ルーツを探して..。

 「痛ぁっ!」

暫くは掌の表面が焼けるように痺れデータをダウンロードしていく。

「頼むから..耐えてよ?」

血管を通りワードディスクシステムへデータを送信、生成された電子板は体内で溶け、再生される。


「声が流れてくる..映像も!」

インストールは成功したが再生している間は意識は体内へ、情報整頓形態に移行する。

「しっかり見せて貰おうかな、過去の記憶っていうのを」

刻は約30年前に遡る。

➖➖➖➖➖➖

 「成功だ、機械化ヒューマノイド」

華奢な素体の四肢が金属に覆われ、ギシギシと音を鳴らしている。


「N'S《エヌズ》様」

「お前か、様子はどうだ?」

〝N'S〟と名乗る男の顔はノイズにより把握は出来ないが、白衣の女を跪かせて従わせている。

「被検体の容態が急変致しました」

「何だと...直ぐに向かう。」

 冷たい研究施設で生まれた機械の生命体の出来は成功といっても雑なもので、人の身体を借りた粗悪なガラクタに成り果てた。


柄葉ぐらは長海ちょうかい岩殴羅いわなぐら。」

研究員が名を呼んだ、目覚めれば人にあらず。経と念仏は作法から機能へと変わっている。

「服を着ろ、用意した。身体検査をする、先に向かっているぞ?」

足元に薄い布切れが畳まれている。服と呼ぶには身すぼらしいが、そもそも人間という認識はしていないだろう。


「覚えているか?」

「あぁ、さっきまでは別々のところにいた。共にいた連中はどこに」

「皆死んだ...。」

 多くの実験台を用いて漸く完成した数体は死ぬ事すらも許されず苦痛を与えられる。記憶を抜かなかったのは、精神的刺激を与えられる過程を観察する為に設けた猶予だ。

「まぁ選択肢も無いんだ

健康診断とやらを受けてやろうぞ」

「身体検査だ。」「何が違う?」

指定された部屋に入ると先程の科学者と既にもう一人、機械化されたヒューマノイドが席に座っていた。


更違さらい。」「来たか」

「成功者がこぞって坊主だとはな、精神が極端に強いからなのか?」

「一つ極端な事を言うが..この体なら纏まれば仕留められるのではないか」

「坊主が殺生を目論むか?

どうやら中身も弄られたようだな。」

 確かに以前と比べれば力は飛躍的に向上している。通常体の研究員など容易に殺める事が出来るが、そうしてしまえば彼等は完全に人の尊厳を無くしてしまうだろう。


「体温は平常だ、良かったな。

経過は非常に順調だ坊主共」

視力、握力、その他身体能力は大幅な増加が見られたがそれは成功の合図。忌々しい科学者たちのエゴを完成させたことを意味する。

「要が済んだらオサラバか」

「生きているだけマトモだろう?」

「これが生きている内に入るか。」

前触れは本当に突然起きた。

寺に白衣の集団が押し寄せ手を広げた

〝街を隔離した、黙ってついて来い〟

「恐らくほぼの住人が死んだ。

生き残ったのが我等なら他は皆死者」

街を守っていたのは警察官だがそれらは真っ先に研究対象とされ、一人残らず処理されるのを見ている。


「どうする?」

「決まっている、多くを殺めた輩を正すには、同じ不幸を返却する。」

言葉を変えたが結局は殺生を振る舞う

感情を残したのが仇となったようだ。

「更違」奪われた腕で奪い返す。

「柄葉」壊れた頭でものを思う。

「長海」腹は立っても硬いまま。

「岩殴羅」踏み締めた跡は傷一つ。


「潰し切る、何もかも。」


第二研究室寝台

「これで暫く様子を見よう、効かなければ投与の段階を上げる。」

「わかりました。

薬の整理を、してきます」


「N'S様大変です!

奴等が暴れまわって..!」

「今度はなんだ。」

部屋を抜けると、まるで子供部屋のように荒れた研究所内で半機械の人間が猛威を奮っていた。

「研究資料も..データも殆ど壊されました、被検用の素体までっ!」

「何のつもりだ...⁉︎」

〝復讐だ〟と

知らなければ思うだろう。

「やむを得ん」「どこに?」

「ここに入れば諸共に喰われる。」

我が身を案じ逃亡を試みる心なき潔さには、忠誠を誓う研究員も流石に顔が引き吊っていた。


研究室検査場

「身体を調べるか小僧?」

「憂さ晴らしか..そんな事をいくらしても元には戻らないぞ。」

「ならばお前に分けてやる」

「やめろ!」

 四人同時に弄られた箇所を男に押し当て磁場を流す。死亡させる程の力は無いが簡単に殴り飛ばすより、余程心が晴れる気がした。

「...何故素体やデータまで壊した..」

「手を施され死にゆく者共ならば、仏において供養するべきだと判断した」


「手を施された坊主がか?」

「何とでも言え愚者よ」

愚かな魂は殺生にすら値せず、燃え盛り崩壊する室内に無残に放置した。

「こんなものか..」

「まだだ、N'Sとやらが贔屓にしていた実験台が残っている。」

最後に確認した資料には

〝双子のヴィーナス〟と明記があった

「第二研究室だ。」

 部屋には文字通り体を一つに繋げられた双子の少女が涙を流して横たわっていた。

「助けて、私たちを..殺してっ!」

「我々にこれ程までに若き種を手に掛けろというのか?」

「残念だか、選択肢は無いのだ。」

 少女の涙を止めたその後体内に保存した研究所のデータを使って街を再構築した。殆どは企業の用の機械や街の修復に使われ、中心に保存されたのは醜い記憶が殆どとなってしまったが研究施設のあった場所のみはきっちりと記録を施した。


〝ホペイル地区・ベガダルヒア〟

➖➖➖➖➖

「ベガダルヒア..!」

 意味もなく被検体にされた事、住人の居なくなった街を作り直し修復した事、人体実験を統括し中心に立つ謎の男N'S...。過去に立ち戻る事で、それら総て一編に触れた。


「私が全部頂きました。

これはもう必要ないよねっ!」

中心に立つ記憶のメモリーを叩き割る空っぽのビルはいとも簡単に崩れ陳腐な瓦礫へと変わる。

「電波の乱れが消えた..これで皆んな自由かな?」

古いデータは受け取った。

黒くボヤけた映像の中に、未来へ続く僅かな行き先を示してくれている。


「行こう、ベガダルヒアに」

現在のその場所がどんな場所になっているかはわからない。凄惨な記憶に組み込まれた分布は地図を持たずとも、新たな機能が導いてくれる。

「オフィスくん、君ならわかるよね」

声は聞こえない返事もしない。共鳴した電子回路が、音も立てず脚を動かす

「お坊さん達の体も治せるといいな」

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