第二十一話 闘技大会(別視点・後半)

 準決勝が終わり、いよいよ闘技大会はクライマックスを迎えた。

 最後にぶつかるのはベルネルとマリーの二人だ。

 ベルネルは大剣を。マリーはレイピアを構えて向かい合う。


「開始!」


 試合開始。それと同時にまずベルネルは先程と同じように大剣を振り下ろした。

 これをマリーは涼しい顔で右に避け、それを追うようにベルネルが大剣の軌道を横に変化させようとする。

 先程と全く同じだ。いかにこのパターンで準決勝まで進んだとはいえワンパターン過ぎる。

 当然のようにマリーは跳躍し――それを予期していたようにベルネルの剣は、今までよりも上を狙うように斜め上に切り上げられた。


「……!」


 マリーの目が見開かれる。

 この瞬間彼女は理解した。今まで繰り返して来たワンパターンはこの為だった。

 あえて同じスタートを準決勝まで繰り返す事で決勝の相手に対策させ、そして決勝でいきなり軌道を変える。

 そうする事で意表を突いたのだ。

 だが次はベルネルが驚く番であった。

 マリーは回避不能と思われた宙で、身体を素早く横にして回転してベルネルの剣を避けてみせたのだ。

 そして着地と同時にベルネルへ駆け出し、突きを放つ。

 これを咄嗟に後ろに跳ぶ事で避けるが、マリーは更に前進して突きを繰り出した。

 勝負あり――誰もがそう思っただろう。

 だがベルネルは先程の試合でも見せたように上体を逸らしてレイピアを避け、肘をリングにぶつけて身体を固定する。

 そして蹴り! 大砲のようなキックがマリーの前を通過し、レイピアを空へ蹴り上げた。

 マリーは咄嗟に距離を開けてレイピアに向けて氷の弾丸を放つ。

 すると空中でレイピアが弾かれてリングの方へ戻り、回転しながら落ちてきたそれの柄を苦も無くキャッチした。


「……すごい。あの不安定な姿勢で、こんなに力強い蹴りを打つなんて……」

「君も凄いよ。決勝の為にブラフを撒いておいたのに、あっさり対処するなんてな」

「……あれは意表を突かれた」


 短い攻防だったが、二人は互いの実力を認めて笑い合う。

 そして再び武器を構え、向き合った。


「ふっ!」


 今度はマリーが先に仕掛け、高速の突きを放つ。

 これをベルネルは大剣の腹で受け止め、連続して金属音が響き渡った。


「らあっ!」


 そして薙ぎ払い!

 風を切って大剣が通過するが、もうそこにマリーはいない。

 攻撃の予兆を読んで距離を開けており、そして再び接近した。

 彼女の戦闘スタイルはスピードを活かしたヒット&アウェイだ。

 対し、ベルネルはその場にどっしり構えての迎撃型。

 武器が届く距離に来れば、大剣の射程を活かして思い切りスウィングするという単純なスタイルだった。


 二人の戦いは完全な互角であり、生徒達が魅入る中で戦闘が続く。

 蝶のように舞い、蜂のように刺すマリー。

 その猛攻を耐えつつ、重い一発一発を放つベルネル。

 だが徐々に疲れを見せ始めたのはマリーだ。

 リング上を動き回る彼女と違い、ベルネルはほとんど動いていない。

 それに男女の体力差もある。

 だからこそ、先にマリーが疲れるのは当然の事であった。


「息が上がって来たな。あれだけ動いたんだから無理もない」

「はあ……はあ……そっちは、疲れてない……」

「まあな。これでも鍛えてるんでね」

「……すごい。けど……勝つのは、私」


 現状はベルネルが有利だ。

 しかし何もマリーは無計画に突撃を繰り返していたわけではない。

 ベルネルの足を指差し、そしてベルネルはここで自分の足が動かなくなっている事に気が付いた。


「これは……! 氷魔法か!」

「そう。貴方ほどの人に、いきなり撃っても……氷漬けになる前に逃げられる……だから」


 そう言いながら彼女は魔法を発射した。

 すると回避出来ないベルネルの足が氷で覆われ、更に動けなくなってしまった。


「少しずつ温度を下げて……避けられないようにした」

「や、やば!」

「もう逃げられない」


 マリーの魔法によってとうとう両腕まで凍り付き、武器も使えなくなってしまった。

 ここから動く事はもう無理だ。下手に動けば身体が砕ける。

 炎の魔法ならば溶かせるが、ベルネルはまだこれを溶かせるほどに魔法を極めていなかったし……仮に出来ても、それをマリーが許すわけがない。

 マリーが駆け出し、レイピアを引く。

 後はこれを首に突き付けて終わりだ。

 だがその彼女の視界の中で予想に反し――ベルネルを覆っていた氷が罅割れた。


「っおおおおおおおお!」


 ベルネルが叫び、氷が砕け散った。

 何と恐るべきパワーだろう。内側から氷を粉砕してしまうなんて。

 ……いや、そういう問題ではない。

 いくらパワーがあろうと、凍った状態で無理に動けば身体の方が砕けてしまう。

 こんな事が出来るなど、魔法そのものが身体まで届いていなかったとしか考えられない。


 マリーは知らないが、ベルネルには幼い頃から彼自身を苦しめてきた闇の力が備わっている。

 それは魔女の力と同質のもので、この力がある為にベルネルはダメージを受けにくい。

 まだ使いこなせない力ではあるが、マリーに追い詰められたベルネルは無意識にこの力を纏い、氷魔法を遮断していたのだ。

 そのあまりに不可解な現象を前にマリーが一瞬硬直し……それが勝負を分けた。

 ベルネルの剣が彼女のレイピアを弾いて首へあてがわれ、ひやりとした感触に本能的に震えた。


「勝負あり!」

「決まったァー! 優勝者はベルネルだ!」


 審判がベルネルの勝ちを宣言し、実況が大声を張り上げた。

 ベルネルは剣を収め、勝利の喜びに浸る前に、まずは素晴らしい好敵手へ敬意を払うべく手を差し出す。

 それを見てマリーは数秒ほど不思議そうにし、やがて嬉しそうに僅かな笑みを浮かべてベルネルの手を取った。


 こうして、この闘技大会はベルネルの優勝で幕を閉じた。

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