第三十二話 自分との対話(後半)

 ブルーライトカット用の眼鏡を指先で持ち上げ、新人おれは自信満々に語った。

 随分当たり前のように転生とか言うが、その時点で大分前提がおかしいな。

 まあ、俺みたいなのが実際にいる以上、そこは転生もあると信じて話すしかないのだろう。

 そうじゃないと話が先に進まない。


「つまりお前はまだ完全に転生し切ってないんだ。

だから、回収し損ねた魂を回収する為に何度もこっちに精神だけで帰ってきている」

『私が魂を回収している? しかしそうだとすると貴方は……』

「ああ。多分お前が来る度に俺の寿命はガンガン削れてるんだと思うぜ。

何かな、どんどん死が近付いて来てる感覚があるんだよ。

これが後何回機会があるか分からんって言った理由だ。

多分後何回かで、俺は完全にお前に統合されて、こっちの身体は死ぬ」


 そう軽く言いながら、新人おれは自分の心臓のある場所を軽く叩いた。

 その姿にはまるで命への執着がないように見えるが、実際にない。

 俺自身だからよく分かる。

 新人おれはもう、最初から死を受け入れているんだ。

 何故なら……。


「まあそれは別にいい。

どうせ放っておいても、後一年ほどで死ぬ身だ。

ならお前に統合されるのも悪くはねえし、むしろ死後に異世界転生が約束されていると思えば楽しみなくらいだ。

まあTS転生っていうのはチト気に喰わねえがな」


 何故なら、どうせもうすぐ死ぬ身だから。

 不動新人は最初から、死を待つだけの人間だった。

 医者に余命一年と宣告されて見放され、後は病院で死を待つか自宅で待つかの違いだけだ。

 それならまだ、ギリギリまで死ぬまで好きな事をやって、そんで本当に駄目そうだったら病院に死にに行く。残っているのはそんな人生だ。

 だから俺はフィクションのゲームだろうと後味のいいハッピーエンドを熱望した。

 現実はクソなんだから、せめてフィクションの中でくらいいい夢を見たかった。

 だから……俺は死ぬのなんかこれっぽっちも怖くない。

 ただ、何の救いもなく後味が悪いまま消えるのは嫌だった。


『しかし……時間はどうなってるんですか?

私は既に向こうで何年も過ごしています』

「ズレているとしか思えないな。お前にとっては既にエルリーゼになって十年以上経っているんだろうが、俺にとってはたったの一月前の事だ」

『私が入った事でゲームが変わったと言いましたね。

ならば何故誰も騒いでいないのですか?』

「どうも、俺以外は最初からそうだった・・・・・・・・・と認識しているらしい。

だから誰も本来の、あのクソッたれなエルリーゼを知らないし、本来の『永遠の散花』も知らない」


 質問への答えは、ある程度予想出来ていたものだ。

 そりゃそうだ。時間軸が同じなら新人おれはとっくに死んでいるはずだし、変化前を皆が覚えているなら大騒ぎになるはずだ。

 そうなっていない以上、これは予想出来た。


『後、何回くらいだ?』

「分からん……が、多くても五回はないと思う。

お前が来る度に俺は、お前の事を夢で見るようになっているんだ。

最初は自分じゃない自分お前の物語を見ているような感覚だったが、最近ではまるで自分がエルリーゼになっているような感じの夢で、起きてもしばらくこっちが現実だと認識出来ない。

夢と現実の区別が付かなくなってきた……てところか」

『……そうか』

「ああ、そういうわけだから、さっさと必要な事を話すぞ」


 新人おれはそう言ってパソコンをスリープモードから立ち上げ、ファンサイトを開いた。


「あれから、どうすれば魔女のテレポートを封じ込めることが出来るのか色々と調べた。

エルリーゼルートが発見される前から色々と議論されていた・・・・・事になっているようでな。

その中に面白いのがあったんだ」


 キーボードを叩き、そしてある一転でページを止める。

 俺はパソコンを覗き込み、そしてほうと声を上げた。



602名無しの騎士 2017/10/25(日) 0:20:14

思ったんだけどさ、テレポートも要するに魔法なわけだろ?

じゃあ周りから魔力をなくしちまえばいいんじゃないかな。

まずエル様が学園周辺を魔力を通さないバリアか何かで覆って、その後にバリア内の魔力を全部取り込むってのはどうだ? あ、エル様は勿論先に魔力を放出しておく事で残存魔力を減らして取り込める量を増やしておく。


603名無しの騎士 2017/10/25(日) 0:21:06

無理。周りに魔力がなくても魔女自身の体内に溜め込んだ魔力でテレポされる。

周囲の魔力をなくせば確かに魔力回復は出来なくなるけど、まず魔女自身を削らないと


604名無しの騎士 2017/10/25(日) 0:22:22

まずエル様以外が戦ってテレポ出来ないくらいに魔力を使わせて、それから>>602をやれば封じ込める事は出来そうだな



 そこに書かれていた作戦は、言ってしまえば俺が肺活量任せに空気を全部吸い込むような荒業であった。

 魔法を使うには自分の体内の魔力を使う。

 これは個人によって取り込める魔力の限界量が決まっていて、魔法に使う魔力の量で魔法の威力や規模も変わる。

 つまりいくら魔力を体内に取り込めるかが魔法を使う上で重要なわけだ。

 あの世界では同じ魔法でも、そこにどれだけのMPを使うかで威力が変動する。

 そして一般人のMPを1、騎士のMPを100、近衛騎士のMPを200とした場合、俺のMPはざっと50万は超える。

 私のMPは53万です。ですがフルパワーで貴方と戦うつもりはありませんので、ご心配なく。

 だから俺が1000のMPを消費して魔法をブチかませば、1000未満のMPの持ち主は絶対相殺出来ないわけだ。

 魔女は……まあ、1000~3000くらいかな。

 ただし魔女は魔法の循環率がいいので、魔力を使っても短時間で周囲の魔力を取り込んで回復してしまう。

 つまり一度に使える上限こそ1000~3000だが、実質的に無限と言っていい。

 もっとも俺も周囲から魔力を取り込むのは得意なので無限は俺も同じだがな。

 

 だがこの作戦ならば、魔女の回復を封じる事が出来る。

 何せ回復しようにも、肝心の魔力がないのだ。

 ならば少しタイミングが難しいが、まずは俺以外の誰かが魔女と戦って魔法をバンバン使わせ、テレポートが出来ないほどMPを消耗させる。

 その状態で俺がバリア&取り込みを実行すればテレポートを完全に封じ込める事が出来るだろう。

 俺の最大MPならば、バリアで閉じ込めた空間内の魔力くらいならば全部取り込んで枯渇させる事は難しくない。


 なるほど……いける気がしてきたぞ。

 うん、いけるんじゃないかこれ。

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