第35話 ケインの怒り

 レーニディア家とウエイランド商会は全ての件に繫がっていた…。


 レーニディア家は国の乗っ取りを、ウエイランド商会はその後に発生する利権が目当てだったか…。


 沸々とこみ上げる怒りを抑えながらケインは確かめる必要があった。

「ウィニーはどこだ?」


 ミルブラスは指をさす。囲んでいた騎士たちが退いた先に何かある。

「ああ。あそこだよ。隠蔽魔法がかかっていたね」


 ミケは走り寄って隠蔽魔法を解除する。そこには体を八つ裂きにされたウィニーがいた。

「!」

「にゃ!」

「あーはっはっは!ごめんごめん。君たちがくるって聞いたからもう用済みだと思ってね?最後まで泣いていたよ。お姉ちゃん!お姉ちゃん!てね?はーっはっはっは!」


 ミケはウィニーを抱き起こす。首は胴体と繋がってはいるが、胴体には複数の斬撃を受けており四肢は切り落とされている。息はあるようだ。いやかろうじて死んでいないと言ったほうだ正しいだろう…。

 慌てて回復魔法を使うミケ。しかし効果はあまり出ていない。

「ケイン。あたしの回復魔法では救えないにゃ。ララは?ララが居れば…」

「ミケ!落ち着け。これを!」

 取り乱すミケの言葉を遮るようにケインはアイテムボックスから小瓶を一つ取り出す。


 小瓶の中には虹色に輝く液体が揺れていた。

「これは…エリクサーにゃ?」

 頷くケイン。取り囲む者たちがざわつく。


 エリクサーはあらゆるもの治す奇跡の薬だ。万病も四肢の切断も全て完治できる。多くの者たちが探し求めているがおそらくここ20年は1本も市場には現れていない。悪い予感がしていたケインは念のためということで『狐』マスターに頼み先ほど受け取っていた。なぜマスターが手に入れられるかはケインも知らないがいまはどうでもよかった…。


 ミケはエリクサーをウィニーに振りかける。たちまちのうちに全身の傷や切り落とされた四肢が修復されていく。さらに口に含ませる。ウィニーの全身が光り輝いた…。


 元の姿を取り戻したウィニーは目をぱちぱちさせながらミケを見ている。ミケはウィニーを抱きしめた。

「ウィニー!よかったにゃ!」

「お姉ちゃん!一人で外に出てごめんなさい」

「いいにゃ!もう大丈夫にゃ!」


 呆気に取られていたミルブラスは我に返って叫んだ。

「バカな!エリクサーなどあってたまるものか!殺せ!全員生かして返すな!!」

 ボーグもそれに追従する。

「その猫の女はおれの者だ。他はくれてやる!」


 ケイン達の周囲に包囲網が出来る。生きてここから三人を出す気はないらしい…。


 薄暗い巨大な倉庫の中、ケインは周囲を見渡した。


 騎士と用心棒が30人程で取り囲む。ミケはウィニーを庇うような立ち位置をとった。


「ミケ。その子を頼む」

「任せるにゃ!」


 ケインは黒い長剣を抜き払う。許せなかった…。そして裂帛の気合を込めて言い放つ。


「今おれが名乗ればお前達には震えがくるだろう。だが今回だけは、今回だけはおれは怒った!怒ったぞ!全員相手になってやる。束になってかかってこい!」


 そう言い終わった瞬間、ケインは武器を構える目の前の敵に悠然と飛び掛かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る