人殴るんだな」
そう言ってまたあの笑った顔が見れた。
「そう……だった。あたし初めて人を殴っちゃった気がする……」
「うん。バリバリ殴られた。しかも怪我人なのに」
あたしは物凄くいけないことをしてしまった気がして、何故か帰り道しばらく弁解をしていた。それなのに海夏君ときたら可笑しそうに笑いながらずっとからかってきた。
あたしはすっかり拗ねて、最後の最後にもう一度軽く殴った。
わかっていたとばかりに海夏君が腕でカバーをしたが、腕にもろ直撃。
「いっ…………これ、多分折れてるかも……」
「うそだぁ」
なんで嘘つくんだよって今度は横に並びながらふたりで一緒に歩いて家まで帰った。
次の日、本当に骨折だったと知るまで12時間後であった。
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