第三十三話 観測不可能(前半)

『思ったんですけど、エルリーゼルートを最後まで見れば未来分かるじゃないですか。私って頭いー』


 一通り魔女のテレポ対策を話し合った後に、俺は思い付いた事を口にした。

 とりあえず暫定で、魔力バキューム作戦で行く事にしたが、よく考えてみればここであーだこーだ話すより、一度エルリーゼルートを最後まで見るべきではないだろうか。

 そうすれば未来が分かるし、色々と対策も立てられるじゃないか。

 しかしそんな俺の賢い提案を、新人おれは鼻で笑った。


「はっ、猿知恵だな。それが出来るならとうに俺がやっているわ、間抜けめ」

『んだとコラ』

「まあこれを見ろ」


 そう言って新人おれが動画サイトを立ち上げる。

 エルリーゼで検索すると、ちゃんと【衝撃の】エルリーゼルート実況プレイ 最終回【ラスト】とかがあった。

 そうそう、こういうのだよ。こういうのを見れば未来が分かるだろ。

 新人おれはそのまま動画をクリックして再生を試みる。

 まずは再生前広告。どうでもいいCMが流れる。

 そして広告が終わるが……いつまで経っても読み込みが終わらない。コメント欄もそれは同じで、何が書かれているか分からない。


『あー、このサイトはクッソ重いですからねえ。

もっと別の動画サイトなら見れるんじゃないですか?』

「と、思うだろ?」


 そう言って新人おれは別の動画サイトに上げられていたエルリーゼルートを読み込む。

 だがこちらもいつまで経っても、読み込みが終わらない。視聴者コメントも見れない。

 スマホでやっても同じだ。何も変わらない。

 それどころか、ネタバレサイトを見ても画面が白いままで一向に何も表示されないし、掲示板すら何故か読み込めなくなる。

 しかし俺が既に知っているもの……例えばダンスパーティーのシーンなどはスムーズに見れるようになっていた。


「全部こうなんだ。どうやっても見れない。

自分でゲームをプレイしても同じだ。ある程度まで進むと突然フリーズして強制終了しやがる。

このダンスパーティーだって、少し前までは見る事が出来なかった」

『どういうことだ?』

「おい口調戻ってんぞ。

要するに未来は見れないって事だ。まだ運命は未確定って事だろ、多分」

『あれ? でもエテルナルートは見れましたよね』


 未来を見る事は出来ないと新人おれは言う。

 だがその割に前回はしっかりとエテルナルートを見る事が出来た。

 結果はあまりいいものではなかったが……あれだって未来のようなものだろう。


「エテルナルートはお前から見て、選ばれなかった未来ルートだ。

言っちまえば、今お前がいる世界から繋がる未来じゃない。並行世界の出来事だ。

そういうのは見れるんだろうさ。

選ばれなかったという意味で、エテルナルートは『あったかもしれない世界』として『確定』している。

だがエルリーゼルートは違う。今まさに紡がれている最中だ。

まだ確定した未来がない……無いものは見れない・・・・・・・・・。分かるか?」

『ごめんわかんない。どゆこと?』

「……エルリーゼルートは制作中です、とでも思っておけ。

というかお前……何か少し物分かり悪くなってないか? これも二人に別れちまった影響なのかな……」


 俺の質問に新人おれは呆れたように言い、ダンスパーティーのシーンを再生した。

 画面の中ではベルネル視点で誰をダンスに誘おうかと選択肢が出ており、エルリーゼが選択された。

 そしてダンスシーンは一枚絵で表示され、その後の流星群を見るシーンでベルネルの独白を見る事が出来た。



 ベルネル:(流星群か……凄いな。

 でも少し、タイミングがよすぎるような気がする……。

 まさかエルリーゼ様が何かしたんじゃ……)


 エルリーゼ:……あ。もしかしてバレてしまいました?

 お察しの通り、私がちょっと演出をしてみました。

 皆には内緒にして下さいね。


 エルリーゼ:それにちゃちな手品ではありますが……。

 それでも、夜空を飾る流星は綺麗なものでしょう?


 ベルネル:(そう言ってエルリーゼ様は夜空を見上げた。

 星明りに照らされる彼女の横顔はとても幻想的で……神秘的で……。

 ああ、本当に……)


 ベルネル:ええ。……本当に……とても綺麗だ……


 ベルネル:(俺は心から、そう思った)



 ぎゃああああああああああああああ!!

 何だこのこっぱずかしいシーン!

 ぐわあやられた! 俺のメンタルに9999のダメージ! 効果は抜群だ!

 やめろォ! 俺のSAN値を削る気か貴様ァ!

 布団に飛び込んでゴロゴロのたうち回る俺を、新人おれはニタニタしながら見ている。


「お前なに普通にヒロインみたいな事しちゃってるの? マジうけるんだけど。

これベルの字、完全にお前の事攻略しにいってんじゃん」

『わあああああああああ!!』


 違う、違うんだ! あの時ベルネルがそんな事考えてたなんて思って無かったんだよォ!

 精神的大ダメージを負った俺を放置して新人おれは椅子の背もたれに背を預け、画面を切り替えた。

 そこにあったのはベルネル、エテルナ、モブA、フィオラ、マリー、アイナ、変態クソ眼鏡のステータスや能力、覚える技などが記された攻略サイトだ。


「で……誰を魔女と戦わせる?」

『え?』

「いや、『え』じゃないだろ。さっきの作戦もう忘れたのか?

まずはお前以外が魔女に戦闘を仕掛けて魔女のMPを削って、それでようやくテレポ封じに移れるんだ。

つまり誰かが魔女に挑まなきゃいけないだろ。

だが下手なメンバーを送れば、死者が増えるだけだ。

まさかそこ、無計画で行くつもりか?」


 新人おれに言われ、布団の上で正座をして考える。

 正直なところ、誰を魔女と戦わせても不安しかない。

 元々のゲームではそもそもエルリーゼは戦闘に加わらなかったし、ベルネル達だけで頑張って倒す相手なのだから、決してあいつ等でも倒せない相手じゃないとは思う。

 ましてや魔力をちょっと消耗させるだけなんだから難易度は格段に低い。

 それでも誰かが死ぬ可能性は十分あるのだ。

 魔女アレクシアって普通にルート次第ではラスボスだからな。あまり舐めちゃいけない。


『騎士を大量に送り込むとかどうですかね』

「そんなん『もうエルリーゼに場所割れてます』って宣言するようなもんだろ。すぐテレポするわ。

忘れるなよ。魔女はお前にビビってるんだ。お前が来る気配を感じたらマジですぐに逃げるぞ」

『魔女ちょっとチキンすぎません?』

「お前が強すぎるんだよ。何だあのふざけたステータス。

ファラ戦見て噴き出したわ。あんなん誰でも逃げるわ」


 アレクシアって本当にラスボスなのかな。何かだんだん自信なくなってきたぞ。

 何だよ、すぐ逃げるラスボスって。

 しかも騎士送り込んでも駄目ってお前……。


「魔女のお前へのビビりはガチだぞ。

何せアレクシアルートがゲームから消えるレベルだからな」

『え?』

「アレクシアってゲームだと時々正気に戻って特定の場所に出現してたろ。

で、それで話しかけると好感度を稼いでアレクシアルートに入れたのは覚えてるよな?

それが完全に消えた」

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