街の祭り

 祭りや宴で一番大変なのは後片付け出したものをしまい余り物を捨て、まっさらな状態に戻す。

「やっとか、やってみるものだ」

「他の場所でもこうなのか?」

「だろうな。」

 ベガダルヒアは愚かほぼ全ての場所地域で失敗作が蠢き溢れている。


電子街・ビクトル

「住人を寺に避難させろ!

できるだけ連中を近付けさせるな。」

 過去の名残りが攻めてきたと慌てたが同時にカナメが目的地に到着した事を理解した。

「やれやれ、また戦か。

争いを避ける為の坊主なのだがな」

ガラクタ共に喝を入れながら嘆き呟く


「争いは突発的な衝動、やむを得ん」


何も無いところに偶然投下され、人を巻き込み拡大する。

それをする事で平和になる、豊かになると言う奴もいたが結局は嘆き苦しみ以前よりも多くのものを失った。

「大変だ!」

「どうした、なにがあった?」

スーツ姿の男が血相をかいて走り寄っては焦り口調で話し始める。

「同僚が会社の中に!

頑なに動こうとしないんだよ!」

「..岩殴羅、ここは任す。」

「更違!」

会社とは、疎外的な距離を取り接していた。仏に通ずる者は神秘として歯車に触れるべきではないと。

「開発部..あった、ここか!」

男が言う通り必死をこいて電子機器のキーボードを弾いていた。


「何をしている?」

「見ればわかるだろ、仕事だよ!

絶対に今やらないとダメなんだ..。」

酷く毒されている、現代の呪いは根深くタチが悪い。だからこそ見て見ぬフリをしてきたのだ。

「洗脳だ、今すぐ逃げるぞ。

組織に迎合するな」

「うるさいんだよ!

命なんて知るか、こっちが大事だ!」

仏への冒涜。

死を否定し生を蔑ろにするのは人生の摂理に反する行為。しかしここは寺ではなくオフィス、確実に相手の領域だ金言や念仏など何の意味も無さない。


「わかった、仕事を続けろ。

但し背後は預かるぞ?」

「助かるぜ、直ぐに終わらせる。」

唱えられないければ体現して見せるのみ、機械に呪われた我が身を会社の地縛霊に行使する。

「絶対に打つ手を止めるな!

徹底的にやれ、納得いくまでな」

「言われなくてもそのつもりだ!」

会社員の成仏の仕方は二つ。

定時に帰らせるか、洗脳された脳味噌を完全に沸騰させるかのどちらか。

「冷やしたところでオーバーヒートだ

ならば完全に燃やし尽くす!」

若い力を殺しているに過ぎないが今はそれでいい。

後で正式な経を寺で唱える。

「あ〜フリーズした..」

「機械不良か、貸してみろ。」

画面に掌を翳す。

固まった機器の動きはみるみる溶けて正常な運動を取り戻した。

「よし!」

成敗の掌底、並行して成功の過程

どれだけやろうと数は減らない。


「キリが無い。

こうなれば一かバチか...!」

天井に掌を翳し電波を送る。電子機器にではなく他の機械、同士を集める。

「聞こえるか?

命令だ、主を共に守ってくれ。」

「リョウカイシマシタ」

オフィスくん警備形態へ移行。

勿論高性能な最新機械、ガラクタに劣る事は無い。

「記録媒体は閉じておけ、この様な戦

データに残す価値など無い。」

振りかざす警棒が粗悪な部品を潰して

棄てる。数に上限は見られないがお互い様だ、こちらも疲労はしない。


「アイツ、大丈夫ですかね?」

「..会社に残った同僚か」

「あいつ真面目なとこあって、任された事をやり遂げるまでやめないんです

死ぬかもしれないのに、馬鹿だよ。」

 寺に人が訪れたときは決まって困り事を抱えているときだ。坊主は話を聞くばかりだが見捨てる訳では無い。

「あの者の元へ向かったのは更違という男だ、迷い人を放っておけぬお人好しでな。誰かれ構わず救ってしまう。

「更違さん..」

「奴が死なぬ限り必ず救われる。

我々も救われた身の一つだからな」

機械混じるも念仏止まず

唱えて浄化さも休まらん。

「参る」


泡の街

 「工場が壊された!」

「これで何個目だ⁉︎」「早く逃げろ」

 火花が散ろうと爆撃が起ころうと街に伝わるのは随分と先。焦げや臭みよりも必ず、強い石鹸の香りが漂う。


「なんだって誰も気が付かないんだ!

こうして戸を叩いて伝えなきゃ、いつまで経っても非難すらしないのか?」

 怒鳴っているが自分でも気が付いたのは偶然だ。外にいるかいないか、それだけの違いである。

「キザリさん!

避難して下さい、化け物が外にっ!」

声は全く通らない。

工具の振動音が邪魔をして、響いているのは戸を叩く音だけだ。


「なんじゃ騒がしいのぉ〜、カナメが帰ってきたか?

なら勝手に入って来て欲しいの。」

渋々扉を開けると居たのは知らぬ男、外れを掴まされたと露骨に嫌な顔で歓迎する。

「何事じゃ?

ていうかお前誰じゃ、帰れ。」

「大変なんですよキザリさん!

外に変な化け物がウジャウジャいて」

「知るか、帰れ。直ぐに帰れ。」

直帰希望のキザリに最早言葉は届かない。というより初めから聞く気は無い

「勝手にしろ!

もうどうなっても知らねぇ、俺はちゃんと言ったからな?」

扉越しに念を押し、言われた通り逃げ帰った。

 泡の街は小さい。殆どが工場に面積を取られ、街として稼働している範囲は極少数だ。その為失敗作達は先に目立つ工場を痛めつけている。故に家屋を傷付けられる前に避難しろという勧告なのだがやはり動かない者がいる。


「皆いるか?」

「キザリさんがまだ」

「あの人はいい」

点呼を取り街の入り口に住人を集める

「これから避難場所を探す。」

「探すったって何処に行くんだよ?」

「アテの無い旅にでも行くのか!」

否なる言葉の嵐。小さな街でこの規模だ、外が安全な筈は無い。

「だからといってこの街に残り続けても死ぬだけだ!」

車も無ければ外には家も無い。

街以外の不安定に触れるのは多大なリスクを負う事になる。

「奴等に立ち向かう方法は?」

「あったかもうやってるよ。」

「外もダメ、街もダメ、一体どこで何をやったらいいんだよ!」

声というのは非常に便利だ、大きく何かを叫べば必ず誰かが寄ってくる。


「おい、ここは泡の街か?」

「...そうだが。」

「当たりだ、やっと来れたぜ!」

髭を生やした清潔感の無い男達がゾロゾロと村へ入ってくる。中には小さな機械のペットを連れている奴もいる。

「探せ!

何処かにいる筈だ!」

「ちょっと待て」「なんだ?」

「何してるんだよ、泥棒なら今日はやめておけ。化け物がそこらへんをウロついてんだ」

「知るか!

オレ達は探しているんだよ!」

化け物がまた増えた。

火事場泥棒という言葉を偶に聞く事があるが遭遇するとは思わない。

「リーダー!

ここから微かに機械を削る音が聞こえます。」

「なんだと!

よし扉を開け、無理矢理でもいい!」

大胆な連中だ。

正面から扉をこじ開けるとは、相当な手練れか愚の骨頂か。

「邪魔するぞ!」

「あ〜?

なんだまた客か、カナメじゃないだろ

今手が離せないんだよ後にしてくれ」


「後なんて無い!」「あ?」

男達が扉の前で跪く。忠誠を誓うように頭を下げながら完全にへり下る。

「なんだ?」

「なんでキザリさんの家の前で」

「何事じゃ」

「キザリさん、お久しぶりです。

数年前アナタに教わった機械技術、大変役立たせて頂いております」

「お前たち...あのときのガキか!」

姿形が変わり過ぎてわからなかった。

ゴロツキなりの礼儀を果たそうと、世界が荒れた機会に赴いたのだった。

「今こそ御恩を果たしたい。

何なりと、お申しつけて頂くと幸いの所存で御座います。」

「頼み?お前にか?

う〜ん..今日は少し外が騒がしい、何が起きてるか知らないが黙らせて来てくれないかの。」

「御意に!」

避難する必要は無い。

この街の安全は、今確保された。


シュトローム街・酒屋

 昼からでも酒を嗜める客を選ばないバーは程のいい避難所に成り代わる。


「あの剃刀人間なんだよ!

アイスピックで倒せるかぁ...?

でも凄い数だしな、どうしたもんか」

戦闘など腐れ縁に預けてきたマスターに人殺しのノウハウなど無く、見様見真似の独自殺法を思いつくのがやっとの状況だ。

「あ〜こんな事ならアイツに少しでも戦い方を教わっとくんだった!」

持ち物を確認する。

財布や通信機器の他に店にあるのは酒アイスピック、氷、あとは使えないガラクタばかり。

「こんなんでどう戦えばいいんだ!」

避難する場所として住人は受け入れたが平然と護り通す設備は無い。


「貯蔵庫に避難させるか?

確かにあそこは普通より硬い素材で出来ている、かといって万能じゃない。そもそもなんでバーが避難所だ⁉︎」

外は一応警官が牽制している、役割と責任としての行動であり本意では彼等も逃げ出したいだろう。

「せめて警官のアシストが出来ればいいんだろ?」

もう一度店の中を探し回った。

何年も触っていない棚や埃かぶったタンス、グラスの中まで。

「ダメだ何も無い」

諦めて箱の上に座った。

段ボール箱がとても硬く、尻が痛い。


「なんだコレ..ん?」

開けて中を確認すると金属の金具とボンベ、それと大量の薬品。

「バーナーセットか!」

前に一度だけ懐石料理を出そうと考えた事があった。

これはその時注文したものだ。

「結局牡蠣が腐って中止したんだ、無駄に頼んでおいてよかったぜ!」

直ぐに中にいる全員に配った。

「薬品は無数にある、好きなだけセットして使ってくれ。」

「もし無くなったら?」

 油などの液体を燃料とし燃やす仕様のバーナーは気化型と比べると限界がある。

「ウチの酒を使え」「え?」

「バーナーに飲まれるのは初めてだ。スペシャルサービスで代金不要」

警官が息絶える前に赴かねば、手段は選んでいられない。

「バケモノ燃やし尽くし隊、出動だ」

「ダッサイ名前..」

「なんか言ったか?」「いや...。」

火気厳禁を取り締まらないダメ警官相手なら問題にもならないだろう。

報告書に何と記すのだろう?

『火炎放射器を持った住人が剃刀男を焼き殺した。』

誰が信じてくれるのだろう?

「よし、俺もいくか。

..いや待てよ、店に残るべきか?」

彼は慌てやすく悩みやすい、確かに殺し屋には向いていなさそうだ。

「取り敢えずアイスピックと..バーナー担いで、と。グラスを磨こう」

加えて余り度胸が無い。

マスターがこの男の天職だ。


「くらえ!」「重火器?」

緑の体が黒く焦げ、土に馴染む。

「警官さん達もう大丈夫!」

「ん、あぁ..助かるが、その武器は」

「くるよ警官さん!」「うを!」

 昨日まで普通の主婦だったエリーさんが今日はバーナー片手に人を焼いている。旦那の帰りが遅いといっていたがそれが原因だろうか?

「おらおらおらおらぁっ!」

「エリーさんご乱心、心配だよ。」

看護師をやってるエリーさん、患者に優しく評判も良い。

そんなエリーさんが、火器をもって人を焼いている。ミィディアムかレアかいや、ウェルダンだ。

「..うん、今日の晩ご飯ハンバーグにしようかしら。」

「今その話やめて!」

人格を変えるものも多少いながら街を炎で清めていく。


「赦しましょう、アグニの神よ。

今こそ燃えさかるその力を...!」

聖なる力を行使し魔を沈めるは神父の証、悪しき組織破れしその後、新たに立たれし教会を受け継ぐ者。

「覚えておくが良い。

私の名はサブリナ、神の使いだ」

「アグニの神って何?

バーナーで焼いてるだけだよね?」

「貴様、神を愚弄するか!

警官とて赦せん、くらえアグニの焔」

「うわっ!

こっち向けんなってバカ神父!」

これぞ神の裁き、キリストの怒りだ。

➖➖➖

 刻を同じくして別の街では図書館が避難場所となっていた。ここに集まる失敗作は二つの首を持ち、強い力で攻撃をしてくるが屋内には入らない。


人々がそう理解したのは非難をした後

子供も警官も一斉に図書館に集まった

しかしそれは誰かにとって、新たな悲劇の始まりとなった。


「サペティさん、私怖いよ!」

「大丈夫よ。

静かにしていればすぐに終わる、何も心配する事なんてないからね」

「..本当?」

「ああ本当だよ、いい子だね。」

勇気付けると頭を優しく撫でてくれた

「有難うサペティさん、貴方は本当に良い人だ。」

「そんな事は無いよ!

私に出来る事なんて大したことは無い

ああやって頭を撫でて、側にいてやる事しか出来ないのさ。」

「それだけでも充分だ」

若い警官は深く頭を下げた。


「いいんだよ、あれだけの事でいいのならいくらだってやるさ」

「それと、子供達を落ち着かせる為に本を読んであげたいんだ。幾つか本を借りてもいいか?」

「いいよ、幾らでも借りて。」

「そうか..じゃあその後ろにある本、棚を見るより取りやすそうだ」

「...!?

こ、この本は難しいものばっかりだよ

子供には向かない、三列目に絵本の棚がある。そっちの方がいいよ」

「ん、そうか。ならばそうするよ!」

言う事を聞き、絵本の棚へ歩いていく


「..ふぅ、冗談じゃないよ。

なんで警官までいるんだい?」

ましてや後ろの本に手を掛けようとは

「御免だよ、私は耐えてやるよ。

宝の事は絶対に教えてやるもんかい」

いやしくがめつい攻防が始まる。

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