第13話
行く先は2つ隣の街。海夏君が向かった場所だ。
「ああ、もう。ツイてない」
海夏君の姉である
「よく引っ掛かりますね」
助手席のふわりも段々と汗ってくる。
赤信号、これで何回目だろう。
こうしている間に、とっくに海夏君は義父と会ってしまっているかもしれない……。
「ふわりちゃんどうしたの?」
あたしはシートベルトをはずし、車から降りながら。
「奈都美さん、あたし電車で向かいます」
「ちょっと待って!ふわりちゃんお金持って無いでしょ。手ぶらにしか見えないし……」
「あ……!」
「これ、電車代。私も後で必ず追うから」
「有難うございます」
あたしは軽く会釈をして開いたままだった扉を閉めようとした。
「そんなお礼のを言うのは私の方なのに……」
耳に掛かっていたショートストレートの髪がサラリと頬に落ちた。
別れ際に奈都美が「海を頼みます」と言い、ふわりは深く頷きながら扉を閉めた。
今度のアパートは住宅街にあり、扉は欠けていたり、二階に繋がる鉄製の階段は錆付き、所々穴が空いていた。
隣の家と敷地の間隔はある程度広く、アパートの左右、前には車が停めれるようになっている。
建物内から助けを求めても余り聞こえない距離。近くには工場があるのか、騒音が度々聞こえる。
少しの恐怖心を覚えた。
しばらくして、ふわりは意を決して止まったままの足を動かした。
カンカンカン
高く鈍い音を鳴らしながら階段を上がり、奈都美さんに教えてもらった部屋に向かう。
そこは二階の4つある部屋内、右から2番目の部屋だった。赤黒い扉に付いたポスト入れに沢山の手紙が刺さっており、左側には外から着いた小さな格子窓があった。
――この先に、いるんだよね。
恐る恐る、インターフォンを鳴らした。
シーン
………。
………。
………。
………?
「か、海夏君!いません……か?」
工場の土を掘るドリルの音が、また再開し始めた頃。
中からドタンバタバタバタと音がした。
えっと思う時には、勢い良く、
「痛ッッ!!??」
扉が開いた。
「あ、ごめんふわり!」
あたしは痛みに悶えながら両手でオデコを抑える。
扉から顔を出したのは海夏君だった。
顔に打たれた痣などはなく、怪我をした感じはない。
――良かった。無事だった。
抑えた両手の上に海夏がやってしまったと、心配そうに片手を重ね、もう片方の手で狼狽えたあたしの肩を支えた。
海夏君が両手を片手でゆっくりと退かせながら「大丈夫か?」と少し赤くなった額を見た。
うう。情けない……。
「ー…大丈夫だよ」
「というか、何でここに?」
「それはー…海夏君が心配で……」
「一人で来たら危ないだろ!たまたま義父がいなかっただけで、もし居たらどうなってたか……!」
「ー…どうって……?」
あたしが不思議そうにしていると、怒っていた海夏君は言葉を詰まらせた。
「――とにかく!もう、危ないことするなよなー…」
そう海夏君は溜息混じりに呟いた。
――自分だって、してる癖にー…。
「ごめんなさい」
あたしは口を尖らせながら、小さな声で謝った。
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