第7話 海夏と傷跡



「……ちゃん。……助けて、お兄ちゃん!!」

 ハッ。あー…クソッッ。

 俺はズキズキする頭を片手で抑える。

「大丈夫?海夏君。ずっとうなされてたよ」

 右から温もりを感じる。

どうやら俺がうなされている間、ふわりが片手をずっと握ってくれていたようだ。

 俺はソファから起き上がる。

「悪いな。もう大丈夫だから」

「う……ん。汗がすごいし、お風呂でも入ってきたら?」

「そうするよ」

 ふわりの手をゆっくり離させ、安心させる為に頭を撫でた。

 「後でタオルとか持っていくから!」そう背後で言うのを聞きながら俺は風呂に向う。

 洗面所に着いて直ぐにベタ付いた汗のシャツを脱いだ。

 額からは汗がまだ吹き出している。

「ふぅー…」

 ふと鏡に映る自分と目が合い、俺に向かい睨む。

 すんげぇ無様だな……情けねぇ。

こんなんじゃ駄目なのに、早く妹を……ゆずを助けなきゃなんねぇのに。

 一人で泣いてねぇかな、ちゃんと飯食べてんのかな、怪我してねぇかな……。思うことしか出来ず、直ぐに助けに行けない自分に苛立ちを覚える。

 あの時アイツに歯が立たなかった俺が今行ったところで柚を助けれるのだろうかー…。

 こんな姿誰にも見られたくねぇ。特にふわりにはー…。

ガチャッッ。

「タオルおいとくー…ね……ッッ」

 思ったそばからこんな偶然、神様が仕組んでるんじゃないのか。

 タオルが静かな音を立てて落ちた。

「ご、ごめー…ん……!!!」

 ふわりの黄金色の目が大きく見開かれ、息を呑んでいるのが伝わってくる。

「その傷ー…ッッ」

 見られたものは仕方ない、誤魔化しようのない傷。タバコを擦り付けられた痕、ナイフで切り刻まれた痕、火傷の痕ー…。全部外からは見えない部分につけられた、何も出来ずに付けられた情けない傷。

「義父に付けられたんだ。でも見た目ほどもう痛くないし、痕だけ立派って感じでまさにこれぞー…漢の勲章?ってー…感じー…で、ふわッッー…」

「ッッごめー…泣くつもりなんて、なかったのに」

 ボロボロと溢れ出したそれを何度も拭っては、桜色の唇を震わせる。

 ああ。こんな姿を見たくなくて、見続けられなくて、俺はふわりごと隠しさるように強く抱きしめた。

 偽物の俺への同情じゃない。純粋な同情。

 ふわりは優し過ぎる。育ての親も優しいから俺とは関わらせたくなかった。

 あまりにも育った環境が違い過ぎる。


 違い過ぎるからー…。














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