第12話



 学校を出て坂道を下り十字路。家は左だけど、あたしは迷わず真っ直ぐ進んだ。

 しばらくすると田んぼ道に出た。近くには川が流ている。

 30分くらい同じ風景を歩き続けると、少しずつ家が現れだしその中の1つ少し古びたアパートが見えた。

 アパートの前には1人の少年と1台の車が停まっていた。

 海夏君、やっぱりここに来てた。

 いなくなる前まで海夏が住んでいたアパートだ。

 ふわりはアパートから連続する2、3軒離れた家の直ぐ側にある電柱に隠れた。

 何回か様子を見に来てたっけ……。でもそこに海夏君の姿は無くて。

 灰色をした軽車運転席の窓が開いていくのが遠目で見えた。

 そこから顔を出したのは、知らない女の人だった。2、3歳年上に見える。

「誰だろ……?」

――まさか。

 龍の言葉を思い出し、ないないないと首を振る。

「海夏君に彼女なんてー…いない……よね?」

 女の人が海夏君に向かって一言、二言。

 険しい顔をしながらその言葉に対し、返答するが遠くて聞こえない。

「なんていってるんだろうー…」

 あたし結構仲良かったと思ってるんだけど、彼女とか全然知らなかった。元カノが居たのかすらわからない。

――知らないことが多すぎる。

 それにー…何でこんなことしてるんだろう。これじゃ、ストーカーだよね……。

 思わずため息をつき引き返そうとしたふわりだったが、直ぐに体がビクついた。

「放っといてくれよ!!なんでー…なんで今更……俺の前に現れるんだよ……見捨てた癖に!!!」

 叫び声にも驚いたが、更に驚いたのは普段声を荒らげない海夏君本人の声。

 そして、そのままこっちに向かって走ってくる。

 や、やばい!バレちゃう。どうしよう!

 あたしは汗々と電柱の影で狼狽える。

 覚悟をして目を瞑った……。

「ー…あれ?」

 見つかると思ったが目の前を風が過ぎ去り、海夏君の遠のいていく背中だけが見えふわりは唖然とした。

 気づかれなかったんだ。

「ー…で、貴方はさっきから私達の事、見てたけど誰?」

 何時の間にか車を降り、隠れていた電柱のすぐ側に女の人がいた。

「ひゃわッッ!?」

 くすりと笑いながら「カイの彼女か何か?」と聞いてきた。

「えっとー…貴方は……?」

 遠目で見たときは気づかなかったけれど、服から見える鎖骨、少し細すぎる腕、薄い熊目がつき、何処かやつれて見える。

「私?私は、海の姉かな」

 ……。

「……」

 どうしたの?と手を頬に当てながらショートボブが傾く。

「……お姉様?!!」

「ふふ。様は付けなくていいけど、そうよ」

 確かに、海夏君にはお姉ちゃんがいるって知ってたけど。

 会ったことなど一度もない。初対面だ。

 少し面影があるけど、薄い唇とかー…。

「あんまり、似てないでしょ?」

 あたしは迷いながら頷く。

「私、母似なの。海は父さん似。父さんって今の義父の事じゃないからね。アイツはー…アイツなんか!……まぁ、積もる話は置いといて、彼女さん!」

 両肩を捕まれながらも「か、彼女だなんてー…違いますよ」と慌てて言う。

「海をー…海夏を止めてくれない?!」

「へっ?!」

「私じゃー…私じゃ言うこと聞いてくれないから……!」

 悲しそうな声で、段々と青ざめていく。

「住所を教えちゃったのがー…本当にまずいかもしれない……」

――まさか。

 あたしはもうとっくに姿を消している方向を見つめた。

「あたし、行かなきゃ」

 お姉さんの手を肩から解きながら。

――追いかけなきゃ。

 そう、思った。




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