第十一話 現実世界の観察者達(前半)

 三度目ともなればいい加減慣れるものだ。

 俺は再び、男だった頃の俺に戻って狭いアパートの中で寝転んでいた。

 視点は相変わらず別人視点だが、まあいい。今回も憑依してやるだけだ。

 気のせいか前よりも身体は動かしにくいが、まあどうでもいいな。

 さて、この夢はどうせ長続きしないだろうしちゃっちゃと目的のものを見ましょうかね。

 スリープモードになっていたパソコンを起動させて、まずは動画を検索してみる。

 すると出るわ出るわ、『エルリーゼルート』の実況プレイに通常プレイ。

 その中でも一番再生数が多いものを適当にクリックして開いた。

 動画は丁度、あの学園での誘拐事件のイベントにさしかかっていたようで、ファラさんが繰り出す魔物との戦闘シーンに入っている。

 敵は画面を埋め尽くす魔物で、対しプレイヤー側が操作するのはエルリーゼ一人。

 しかし適当に行動を決めているだけで次々と魔物が蹴散らされていく。

 ちなみに戦闘BGMも汎用のものではなく、聞いた事のないものだった。

 これまさか専用BGMか? 随分豪華だなおい。


『クッソ強えwww』

『一撃でHP消し飛んだwwww』

『ちょっと待てやコラw こいつエテルナルートの最後の方に出て来るボスモンスターじゃねえかwww』

『俺がこいつ倒すのにどれだけ苦労したと思ってんだwwww』

『俺のトラウマが…………』

『エルリーゼ様強すぎだろwww』

『無双w』

『ドラゴンが溶けたwww』

『ダメージの桁おかしいwww』

『信じられるか……こいつ聖女じゃないんだぜ……』

『おいこれラスボスの取り巻きだった奴だろwww何で雑魚扱いされてんだよwww』

『敵の攻撃で全然ダメージ受けてねえwww』

『聖女は聖女自身の力か魔女の力じゃないとダメージ受けないから……』

『魔物は魔女の力を貰ったしもべだから軽減されるとはいえ、聖女にもダメージ通せるはずなんだよなあ……』

『こいつの攻撃、レベル99のベルネルでもHP3割くらい減るのにw』

『確かにこいつは聖女じゃないな……こんな化け物みたいな聖女がいてたまるか!w』

『もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな』


 まさに無双という戦いに、コメント欄は草まみれと化していた。

 へえー、ゲームで数値化するとこんなに強いんだ、俺。

 さっすが才能モンスターのエルリーゼの身体で毎日魔法練習ばかりやってただけはあるな。

 コメントの反応を見る限り、他のルートだとエルリーゼが戦闘に加わる事はないんだろうか?

 多分イベントとかで敵を倒すだけで、実際に戦闘参加する事はないタイプなんだろうな。

 その後は俺の知る通りにイベントが進み、エルリーゼが剣を腕で止めたシーンになった。


『あー、俺も初見プレイ時は傷を負わないから完全に騙されたわ』

『聖女だから傷を負わないと思ってたら、まさかのステータスゴリ押しだもんな』

『確かにこれはダメージ受けないわ』

『スットコさん、気付いてw その子聖女の特性じゃなくて単純にステータスが高すぎて攻撃効かないだけだぞw』


 何と言うか……こうして自分の行動を客観的に見るっていうのは新鮮だな。

 そしてイベントが終わり、エルリーゼが去っていく。

 その後は普通に学園生活を送るシーンが続いたが、やがてゲーム内で翌日の朝になって再びコメント欄がうるさくなった。

 その原因は……うへえ……。

 学園の制服を着て、ベルネルの教室の教壇にエルリーゼが立つ一枚絵が表示されたからだ。


『エル様転入ktkr!』

『うおおおおおおおおお!』

『初めて見た……』

『制服も美しゅうございます!』

『制服エル様とかあったのかw』

『四年も誰も発見しなかったルートなのに一枚絵に気合入りすぎてて草』

『イベントCG100%とは何だったのか』

『100%(ただし100%とは言ってない)』

『L様ルート入ったらCG部屋のCG解放率が今まで100%/100%だったのが100%/150%になってた』

『↑製作陣性格悪すぎん……?』

『100%(100%とは言ってない)』


 ここで動画は終了だ。

 次のパートはまだUPされていない。

 しかし……やはりというか、完全に俺の向こうでの行動がこっちではゲームとして反映されてるんだな。

 まあこれは夢だから、本当に日本でそうなってるのかは分からないが……これはただの夢でもないだろう。

 流石に三回続けて連動している夢っていうのは考えにくい。

 とにかく次は恒例のキャラ解説ページだ。どんな感じになってるかな。



【エルリーゼ】

 『永遠の散花』の登場人物。非攻略キャラクター。

 ……と発売から四年もの間思われていたが、とあるRTA実況動画によって攻略可能キャラである事が明らかになった。


 聖女と呼ばれる、魔女と対を為す存在。

 幼い頃は我儘だったが、ある日を境に聖女の自覚に目覚めて人が変わったように『誰かの為』に活動するようになる。

 聖女の名に恥じぬ圧倒的な魔力と剣術の腕を持ち、その戦闘力は作中最強。

 闇の象徴である魔女と対を為す光の象徴として、時にプレイヤーの前に現れて手助けをしてくれる。

 物語開始時に十四歳の主人公の前に現れて彼の闇の力を制御出来るように助力し、ペンダントを預けて彼の人生に大きな転機を与えた。

 その後、主人公が十七歳になった時に再会を果たすが、その姿は主人公の記憶の中の十四歳の姿のままであった。

 聖女は魔女と同様に殺傷されるまで死ぬ事はなく、若い姿のまま老化を止めてしまう。

 彼女の場合は他の聖女よりもその時期が早かったのだろうと言われている。


 聖女である彼女は魔女と聖女の力以外で傷を負う事はなく、素手で剣を受け止めても掠り傷一つ負う事はない。

 また、魔女の力に働きかけて浄化する事も出来る。

 魔物に襲われている場所があればどんな小さな村でも見捨てず自ら出撃し、傷付いた者がいれば分け隔てなく癒す。

 まさに聖女を絵に書いたような非の打ちどころのない少女だが、実は…………。



 実は……何?

 何かおかしいぞ。前と違ってこの先が空白になっている。

 それに文章そのものも前と微妙に違う。

 試しにマウスでスクロールしてみると、隠されていた文字が露わになった。

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