第六十二話 特訓開始(後半)

「一つ聞きたい事があります

魔女を倒した聖女は次の魔女になる……この問題はもう解決してるんですか?」


 ベルネルの質問は、『お前が魔女になるなら何も解決しないよな?』というものだ。

 この話も初見である噛ませ犬君は『えっ? 聖女って魔女になるのか!?』と驚いていた。

 だが大丈夫。この問題は最初から解決済みだ。

 俺は偽物なんだから、そもそも魔女になるわけがない。

 なので自信を持って、笑みを向けてやる。


「はい。魔女を倒しても私が魔女になる事はありません。

私の代で、過去から続いてきた連鎖を断ち切ります」

「……分かりました、信じます」


 おう安心しろ、ベルネル。

 俺は魔女になんぞならん。というかなれん。

 きっちり死んで、あの世でニートになってやる。


「地下にいる魔物の数と種類も、預言者の力で既に判明しています。

ですので皆にはこれから、対魔物の訓練を積んでもらいます」


 アレクシアの取り巻きとして登場する魔物の数はゲームだと五体。

 ドラゴン、バフォメット、グリフォン、キマイラ、バジリスクだ。

 しかし亀が遠視した結果、何故かそれらはいなかった。

 どうやらファラさんの時に俺が蹴散らしたのが、本来魔女の取り巻きとして出て来るはずだった魔物だったらしい。

 代わりに、ワイバーン、ミノタウロス、ヒッポグリフ、オルトロスの四体になっていた。

 元の神話での強さはさておき、『永遠の散花』ではこの四体はドラゴンなどと比べると一ランク劣る。

 準大魔クラスってところだ。

 強い事は強いのだが、大分楽になっている。

 それでも本来は正規の騎士でも苦戦する相手だ。苦戦は免れない。

 なのでベルネル達にはこれから、俺と一緒に対魔物訓練を受けて貰おうと思っている。


「訓練ですか?」

「はい。私は現在までに、魔物に奪われた土地を取り戻してきましたが、未だ世界の全てを魔物の脅威から遠ざけたわけではありません。

今でも魔物に苦しめられている場所は残っています」


 はいそこ、無能とか言わない。

 このフィオーリは地球と比べると惑星サイズそのものが小さいのか、世界も狭いんだがそれでも世界は世界だ。

 全部を人間の勢力圏に塗り替えるのは、いくら俺が空を飛び回って高速移動して、魔物の群れを駆逐出来て、頼りになる騎士が沢山いるといっても厳しい。

 あれ? 並べてみると好条件ばかりだ。やっぱ俺って無能なんじゃ……。

 ……ともかくだ。

 俺の前……というよりはエテルナの前の聖女が土地の奪還とかをあんまりやってくれていなかったので、俺が聖女就任した時点では人間の勢力圏は大地の二割くらいで、後は全部魔物の勢力圏という有様だった。

 いや、二割どころじゃないな。

 この世界は昔のRPGのように、都市を囲む城壁の外に出ると普通に魔物とエンカウントするという滅茶苦茶やばい世界だったので、ぶっちゃけ人類の勢力圏と言われてた場所ですら実際は城壁の中くらいしか安全地帯はなかった。

 村とか普通に襲われるし、割としょっちゅう村が魔物に襲われて死人もバンバン出てた。

 ハッキリ言って人類の勢力圏は城壁に囲まれた都市の中とか、それだけ。

 一歩外に出ればファミコン時代のRPGかよってくらい異常な頻度で魔物とエンカウントする。

 それを『エンカウントなし』にして、ほぼ九割九分人類の勝ちにまでひっくり返したんだから、俺は褒められていいと思う。

 何処を歩いても魔物を見かける魔境から、の技によって魔物は絶滅危惧種になるまで劇的ビフォーアフターで激減したのだ。

 つまり俺は無能じゃない……無能じゃないんだ……っ!

 むしろ有能っ……! ギリ……かろうじて……有能寄りっ……! 多分っ……!


「私達の住む大陸から最も遠くにある島国、『フグテン』は今でも魔物の脅威と戦っています。

そこで貴方達にはこの国に赴き、魔物相手の実戦訓練を積んでもらいます」


 正式名称はオーディナリー・フグテン。

 俺達が暮らしている大陸から見て最も遠くに位置する島国で、ヨールー王という王様が統治している。

 何故まだ魔物がここに残っているかといえば、世界で一番平和だった・・・・・・・・・・からだ。

 長い歴史の中で聖女は世界中の色々な場所で誕生してきたし、魔女も何度も代替わりして少しずつ時間をかけて世界中に魔物を蔓延させてきた。

 だが歴史上、魔女が島国を拠点にした事は一度もない。

 何故なら、島国で魔物を増やしてもそいつ等が海を渡って別の大陸まで行くのは簡単な事ではないからだ。

 魔女としてはなるべく多くの国を攻め、なるべく多くの土地を奪いたい。

 なのに四方を海で囲まれた島国なんかに陣取っては、せっかく増やした魔物も大半は狭い島国から出る事が出来ずに、一つの島国を魔物パラダイスにするだけで後は何も出来なくなる。

 それよりは、もっと広くて色々な国が点在している大陸を拠点としてそこで魔物を増やした方がいい。

 つまり島国には、魔女にとって居座る価値がない。


 そして、島国から魔物が出にくいのならば、当然その逆に外から島国に魔物が入り込む事も難しいという事になる。

 結果、島国に入り込む魔物といえば空を飛べるものか、海を泳げるものくらいだ。

 だからフグテンの人々にとって、この大陸で起こっている生きるか死ぬかの戦いというのは他人事のようなもので、そこまで深刻に考えていなかったのだ。

 俺としても元々そこまで魔境でもないこの島国へ行く理由は薄かったし、物理的に距離も遠いので後回しにしていた。

 その結果、最後に残ったのはこの島国だったってわけだ。

 世界で一番平和だった国のはずが、今では世界で一番危険な国である。


 しかし、こう言っちゃ酷いが残しておいてよかったと今は思っている。

 おかげでベルネル達の訓練に使えるからな。

 こっちは……俺が後先考えずに魔物狩りヒャッハーしまくったせいでマジで魔物いないからな……。

 残ってた魔物も、多分この前のビルベリ王都襲撃で全部集まっていただろうし。

 あれ以降、どこを探してもマジでいない。

 魔物討伐をしている兵士とか騎士とかにも話を聞いたのだが、誰も魔物と出会っていないという。

 ……やらかしたな、これは。マジで絶滅させちまったらしい。

 ファンタジーお馴染みの、今ではスライムよりも雑魚モンスターとして定番になりつつある角の生えた兎一匹すら見当たらねえ。

 スライムは近年で再評価されて実は滅茶苦茶強いとか言われる事もあるけど、角の生えた兎は安定してクソ雑魚ナメクジの癒し枠だ。

 だが、その癒し枠すらいない。


 ま、まあいいや! 残ってるなら結果オーライ!

 俺は過去の失敗を気にしない! いざゆかん、島国へ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る