第31話 男の正体
襲撃者を捕縛したケインはララに頼んで手を両断した者と両腕を斬り飛ばした男の治療を行った。ララの回復魔法でどちらもある程度の機能をの残す形で復元されたはずである。
ケインは今後の方針を決める。
「さてと…、納屋の3人とこいつらを王立騎士団に引き渡そうと思う。そして今回は騎士団長に来てもらおう。騎士団長ならこの中に貴族家付きの騎士が混じっていれば分かるはずだ」
何人かが狼狽える仕草を示した。
襲撃者の中に貴族家付きの騎士がいるとなればその貴族家が襲撃に関与していることの証拠となる。そして騎士がケインを襲撃した事実。これらがあれば貴族と言えども知らないでは済まされない。貴族の騎士はその家の主人に忠誠を誓っている。主人の指示以外では動かないのだ。
もしこの騎士と思われる者達がレーニディア家所縁の者であったら…。
納屋に捕えた者は自分がウエイランド商会の者だと白状していること、手先として使われた獣人の子供ウィニーがレーニディア家管轄下の孤児院で暮らしていたこと、これら事実と併せることでレーニディア家とウエイランド商会が盗賊を雇って王都を騒がしていることの疑いがより深くなるということになる。
ケインは騎士団に向けて伝言鳥を飛ばす。夜明けすぐに騎士団が来てくれるだろう。ケインは捕縛された者たちを見張りながら朝を迎えるのだった。
夜が明ける。春の王都の朝は清々しく美しかった。
「ケイン。朝ごはんにゃ!」
「お召し上がりください」
見張りを続けるケインにミケとララが朝食を持ってきてくれた。まずはコーヒー。それと焼きたてのパンから湯気が立ち昇り、乗せられたバターが溶けかけ、そこにたっぷりと蜂蜜がかけられている。
「ありがとう。これは美味そうだ」
ぐったりしている襲撃者を他所にコーヒーを流し込む。徹夜明けのコーヒーは強烈だ。しかしこれで胃が目覚めた。一気に空腹を感じたケインはパンを齧る。パンの香ばしい風味の上に、バターの旨味と蜂蜜の甘さが混然となり見事なものだった。
「美味い!」
満足げに食べているところに騎士団が到着した。
「殿下。お待たせしました」
そう言って一礼をしたのは王立騎士団長のヴィンス=フリージア。若干35歳にして王都の治安を取りしまる王立騎士団の団長を務める俊才である。
彼の父も騎士であり、かの戦争の折にも王都の治安維持に努めた優秀な騎士であったと言われている。
息子である彼も幼き頃から騎士に憧れ、研鑽を積み、騎士学校を首席で卒業。王都の治安を治める王立騎士団に入隊し頭角を現していった。そして先代騎士団長が急病で亡くなった際に最年少で団長に就任したのである。
『あの親子の忠誠に疑う余地などない』と称される勤勉実直な男であった。
「ヴィンス。無理を言ってすまない」
ケインは答える。『殿下』と呼ばれたことにざわつく襲撃者。騎士と思われる者たちは誰を相手にしたのか分かったようである。ケインと切り結んだなかなかに剣を使えた男は顔面蒼白であった。
「どんでもないことです。殿下を襲うなどという愚かな行為に及ぶ者の顔を確認してほしいとのことでしたがその者とは?」
「こいつだ」
そう言って先夜、両腕を斬り飛ばした者を指す。
「………殿下………」
男を見たヴィンスの様子がおかしい。最悪の予感の方が実現するのか…。ケインはヴィンスの答えを待った。
「この者の名はハリル。ハリル=ロンバルディア。レーニディア家付き騎士隊の副隊長を務める者です」
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