執着の塊
時間を掛けた作業も再生の賜物により数をこなしていない事になっている割に合わない稼働量が体力を余分に奪い取るだけの愚行に成り下がる。
「はぁ、はぁ..!」
「大丈夫?」「いつまでそうしてる」
「わからないですよね..。
結構大変だったんだから、私」
油汗が機械に触れると錆びに繋がってしまうのではないかと心配で、出来るだけ床に溢れる体制で疲れている。
「気疲れもしそうだね..」
「まったくだな。」
「誰だ」
カナメを気遣う白衣の男が両手を広げて怪しく微笑む。いつからそこにいたのだろう、余りにも景色に溶け込んでいて気が付く事が出来なかった。
「あの施設を良く突発したな。
抜け目は無いと思っていたのだが」
「誰だって聞いているんだよ」
「わからないか?」
「...何処かで見た事あるんだよなぁ」
見覚えのある顔〝良くいる平凡な〟という意味合いでは無くそれこそ過去の記憶で馴染む白衣の男..。
「あ!
お坊さんに燃やされた白衣の研究員⁉︎
なんで生きてるの、死んだ筈じゃ..」
「記憶の中にいた人?」
「そう。前にもあの施設では暴動が起きていて、そこで被害にあった若い研究員に顔が似ている。でも何故か生存している。燃やされてたのに」
恨みを買って焼き払われた体が火傷一つ残さずに完品のまま立っている。
本来ならば有り得ない事だ、しかしここに来た時点で既に〝普通〟という事柄の在り方には異常をきたしている。
「面倒だ」
「どうした突然
感情を取り戻したのか?」
「感情じゃない身体的な疲労を訴えているんだ。
ここに来てから随分と肩が凝る」
元々協調性の薄い彼女は心を失った今でも感覚として不快感を残しているのだろう。自由な動作を制限され、体が一方的に拒絶反応を示している。
「お前が何者かは知らないが、撃たせて貰う。文句は言うなよ?」
「心無き女が人を撃つか、哀愁あれど悲惨だな。そんな無機質な一撃が..」
「黙れ」
「やっぱ怖ぁ..。」
話も聞かず頭を吹き飛ばす。破壊からは何も生まないというが何も生ませない為に壊すのだ、物事の順序を履き違えてはいけない。
「ワタシたちってあの人と目的一緒なのよね?」
「残念ながらそうだよ..。」
類は友を呼ぶというが属する
「気が荒いな。
いや〝手が早い〟と言うべきか?」
「いっ⁉︎」
「..化け物がここにもいたか」
陥没した頭蓋骨の穴が塞がり身体を起こすと弾を外して傷を修復し、弾丸を床へ転がした。
「再生能力..」
「施設と同じ、コイツもなの...。」
「コイツも?
違う、私だからだ。施設が何故幾度と再生を繰り返すかわかるか」
「知るか」
「..傷を修復し続ける自分の体質を過去の記録に当てはめてデータ化した。それを軸として延々と刻を繰り返す無限ループを作った。」
「ご名答、なかなか冴えているな。
私もモルモットの一人だったという事だ。実験を施される、被検体だ」
「その野鼠を躾たのは誰だ?」
「偉大なるN'S、万物の始祖にして神科学の新たなる礎となる者。」
「N'S...」
記録で見た組織の長であり指導者。
法外な実験を繰り返しては糧とする、自らに身の危険が伴えば部下を切り捨て逃げ惑う。
「あんな人神じゃないよ、ただの悪趣味な嫌な奴でしょ?」
「理解ならないならそれでいい。凡人には到底及ばぬ領域なのだからな」
精神までも再生済みか、当たったところで砕けずにいずれ硬さに慣れて壁を破壊する。そうしてあらゆるものを正当化して来たのだろう。
「天才の功績は余り知られないものだ
〝脳ある鷹は〟と言われるようにな」
「また過去の栄光か
お前たちはそれが好きなのか?」
「すがって何が悪い
未来は全て過去の集合物だ。」
過去は未来の材料になる、実質過去のデータや記録からここに辿り着いた屁理屈はときに的を射る。
「過去は先を見通す鏡!
お前達の奪われた物も元々過去にはあった物、そして人の思いの名残」
第一の核できっかけを作り、対象者に影響を与える。続く第二波で特定の記憶を見せる事で影響を及ぼした範囲を知らせる。
「いいか?
お前たちが体を失ったのは周囲がそれを望んだからだ。心無い未来、機械の体、仲良く二人で暮らす事...。」
「へぇ、核爆弾はつまり周りの感情を解釈して選ばれたものに落とす事で体を変化させる装置って訳ね..。」
「随分ときれるな小娘
その通りだ。そして今、第三波がそれらをより拡散させる。」
床のレバーを上げると収納された第三の装置が火を噴き上げた。
止める間もなく打ち上がり空に爆散、〝無くした人間〟は世界に拡がった。
「お前、何をした?」
「実験結果をばら撒いたのさ。
まぁ殆どは岩の連中のように失敗作に終わるだろうがな」
「あれが世界中に?
あり得ないよそんな事!」
「シャン..また悲劇が起きるよ」
「そうだね、嫌になるよ...。」
世界中の人々は正式に対象者として選ばれた訳では無い為飛沫を主に影響として拡大させる事になる。よって失うのは単純に理性、その後形を半端に変化させエゴの化身となる。
「ここにもワラワラと集まって来たぞ
戦え、それとも死ぬか?」
心無き剃刀男に二首の暴我、機械とのハーフモンスターが止めどなく溢れ眼を光らせる。
人々は、見境無くモノを切る。
「..こういうときに.再生する体は便利だな。」
「まったくその通りだ」
「もぉなんなんのよ!」
「機械のお姉ちゃん、車に乗って!」
「ここは殺し屋さんに任せよう..」
科学者を野放しには出来ず一人は止まらなければいけない。幸い車もある、逃げるに困らない距離は稼げる。
「久々の数だ、教会以来か?
いや...港のマフィアの集い以来か」
今日は弾を多く使う日だ、いよいよ殺しも廃業か。
「すごい数追ってくる!」
「少しは静かにしてくれない?」
「動くモノを見て追いかけているんだね、どうしよ..。」
二手に別れよう、私を岩壁で下ろしてアナタ達は別の抜け道でも探して逃げればいいよ!」
分かれれば単純に二等分、半分になる
今より多少は安全に対処が可能だ。
「ここで下ろすわ」
「ちょっとシャン!
そんな危ない事していいの?」
「大丈夫だよ、私丈夫だから。
怪我一つしかいから安心して!」
無事を保証して跳び移り、岩を登っていった。手段を選ぶ暇はもう無い。
「曲がるよ!」「え?」
急カーブドリフトにより岩壁の隙間道へと滑り込む。
「よし、成功かな」
「アナタってそんなに横暴だった?」穏やかな妹が良からぬ影響を受けつつある。誰の所為だろうか?
「いーち、にーい、さん..おっと。
私を斬るならコイツを狙え」
科学者を掴んで群れの中へ放り投げる
断末魔と血飛沫がこだまして良いハーモニーを奏で聴かせてくれる。
「やはり便利な体だ再生男よ」
「くっ、この女..どちらが化物だ。」
弾が当たるのは撃ち殺す。当たらないのなら盾を構えて様子を伺う。
盾も何も無いのなら..酒でも飲ませて酔わせるしか手はない。
「良い酒だ
古い親父のおさがりだけどな。安心しろ直ぐに酔える、燃えるほどにな」
今日で戦利品として得たライター棄てる。蓋を開けたまま火を付けて。
「..花火っていうのはこんな物か?」
「全く違う、甘く見るな」
「二度目だ行け。」「なっ!?」
剃刀が肉に食い込むが初めだけ、後は静かに癒して流す。
どの剣撃よりも素早い動作。
「楽しくは無い、タダの作業だ」
施設のツケが己に返って来た。
同期する機器も無ければ味方もいない
「酒休憩といこうか?」
度数は厭わない。
「うわあぁぁ〜っ!」
理性と共に疲労という概念が噴き飛んだ機械の人はタフそのもの、硬い岩肌を勢いで昇る。
「もうちょっと車に乗せて貰えば良かった、ここの情報知らないし!
街以外の話も聞いとけば良かった!」
社交性は充分にあるが使い方を見誤る
機能を持てば尚更だ、手紙を態々書く必要は無くなる。
「こういうときどうしてたかな?
何て言ってた、おじいちゃんは!」
〝放っときゃいなくなる〟
「アテにならない!」
何処かで作った借金を取り立てに来たときの言葉だ。そのときも部屋の隅に隠れてた。
「走るしかないがむしゃらに、放っておいても大変なら..逃げて巻く!」
似たような発想で難を逃れようと模索するも向こうと違いスタミナは減る。地の利も無いため、道にも迷う。
「何処ここ..?」
前方を見れば暗いトンネルに続く急なカーブの道、床には線路が張り付く踏みにくい足場。
「わっ、追ってきた!」
迫る機械音。
逃げ場は塞がれ前に進むしか道は無い
カナメはトンネルを駆け抜けカーブを曲がる。新たに進んだ道の先には、石造りの洞穴がある。
「..何あれ?」
中へ入ると燃え盛る動力炉が熱気を放ち挑発し、傍らには煌めく黒い鉄の塊が置かれている。
「ここって..!」
記憶で見た若かりし風景、技師が鉄を打ち親方が無駄話。
「鉄工所、機関車..!?」
燃料は既に石炭がこれでもかと積まれている。
顔の中心には〝キザリ号〟の文字。
「親方さん..有難う!」
見様見真似で乗り込みレバーを引いた
煙突から煙をかまし汽笛が響く。
「この線路何処に続くんだろ?
まぁいいや、出発進行〜っ!!」
軽快に走り出す機関車は爽快だが、これでは連中を振り払えない。
「スピードを上げなきゃどうすれば...あ、後ろのレバー!」
レコードでは引いて下げる事でブレーキを掛けていた。スピードを上げるならそれの逆、押して傾ける。
「全速前進!止まらないでよ!」
線路を滑走し逃亡に拍車を掛ける。以前より硬度を増し安全面も申し分無いようで何よりの仕上がりを誇る。
「うわ轢かれた..平気なんだ、流石機械だね。ごめん」
アテの無い機関車旅の終着点が地獄でない事を祈りたい。
「キザリ号って、もっといい名前あったと思うけどなぁ」
カナメの片鱗は今機関車のハンドルを握っている。
「私も設計図書いてみようかな?」
汽車を作る程の変態になるつもりは一切無いが。
「スペアの腕くらいは作れるかもね」
次は戦闘向けの腕を。
「はぁ、もうダメ!」
逃亡に向かない姉妹は体力を使い果たしブレーキを掛けた。
「なんなのあのバケモノ!
しつこいよ、いい加減にして!」
「.....」
「どうしたのシャン?」
息を切らしながら沈んだシャンの顔は疲労というには青ざめ過ぎている。
「ねぇ、ピリカ。」「..なに?」
「普通の人たちにはワタシたちもああいう風に見えてるのかな?」
「...シャン。」
病を治す病院ですら悲鳴を上げて攻め立てた。差別という言葉が適切かわからないが姉妹は確実な疎外感を感じたのは事実であり、人と違う事を認識している。
「そんな事ないよ、だってあれはワタシたちじゃなくて周りの感情が..」
「違うよ。
ワタシたちは周りの思いでこうなったんじゃない、自分自身で願って核に狙われたんだよ」
対象が一人なら周りの情を形として体に宿す、しかし姉妹である彼女たちは自然と二つの対象となり、与えられるのは二つに分けた一つの飛沫。
体を一つとして、半分ずつの害となる
「でもダメだよ。あんなのと同じにしたら、ワタシたち人間なんだから」
「あの人たちも人間だけどね..。」
二人でいるからか人の嘘を見抜くのは上手かった。二つの視点の考えや見方を同時に動かせるからだろう。
しかし咎めた言は一度も無い
どちらの目も同時に知らないフリをするからだ。
「今更気にする事ないよ、視野が狭い人は同じ見方しかしないから。」
「ならどうするの?
二倍の視野のワタシたちがここから抜け出すには何か考えないとね」
ガソリンは充分、体力も少し戻ってきた。頭が重いのか動きはそれ程早くない、寧ろ遅い方だ。
「もう少し休もう、充分体力を確保したら走り抜ける」
「最悪何人か轢くしか無いね..。」
背に腹は変えられない。
生き残る為に不本意ではあるが犠牲者を増やす可能性も考えねばならない。
「もう少し、もう少し休んで..」
「.....。」
「君たち!
こっちだ、こっちに来い!」
タイミングを見計らっていると、手を降る男がこちらに手を振って来た。
「大きな声出さないでよ..!」
声に反応しヤツラが集まりかねない危険を伴う行為だが、そんな事に構わずに男は手を振り続ける。
「行ってみよう、放っておいたらどうせ近付いてくる」
急いで男の誘導に合わせて車を動かす
「こっちだ!」
エスコートについて行くと、小さな古屋に到着する。
「良かった、中に入って。
アイツら室内までは追って来ないよ」
慌てているのか背を向けて話す男。
だがきっと、そうしておくべきだったのだろう。
「有難う!
僕の名前は.....おい。」
「やっぱりそうだ、間違いじゃない」
「久し振りだね..お父さん。」
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