第8話



 泣くつもりなんてなかったー…。

 一番辛いのは紛れもなく海夏君だ。

 今も涙で視界が白くぼやけて見える中、わかる。ぼやけた視界でもわかる抱きしめてくれている体についた無数の傷痕が。深い深い傷痕が。

 ぼかしきれていないくらい大きな傷痕が、どうしてだろう?胸が、喉から何かを発したいのに何かを、けれど何も出てこない。吐きそうー…苦しい。

 ふわりは静かにボロボロと泣きながら、強く抱きしめてくれるその傷痕のついた背にそっと手をまわした。

 ありがとう、ごめん、そんな在り来りな言葉じゃなくてもっと。

 ああ。君に傷痕がが付くなんて過去の出来事ごと消し去れればいいのに。



「えっ何々何々?!!ふわり海夏の裸を見たのッッ??!」

 昼休み窓際の隅の席に口が驚くぼどあんぐりと開けた女の子がいた。

 バカッ声が大き過ぎるよ!シィー…と人差し指を立て、真白の口を塞ぐがなかなか塞げない。

「な〜んか今日顔が赤いと思ってたら、いつの間に一緒に暮らすようになっていつの間に裸まで見る中にいつの間に二人、でぇきてぇるぅモゴモゴー…」

 一度真白が気になり出すとなかなか見逃してもらえず、喋るまでべったり引っ付きまわるくらいしつこいのはよく知っていた。だから、体に付いた傷痕と私がその、泣いたって言う話以外は省いて最近あった事を話したのだ。

 真白は龍と出会ってからの年齢と片思い歴が一緒なくらいのしつこさだからね。

 昨日あたしは泣き止む頃には冷静さを取り戻し、置かれている状況を知り、恥ずかしさのあまり腕を振り解き逃げ去るように出ていった。

 申し訳無いとは思っている……。

 だけど思ってた以上に、良い付き方の筋肉と下に巻かれたタオル以外が裸の状態の海夏君に、だ、抱き付いていた……なんて。

「と・に・か・く!あたしたち別に付き合ってるとかじゃないから!!」

「あーあ私も龍と付き合えたらなぁー…」

「ー…あたしの話聞いてないし」

「でもふわり、海夏の事好きでしょ?」

 当然よねと言うよな目で見られ、ふわりはキョトンとした。

 ……スキ?

 ……好き??えっとあの手繋いだり、抱きしめ合ったり、キスするやつだよね。

 あたしは正直、真白が羨ましかった。

 龍に恋をしている真白は一生懸命でちょっとした事で一喜一憂してて、恋バナをするそんな姿すら可愛くて輝いていて。

 いつかあたしも恋をしてみたいなぁって。

 過去の出来事での心情が次々に脳裏に蘇る。妙な胸の鼓動や張り裂けそうな苦痛、羞恥心?でもどれも他の男の子より龍にもならないハッキリとした一喜一憂。

 海夏君と一緒るだけでほわほわとした気持ちになる。

 世にも不思議な顔をしながら呟く。


「あたし、海夏君の事……好き……だったんだ」


 待ちたまえ、と言うように真白が片手で顔を覆った。

「龍に告白するからふわりも告白どう?って誘おうとしてのにー…無自覚キラーだったなんて!」

「ちょっっっと??待って待って真白、告白するって言った?」

「そこは今注目しなくていいよ」

「いやするよ」

「いまはふわりの無自覚さについて語ってるの!」

「無理だよさっきの気になるよ!」

「ふわりの!!」

「真白の!!」

 二人で言い合っていたその時聞き慣れた声で遮られた。

「お〜い!お前ら何もめてんの?」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る