第二十話 闘技大会(前半)
楽しい楽しい夏休みが終わり、再び学園が再開された。
まあその間俺はずっと暇だったわけだがな。
あった事といえばルティン王国から感謝状やらお礼の金銀宝石やら、それだけに留まらず王族ご家族揃ってお礼参りに来たりとかしたせいで、俺があの日に黙って外に出て魔物狩りでヒャッハーしてた事がレイラにバレたくらいか。
やっぱ悪い事ってのは必ずバレるもんなんやね。
仕方ないのでとりあえず反省しておいた。
1、2、3……はい、反省した。反省終わり。そのうちまたやるわ。
俺は自分に都合の悪い事は忘れる生き物なのさ。
魔物苛めはこの世界での数少ない娯楽だし、取り上げられたら退屈で死んでしまう。
夏季休暇が終わったので、この後のイベントは前も話したように学年別闘技大会が行われる。
闘技大会は一年に二回。前期に学年別、後期には全学年でやる事になるので学園生活中合計六回開催されるわけだ。
とはいえ、このゲームは一年間の出来事のみで構成されるので二学年に進級した後の事は考えなくていい。
よって、ゲーム中にプレイヤーが実際に参加する闘技大会はたったの二回である。
この闘技大会はイベントではなく普通に戦闘に入り、これまでプレイヤーがどれだけベルネルを鍛えて来たかが試される。
決勝ではマリーというめっちゃ強い娘と戦闘になるが、大半のプレイヤーはここで負けて準優勝になる。
一周目でマリーに勝つのは全ヒロインを放置して自由時間の九割以上を自主練に使う必要があるとまで言われる、とても強いキャラクターなのだ。
(しかし味方になるとベルネルより弱くなる。お約束だ)
言うまでもなくこのマリーも攻略可能ヒロインの一人だ。
青髪セミロングのクーデレで、ファンからの人気が高い。
クーデレはいつの時代も強いのだ。
闘技大会が終われば、戦績に関係なく聖女を始末しようとした魔女の部下が襲撃してきて中ボス戦に入る。
この時出て来る奴は大魔のなり損ないの雑魚なので知能は低いし実力も、この時点のベルネル達で十分倒せる。
しかもこの戦闘ではマリーも味方に加わるので余程ベルネルが弱くない限りは余裕で勝てるだろう。
で、この中ボスなんだが……知能が低いので、本物の聖女のエテルナを無視してエルリーゼ(真)を狙う。
この大会では来賓としてエルリーゼ(真)が招かれており、特等席にいるのだ。
この時点ではエルリーゼ(真)は偽聖女と発覚していないのでベルネル達は騎士の義務で中ボスの前に立ちふさがり、エルリーゼ(真)を守る。
『ここで守らずに死なせておけば……』とファンは声を揃えて言う。俺もそう思ったがこれは強制イベントだ。
わざと負ける事でエルリーゼ(真)を何とか殺そうとしたプレイヤーも多い。俺もそうだ。
しかしこの戦闘で負けても、結局中ボスはレイラが倒してしまうし、しかも負けるとマリー関連のフラグが根本からへし折れて以後登場しなくなってしまうのでデメリットしかなかった。
つまり、この襲撃イベントはゲーム本編と変わらずに俺を狙ってくるのは間違いないだろう。
だが所詮は大魔にもなれない、なり損ないの雑魚助だ。俺の敵じゃあない。
ま、出てきたらソッコーでパパッと始末してそれで終わりよ。
朝のラジオ体操の代わりくらいにゃなるかな? ってレベルだ。
いや、代わりにもならないか。ラジオ体操は健康にいいからな。
問題は……そうだな。一応、中ボスが初登場した時に演出でモブ騎士が何人か挑んで吹っ飛ばされて死ぬくらいか。
本当、モブに優しくねーなこの世界。
「エルリーゼ様、そろそろ始まります」
レイラに言われて俺は一時思考を中断した。
あ、もうそろそろ行く時間?
そんならまあ、さっさと行こうか。
俺にとっちゃあドングリの背比べみたいな戦いだが、見て楽しめない事はない。
それに男の頃はこれでも格闘技の試合とか見るのは嫌いではなかった。
今回やるのは格闘のみならず剣も魔法も何でもありの試合だが、台本ありのドラマとは違うガチのチャンバラを見れるので結構楽しめる。
余談だが俺はこの闘技大会には十歳くらいの時から来賓としてお呼ばれしており、もう何度も見ている。
レイラに案内されて着いた場所は、学園の運動場横に造られた特設闘技場だ。
正方形に切り出した石を並べて造り上げた四角いリングの広さは、端から端までで大体30mくらいだろう。
やや高めに作られており、客席からは見上げる構図になる。
その周囲には塀が建てられ、塀の向こう側には椅子がズラーッと並べられていた。
イメージ的にはプロレスのリングとかに近いかもしれない。
で、一番後ろにはブロックを高く積み上げる事で作られた高所に、他の席よりも豪華な椅子が設置されていた。
あれが俺の座る特等席だが……ちょっと遠いんだよなあ。特等席って言ったら普通最前列だろ。
何で最後尾にしてんの? 馬鹿なの? 嫌がらせなの?
どうせなら前行こうぜ前。
「申し訳ありません。これは安全上の問題でありまして。
何かの間違いで魔法や、生徒の手を離れた剣が飛んでこないとも限りませんから、エルリーゼ様には安全な位置での観戦をしていただきます」
ブーたれてみたものの、あえなく学園長に諭されて撃沈。
ちなみに学園長は四十歳後半のおっさん。
先代の聖女の筆頭騎士だった男で、それだけに周囲からの信頼は厚い。
実は裏で魔女と繋がっていて、後で戦う事になるボスキャラの一人だ。
要注意人物の一人だな。
名前はディアス・ディアス。ファーストネームがディアスで家名もディアスだ。
日本人で言えば山田山田みたいな名前である。
しかし変態クソ眼鏡といい、この学園にまともな教師はおらんのか?
かくして始まった闘技大会は、まあそこそこ楽しめた。
前世基準で言えば『人間の動きじゃねえ』ってくらいに全員が出鱈目な動きをしてビュンビュン動き回ってバンバン魔法撃って、かなり見応えのある試合だと言える。
しかし今の俺基準で言うと……どうにも、レベルが低く見えてしまうな。
俺が普段見る騎士って基本的にレイラとかの近衛騎士ばっかだから仕方ないんだけど、こういうの見るとレイラって普通にめっちゃ強いんだなと思うわ。
というかレイラは学生の時から結構凄かった。在学中は全部レイラが優勝してたからな。半端ねえわ。
おい誰だよ、この有能をスットコとか呼んでるの。
おうスットコ、お前はこれ見てどう思うよ。
「私ですか? そうですね……今年はなかなかレベルが高い生徒が揃っていると思います。
私もうかうかしていられませんね」
ええ? ホントにぃ?
そりゃまあ、この前見たルティン王国の兵士とかに比べりゃ全員強いけどさ。
「特にあの四人……ベルネル、アイナ・フォックス、ジョン、そしてマリー・ジェットには光るものがあります。
ベルネルは技術は粗削りですが基礎能力で優れており、アイナ・フォックスは突出したものはありませんがよく研磨されています。流石は騎士フォックスの娘といったところでしょうか。
ジョンは確か元兵士でしたね。他の生徒よりも戦いというものを心得ているように見えます。
最後にマリー・ジェットは剣と魔法のバランスがよく、パワーはありませんが技術ならば既に騎士レベルでしょう。
私が思うに、今年は彼女が優勝候補ですよ」
レイラが名前をあげたのは主人公のベルネルと、強キャラであるマリーの他に、最近すっかり忘れていたアイナ・フォックス(本来は俺を暗殺しようとする子だ)と……後はモブAだな。
あのモブ、強かったんだ……。
それにしてもここに、本物の聖女であるエテルナが入っていないのが何とも悲しい。
まあ聖女の力に目覚めるまではエテルナってダメージ受けないだけで大して強くないから仕方ないけど。
決勝に進出したのはやはり、ベルネルとマリーだ。
まあ一周目でもここまでは来れる。
そして多くのプレイヤーがここで涙を呑む事になるだろう。
一周目のマリーを倒すのは本当に難しく、俺も初見プレイ時は負けたものだ。
TASプレイだと大根とかいうネタ武器で戦っても勝てるけど、あれは普通は無理。
まあこの世界でもベルネルは負けるだろうと思っている。
二周目以降のベルネルは前の周のレベルや技を全部引き継げるんだが、この世界のベルネルにそんなものを引き継いでいる気配はなかった。
この条件下でマリーに勝とうと思ったら、自由時間の大半を自主練につぎ込まなければならないが、そんな事をしていたらヒロインの好感度が全然上がらないし、イベントもスルーしてしまう。
…………。
あ。
そういやこの世界のベルネルって、そのネタプレイやってたわ……。
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