西の都、願いの叶う、安息の地へ。

 「場所は分かっているのか?」

「一応人に聞いて何となくは、だけどここから随分と遠くて。」

 カナメにあってアンソニーに無い物

社交性と元気な活力、性質が功を制し情報へと繋がった。


「足が無いなら意味はないな」

「そんな事言わないでよぉ..。結構大変だったんだから聞き出すの」

 道が一本に収束する道路から大きく登り土道を抜けた先にあるという。ベガダルヒアはただの街だが、彼女達が向かおうとしているのは絶対禁止区域現地の住人ですら近付かないと言われる危険極まり無い場所だ。

「徒歩で迎えと?」

「怖っ..だからそこは私も困ってるんだって、本当ごめんなさいっ!」


「お困りみたいね。」「え?」

四輪の鉄が二人を乗り超え道路に跡を着けて振り向いた。

「ベガダルヒアに向かうなら乗りなよまさか歩いていかないよね?」

「驚かせてごめんね..。」

「顔が二つか」「アクティブな子..!」

目的が合えば共鳴し、繋ぎ止める。

道と同じく収束し車に乗り込めば後は向かうべきところに進むだけ。

「ねぇお姉さん

アナタは何を取られたの?」

「ピリカやめなよ、失礼だよ」

「構わないさ

私は心らしい、だから何も感じない」

「体の中をやられたんだね..。」

「お姉ちゃんは?」

「私は見ての通り脚と腕を。

変な感じでしょ、結構重たいんだ」

「格好いいと思います、凄く。

ワタシ、ロボットとか憧れてたから」


「本当?

有り難う、初めて言われたよ。」

 もし性別が男だったらと考える事が良くあった。ピリカは元々男勝りな部分があるので余り変わらないだろうがシャンは密かにヒーローやロボットなどの男子の趣味に興味があった。

「ふぅ、疲れた..」

「変わろうか?

機械弄りの延長で運転は出来るんだ」

一度エンジンを止め、カナメに席を替わる。機械のカラダの利点として体力は人より多い、へたばる事は暫く無い


「……」「何?」

囲む岩壁から唸り声が聞こえる。獣が低く鳴いている、そんな声だ。

「走れ、絶対に止まるな」

「え?」「いいから進め。」

岩陰からゾロゾロと奇怪な人々が顔を出し現れる。

「何アレ!」

「知るか、撃ち抜けば分かる」

体表は緑色に変色し、両腕は剃刀のように変形している。

「追ってくるよ!」

「弾を無駄に使わせるなよ、鬼共。」

走る速度はやや速め

車にこそ追いつかないが、跳び上がりでもすれば腕がボディに突き刺さる。


「お前の脚より弾の方が早い。」

左のシリンダーを変えながら右で撃つ

列をなし走るところに弾丸を一筋撃ち込んで貫通、一発で三体を仕留めた。

「道案内のつもりか?

悪いが迷惑だ、ここを墓場としておとなしく死んでいてくれるか」

乱れる銃弾に絶えず化物がヒットする

自ら当たりにいっているような錯覚に陥る程の的確な腕。

「もうすぐ街に入る!」

「丁度良かった、こちらも最後だ」

跳び上がる男が弾けて落ちた。

花火というには雑が過ぎて儚く無様。

「あの人達、なんなんだろ..」

「恐らく例の実験施設の失敗作だろうまだ人の体を弄ってるんだな」

性懲りも無く実験を繰り返しているようで失敗すれば即廃棄、勝手なものだ


「ようこそベガダルヒアへ。

歓迎されてるんだ、へぇ」

適当に車を停め遂に目的の街へ。

描いていた場所とは随分異なり、実際の印象は田舎の街といったところだ。

「ピリカ」「わかってる。」

「..何をやっているんだ?」

黒い布を取り出して体を隠す装いの癖は未だに抜けておらず、未知の場所へ行くとやはり着てしまう。

「あら、お客さん?」

よーうこそおいで下さいました。ホペイルはベガダルヒアに」

偉く愛想の良い中年の女が声を掛けてきた。案内役を担う役割であろう。

「小さな街ですがゆっくりしていって下さいませ..あ、そういえばパンフレットをお作りしたんです。良かったら頼りにして下さいませ」

適度な大きさの縦長の冊子を一人に手渡していく。


「どうぞ!」

「有り難うございます..」

「どうぞ!」

「なんだこれは、ゴミか?」

「どうぞ!」

「あ、有り難う御座います!」

「あなた、もしかして..」

案内女の様子がヘンだ、パンフレットを握るカナメを見て震え始めた。

「あ、この腕ですか?

これはそのまぁ..色々ありまして」

「実験台の一人ね」

「え!?

いやいや、違いますそんなんじゃ..」

聴く耳を持たず発狂している。

狭い街では村意識が正義だ、認めた者以外は人間扱いすらされない。


「帰りなさい!

あなた達みたいな実験動物はオリの中に戻るんだよ、はやく行けっ!」

 追い出されるかと思ったが指を刺した方向は街の奥の方、聞いていた絶対的禁止区域という場所はそちらに存在するのだろうか?

「好都合だな、進ませて貰う」

「ショック..実験動物って言われた」

「大丈夫ですか?

元気出してください。」

門が鎖で繋がれ〝立入禁止〟の文字で塞がれているいかにも危険な入り口に突き当たる事が出来た。

「よいしょ、ふぅ..熱かった。

ここ以外の入り口って多分ないね」

「多分っていうか、絶対だよ。」

「ふん。」

銃弾一撃で弾ける程に鎖が弱っていた

長い間人が訪れていないのだろうか?

少なくとも、話に聞いていた幻想的な雰囲気はまるで無い。


「いくぞ。」

「なんか不気味ぃ..嫌だなぁ」

「何があるかな!?」

「なんで乗り気なの、そんなに..。」

それぞれ思う印象は違うものの結局は以前と変わらぬ調査を行う訳だ。

実験施設の資料やデータ、充分だとかまけていた情報収集が再び必要になってくる。悲惨なものだ。

「何でこんなに綺麗に残っているんだろ、レコードで見たときは確か完全に燃やされて瓦礫になってた筈なのに」

「いつの話を言っている?

30年も前の話だと言ってたな。それだけあれば作り替えることは可能だろ」

現物の資料やデータさえあれば直ぐにでも取り込んで再生できる。

紛れもないオフィスくんの賜物だ。

「取り敢えず中へ入る」

広い駐車場のようなコンクリから、白い施設へ正面の扉を開け侵入する。


「どう、機械のお姉ちゃん?」

「凄い..過去と全く同じつくりだよ、写したみたいにそのまんま。」

第一検体室に被検体が寝かされ脇には身体検査室、奥には第二実験室。

瓜二つの実験室はタイムリープを思わせる程気持ち悪く同じ、敢えてトレースして作ったのか。だとすれば余程の心酔をしている技術者だ。


「資料やデータもそう、昔の実験を追うように同じ事をしてる」

「過去の栄光というやつか..」

「自分で作ろうとはしないんだね」

 科学者とは言えない体たらくだがトレースという実験の最中かもしれないそういった先入観をもたれるのはやはり科学者という存在だからだ。

「あそこ、奥の第二実験室で二十代の体を結合された姉妹が死に絶えた」


「本に書いてあった人たちだ。」

「酷いことするよね..本当に」

 人道に反した実験を行うせいで偏見を持たれは彼等は隔離された部屋での探究を選んだ。

職業は何かと聞かれたら、気兼ねなく〝科学者〟という。しかし行動は密かに一人でに、干渉を避けて行う。

それを強いるのはまた科学者、いつ何処でも目立つ連中は嫌われる。

だからこそなのかもしれない、過去と同じ施設を作り同じ実験をしているのは。元々の部屋と同じ場所で身を隠し綿密に冷静に、その為の要塞を敢えてリメイクした結果がこれだ。


「ならもう一度壊すか、どうだ?」

「破壊するしか解決策無いの..」

「乱暴だけど、簡単でいいよね。」

重量を軽くして自己流に造り変えた機械のカラダは戦闘に向かず、頑強に受け身の耐性を持ってしまった。

戦闘スキルを捨てた事を旅に出てから後悔し始めた。

「壊すっていってもワタシたちは武器とか何も..」

「ふん」

手元の柱を撃ち抜き剥がして渡す。

「これで殴れ、お前も欲しいか?」

「は、はい!是非いただきます!」

 物語は破壊から生まれる、ここに来て殺し屋の力を借りると真実に触れられる。形あるものは壊れる、壊さなければ新しく変わらない。〝変化の生まれる予知がある場所〟での話だが。

「離れてな」

弾丸が建物に止めを刺した。機能する

整備は無く、データも残らない。

「外に出よう

外壁は外側の方が壊しやすい」

「色々知ってるんだね..」

「恐ろしいよ」殺し屋らしいからね」

扉だけは手を出さずに綺麗に残した。

帰り道が汚れているのは気分が悪いと


「....?」

「何これ..」「空間が」

門を出る直前に施設内が停止する。一瞬灰色になり色が戻ると、内部は元の精巧な施設に再生した。

「傷が消えてる..元に戻った?」

「仕切り直しか」

「そういう事なの?」

「時間が戻った、それとも傷を癒した

ワタシ達が過去に飛ばされたのかも」

やはり一人での連中だ

特別な仕様を施す為に敢えて古い前の形状で施設を建て直したようだ。

規則性があるのか自由自在か、被検体には情報が少なすぎる。

「もう一度壊してみるか?」

「そんな事しても無駄な気がするよ」

「そうか..?

だが弾の数が減ってない。現状では、まだ壊していない事になってるが」

 施設の傷を癒すだけであれば他に影響は与えない筈、しかし弾は元に戻っているということは時間回帰か過去転移、空間そのものを操っている可能性が高そうだ。


「構うか」「あ!」

待つという機能の無い殺し屋は目を離すと悪戯に発砲してしまう。

「弾が減った、刻は動いてる」

「野蛮な確認の仕方しないでよ..。」

「どうするの、この状況?」

「殺し屋さん。

再生し続ける建物を壊し続けてもらっていいですかね?」

「ああ、いいよ」

「機械のお姉ちゃん何するつもり?

そんな事しても無駄だと思うけど。」

気でも狂ったか、堅実派までも破壊を求めるようになった。

「施設内の電子機器から、体内のレコードを使って過去にアクセスしてみる

上手くいけば、再生を止められるかもしれない。」


「確証は?」

「わからない、けど..やるしかない」

手段が無いなら作ればいい。

可能性が低くても選択肢だ、選んだ時点でこなす他無い。

「双子姉妹手を貸せ、無限に施設を撃ち壊す。武器はその都度用意する」

「双子じゃないよ?」

「よく見ると全然似てないんだよ..」

システムに手を翳し情報処理形態へ、こうなると完了までは動かない。


「過去の惨劇..あの瞬間と現在の破壊が重なればどうにか...」

過去の出来事と類似した光景を現代に作り同調シンクロさせる。

「集中だ、集中するのよカナメ...過去の惨劇。そのレコードを抽出するの」

 体内の情報は徐々に更新されていく為古く保存した情報はトピックを超えたフォルダに転送される。電子機器と同調させて流す場合、集中しフォルダを整理する必要がある。

「施設の惨劇施設の惨劇...これ?

あ〜違う、これさっきの怖い人達だ」


「ん?ちょっと!

殺し屋さん、あれ!」

「..岩の化け物か?

あの女、ミスを犯したな。」

誤って再生した記憶が脅威として迫る

「仕事を増やすなら追加報酬だ」

「あった!...あー違う!

これおじいちゃんの過去じゃんっ!」

詮索が難儀に滞り、裏目裏目に現代を苦しめる。

「え、ちょっと殺し屋さん!

危ないから避けて!」

「何だ?..あの女、またか。」

黒い列車が施設を吹き飛ばし走り抜け汽車を見送り再び再生。

何度目の振り出しだろうか?

「やり直しかぁ。

ごめん、難しいなこれぇ..」

その後も何度失敗しただろう。ミスを犯しては再生しミスを犯しては再生し


「全然ダメだ..流石に疲れるな。

でも休んでる暇なんてないもんね」

施設が再生しようと同期しているカナメの疲労は回復しない。過去のデータの映像を知っているからだ。

「どうすればいいんだろ...」

探索を中断しようと試みる。

同期を外し根気を削がれ諦めようと、この時既に忘れていた。自分の体内に〝もう一つの命〟がある事を。


『ナニカヲオサガシデスカ?』

「うん、ずっと探してるんだけど見つからないんだ。」

『シセツノサンゲキデスカ?』

「..なんで知ってるの。」

『コチラデス』

頭に映像が流れる。

施設が焼かれ、壊れる記録。

「はっ!...止まった。

殺し屋さん、施設を壊して!

今ならここを抜け出せるから!」

「漸くか、手伝え双子」

「だから双子じゃないんだよ!」

「わかって言っているんじゃない?」

幾度めの正直で施設内に破壊を促す。

柱を床を天井を、何から何まで撃ち飛ばしては砕き割る。

「止めだ、次こそはね」

支柱を撃ち、破壊を確認する。建物は再生しない。完全なる崩壊が完成する

「扉へ急ぎましょう!

やっと施設を抜けられますよ?」

扉を破り外へ出る。

建物は瓦礫となり、過去と化した。

「ありがとう、オフィスくん..。」

過去のメモリーに深く眠る。

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